富山市の路面電車・バスで気づいた「モビリティ」の本質。移動手段の選択肢は地域の幸せにつながるか

− 移動手段の「魅力」から考えるMaaS −


先日、仕事で富山市に行きました。

富山市内の交通機関の特徴といえば路線の充実した路面電車。乗車は1回210円ですが、650円で市内の路面電車とバスの1日乗り放題切符が買えます。

富山駅の観光センターでゲットし、6系統、3つの終着駅(駅の北側方向1駅と南側に2駅)と1つの環状線の4ルート全てをまわりながら、市内を一通り見ることにしました。

■富山市「バス・路面電車・シェアサイクル」さまざまな交通手段

富山市内には路面電車のほか、市内バス、「まいどはやバス」というコミュニティバスがあります。また、「アヴィレ」というシェアサイクルがあり、市内のあちこちにステーションがありました。

加えて、川や運河があるので、富岩水上ラインという運河クルーズや松川遊覧船といった水上の移動も楽しめます。

さらに日本海に面した岩瀬地区では、グリーンスローモビリティ(通称「グリスロ」)も走っていました。

出典:富山市「グリーンスローモビリティ運行社会実験」( https://www.city.toyama.toyama.jp/katsuryokutoshisouzoubu/kotsuseisakuka/greenslowmobility_boulebaas.html )※岩瀬地区での運行社会実験は終了しています

グリスロとは時速20キロ未満で行動を走る電動の公共交通で、ゆっくり走る地域の足として全国各地で期待されています。

自家用車よりはゆっくりですが、ちょっとした外出や買い物など、それほど急がない日常生活の移動において、歩くよりは早くて楽です。国土交通省がその普及を推進するなど、新しい交通手段として広がりを見せています。

■富山市は移動手段が多いからこそ「歩きやすい」

富山市内の交通を概観した上での全体的な感想は以下のとおりです。

まず、路面電車やグリスロ、バスは路上から直に乗れるため、高齢者や子ども連れの人など、移動がしにくい人にとっても、楽に乗れるという点。

都心部では公共交通が発達しており、自家用車がなくても移動できるので、免許返納した高齢者でも代替交通手段があるじゃないかと言われることがありますが、「高齢になって足腰が弱ってきたから自家用車」という声を、実はよく聞きます。

足腰が弱ってくると、階段の上り下りや長い道のりの乗り換えなどは苦痛なのです。バスや路面電車といった、徒歩での移動に近い感覚のモビリティは、移動弱者に親和性が高いといえます。

また、多様な移動手段が充実することでかえって「歩く」という行動を誘発しているように見受けられました。いつでも乗り物に乗れる安心感が、一駅手前で降りたりちょっと寄り道をしたりという行動を誘発し、街の回遊性を高めている可能性があるのです。

特に路面電車は比較的短距離で停車駅があること、通常の電車とは異なり信号でも止まることなどから、移動中の景色を飛ばしません。手軽でユニバーサルな移動手段が多いことが、かえって「歩ける環境」を創出しているのは興味深いことです。

■富山市の路面電車は「移動手段」以上の魅力がある

さらに、今回実感したのが、老若男女問わず全国に路面電車のファンが多いことです。富山市内を走る路面電車は、旧型のレトロな車両と、近代的でスタイリッシュな車両が走行しているのですが、そのどちらもがワクワク感をもたらす移動手段として捉えられています。

実際乗ってみて、レトロな車両と、近代的な車両のどれに当たるかは、ちょっとしたお楽しみでした。

乗るなら素敵なデザインのものに乗りたいし、見るだけでもワクワクしたい。そもそも、移動するだけが目的なのであれば、自家用車もせいぜい数種類でよいわけです。乗り物のデザインは、「移動手段」にさらなる魅力としての付加価値を与える魔法のようなものかもしれません。

町の中をゆっくり走るユニバーサルな移動手段は、多様な人を巻き込みながら歩行や町の再発見の機会を創出し、乗り物自体の魅力でもワクワク感をもたらしているようです。スピードが遅いことがもたらす価値、これは「移動は早ければ早いほどいい」という従来の価値観に一石を投じるものかもしれません。

実は、富山駅には南北に路面電車があり(南が「市内電車」、北が「富山港線(旧富山ライトレール)」)、これらがつながったのは2020年と、比較的最近です。

富山市が2021年秋に実施した、利用状況の調査を通じた南北接続の効果検証によると、接続前と比べて富山駅の南北をまたぐ利用者は平日で2.4倍、休日で2.8倍の利用増が見られ、街の回遊性も高まったそうです。

■モビリティが地域の満足度に及ぼす影響

今日、MaaS(Mobility as a Service)という形でのモビリティ提案がなされています。

国土交通省によるとMaaSとは「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスです。

出典:国土交通省「MaaS とは」( https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/ )

観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段」とされています。少々定義が長いですが、つまりは多様な移動手段を一括で使えるようにし、利便性を高めるものといえます。

地域における人の移動は血液に似ています。ドロドロ(渋滞)でも貧血(人やモビリティが足りない)でもダメで、適度に流れていることが重要です。

こうした中、移動手段が多様で「選択が可能」であることは、地域の満足度を高めると考えられます。

人の幸福感に影響する要素として「自己決定」というものがあり、「自分で選べる」ということは、人の満足度に大きく影響するとされています。移動においても同様に、様々な交通機関から自身のニーズに合わせて「選べる」ことは移動の満足度向上に影響しているといえるでしょう。

■乗る車両モデルを「選ぶ」のも幸せ

路面電車の全ての路線・全ての駅をコンプリートして富山駅に降り立ち、さあ海産物でも買って帰ろうとしたら、鉄道好きの随行者が「あの車両に乗ってない」と小声で呟きました。見れば、風情あふれるレトロな車両が駅前で入線待機しているではないですか。

「車両モデルを選ぶ」という選択行動もまた、移動満足度に影響しています(折角なので乗りました)。

そんなこんなで、すっかり思考の「鉄分」が上がってしまいましたが、できれば血中の鉄分上昇の方がありがたいということで、現地ではせっせとホタルイカも食しました(ホタルイカ、大漁だそうです)。

■参考資料

  • 富山市観光協会 とやまねっと(富山市の観光公式サイト)「富山地方鉄道」( https://www.toyamashi-kankoukyoukai.jp/?tid=100846 )
  • 富山市「グリーンスローモビリティ運行社会実験」( https://www.city.toyama.toyama.jp/katsuryokutoshisouzoubu/kotsuseisakuka/greenslowmobility_boulebaas.html )
  • 国土交通省「MaaS とは」( https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/ )

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