10月から最低賃金アップも「新たな年収の壁」に悩むパートタイマー。お金のために抑制も
2022年09月20日 17時50分LIMO

10月以降、パートタイムとして働く方の給与事情が大きく変わることをご存知でしょうか。
一つは最低賃金の引き上げ、もう一つは社会保障の拡大です。どちらも聞こえはいい制度改正ですが、現実には「働き方を抑制する」という現象も出ることが懸念されています。
それぞれの制度改正ポイントを整理するとともに、起こりうる逆転現象について考えていきましょう。
■10月から最低賃金が引き上げへ
厚生労働省は2022年8月23日、地方最低賃金審議会が答申した2022年度の地域別最低賃金の改定額を取りまとめました。
こちらによると、10月1日から10月中旬にかけて各地域の最低賃金が引き上げられます。

出所:厚生労働省「令和4年度 地域別最低賃金 答申状況」
全国平均は31円の引き上げで、過去最高に。33円の引き上げは5県にものぼります。
パートタイマーの方は、最低賃金ギリギリのラインで働く方も少なくありません。今回の改正で収入がアップする方も多いと予想されます。
しかし、現実的にはそううまく運ばない方もいるようです。それが、扶養内で働くパート主婦。その理由を見てきましょう。
■パート主婦に立ちはだかる年収「106万円の壁」「130万円の壁」
パートとして働く主婦の中には、「夫の扶養内で働く」という方も少なくありません。
扶養には2種類あり、「税金の扶養」「保険の扶養」に分かれます。どちらもその年収を超えると手取りが減るという逆転現象が生じるため、「年収の壁」と言われるようになりました。
中でも保険の扶養は、この10月の制度改正により多くのパート主婦を悩ませています。
■2022年10月から社会保険の適用要件が拡大
働く方の年収が一定額以下であれば、夫の保険の扶養に入ることができます。しかし、収入が一定以上になると勤務先の保険に加入することになり、保険料が発生します。
保険料は給与から天引きされるため、せっかく収入があがっても手取りが減ってしまうのです。
この「社会保険に加入する要件」というのが、2022年10月に拡大することになりました。

出所:厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
- 従業員101名以上の企業で働く人(2022年9月までは501人以上)
- 収入が月8万8000円を越える人
- 週20時間以上働く人
- 雇用期間の見込みが2か月以上の人(2022年9月までは1年以上)
- 学生ではない人
上記の要件に該当する場合、勤務先の保険に加入しなければなりません。
これまでは501人以上という大企業に適用されていた「年収106万円の壁」が、中小企業にも適用されたということです。さらに2024年(令和6年)10月には、従業員数が51人以上の事業所も対象になる予定です。
年収が130万円を超えると配偶者の保険扶養に入れないため、抑えている方は多いです。そんな方も、事業所の規模によっては10月から106万円が壁になる可能性があります。対象外であっても、最低賃金があがることで130万円を超えてしまう可能性が出てくるかもしれません。
■「時給があがるなら勤務時間を減らさないと」パート主婦の悲鳴
本来、最低賃金引き上げによる賃金アップは喜ばしいことです。誰でも収入が増えるのは嬉しいですよね。
しかし、現実的には年収の壁が待ち受けています。手取りが減るというデメリットを前にすると、総額が超えないように調整する動きが出て当然に思えます。
勤務時間を短くすれば、事業所によってはシフトの変更が余儀なくされます。場合によっては新たな人手が必要になることもあるでしょう。
このように、パートが多い現場では10月に向けて混乱が生じている状態です。
しかし、ここで考えたいのは「社会保険に加入するのは本当に損なのか」という点です。
■パートが社会保険に加入するメリット
パート主婦が社会保険に加入すると、保険料を支払うことで目先の手取りが減ってしまうデメリットがあります。
ただ、知っておきたいのは無意味なお金が取られているわけではないということ。
引かれる分、手厚くなる保障があるのも事実なのです。くわしく見ていきましょう。
■メリット1. 将来の年金が増える
支払う保険料は、厚生年金保険料と健康保険料に分かれます。厚生年金に加入して保険料を納めることで、将来の年金を上乗せすることができるのです。

出所:厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
配偶者の扶養に入る場合は満額でも約78万円ですが、例えば年収120万円の方が10年加入すれば月額5000円、年収150万円の方が20年加入すれば月額1万2900円を上乗せできます。
将来の年金を不安視する方も多い昨今、年金を増やせるのは大きなメリットと言えます。また障害年金や遺族年金の保障も手厚くなります。
■メリット2. 健康保険の保障内容が充実する
配偶者の健康保険の扶養に入っている場合、傷病手当金や出産手当金などが対象外です。病気やケガ、出産で仕事を休んでしまうと無収入となりますが、自分の健康保険であれば給与の約3分の2が保障されます。
こうした公的保険が充実していれば、民間の保険で備える分も必要最低限で済みます。毎月の保険料を軽減できるかもしれませんね。
■まとめにかえて
最低賃金が上昇するものの、年収の壁が変わらないことには「扶養内で働くパート」の収入底上げにはつながりません。
「扶養内で働いてずるい」という意見もあるようですが、こうした雇用形態で募集する事業主と働きたい人のメリットが一致する以上、働き方は尊重されるべきでしょう。
お子さんの年齢や家族の介護状態によって、勤務時間に制約が出る家庭も多いです。この場合、できるだけ手取りが高い働き方を選ぶのは当然といえます。
一方で、「手取りが減る」というデメリットのみで社会保険の加入を見送っている場合は、メリットも多角的に考えるべきかもしれません。
制度の内容をしっかり把握した上で、我が家に合う働き方を決めていきたいですね。
■参考資料
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました」( https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27516.html )
- 厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」( https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/dai1hihokensha/ )
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