コロナ後、中小企業は2つに分断される〜中小企業政策における緊急対応から再構築まで


現在、世界各国の政府がコロナ危機に対処して緊急対策を打ち出している最中です。しかし、先行きは世界的な景気低迷が予想され、コロナ危機後の世の中は一体どうなっていくのかと盛んに議論されています。

今回は、世界中の中小企業を取り巻くコロナ危機後の情勢を想像しつつ、中小企業政策・施策のあり方について考えてみたいと思います。

■当面2〜3年ほどのフェーズ区分が必要

まず、今後のことを考える際の基本的な枠組みとして、コロナ危機前、緊急対策、景気後退、景気回復、そして、再構築、コロナ危機後、という時期に区分する必要があるでしょう。

そのように区分すれば、それぞれのフェーズに合致した中小企業政策・施策というものが必要になるであろうことが容易に想像できます。

そして問題は、コロナ危機前に形成、実施されてきた中小企業政策・施策を、コロナ危機後も再び採用することが適切となるどうかです。言い換えれば、中小企業政策・施策を検討する上での前提条件となる社会システムや中小企業経営が、コロナ危機前とコロナ危機後でいかに変容していくか、あるいは以前と同じ状況に戻るのか、という疑問です。

■深刻になる財源不足という問題(緊急対策〜景気後退)

まず、現在は「緊急対策」のフェーズですので、世界各国の政府は通常予算とは別枠で財源を迅速に確保することが求められています。

各国政府のコロナ対策予算は、企業支援、雇用保険・失業対策、自営業者・フリーター支援、子育て世帯支援等を含みますが、主要国では米国200兆円、ドイツ129兆円、スペイン23兆円、フランス5兆円、イタリア3兆円、といった概況です(参考:六辻彰二氏 2020年4月6日付け記事( https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20200406-00171637/ ))。 

そのうち中小企業支援施策については、米国の中小企業融資(3,500億ドル、雇用を維持すれば返済不要)、ドイツの政府系金融機関からの借入額90%減免、スペインの中小企業向け融資11兆円、フランスの35兆円の融資枠追加、イタリアの特別融資・借入返済猶予などが挙げられます。

また自営業者・フリーターに対しては、特例としての失業保険適用(米国、スペイン)、事業規模に応じた100万円〜180万円給付(ドイツ)、17.5万円給付や賃料・公共料金の支払猶予(フランス)、7万円給付(イタリア)などがあります。

財源については、各国とも国債発行などに頼ることになります。すでにドイツでは、2005年のメルケル政権発足以来、「国債の新規起債ゼロ」という財政規律の継続を断念し、7年ぶりの新規国債発行に踏み切りました。ドイツの動きは象徴的です。このフェーズまでは、とにかく手遅れにならないよう国民経済を速やかに救済しなければならないからです。

次の「景気後退」のフェーズでも、引き続き、同様の施策や伝統的な景気浮揚策が求められるでしょう。

したがって、「景気後退」フェーズが終わるまでは、世界各国の政府はある程度、社会主義的なシステム(民間銀行に任せず政策金融機関から直接、中小企業に融資を行う、各種補助金を増やすなど)が拡充され、その結果、政府債務は増加することが予想され、国によっては財源不足が深刻化する心配があります。

特に途上国では財源不足の問題はかなり深刻ですが、国際機関や財政基盤が弱体化した主要先進国からの資金援助にも限界があるでしょう。そんな中、親中国であるアフリカ諸国でも中国に反旗を翻すコロナ訴訟が出始めています。

たとえば、ナイジェリアの『デイリーポスト(Daily Post)』(4月26日付)によれば、ナイジェリアの法律家グループは、新型コロナウイルス感染症の蔓延に関し、中国に対して賠償金2,000億ドル(約21兆円)を請求する訴訟を起こしました。

今後、そのような損害賠償がどれくらい認められるか状況を注視していく必要がありますが、少しは政府債務の膨張を抑制することにつながるかも知れません。

■デジタル化の加速(景気回復〜再構築へ)

今後、「景気回復」の時期が1年後になるか、2年後になるか、不透明です。そして、今回のコロナ危機を境にして社会が変容しているようにも感じられ、いずれ社会システム、人・企業の行動パターン、期待されるサービスなどが「再構築」されていくのではないでしょうか。

中小企業政策についても同様です。「緊急対策」〜「景気後退」のフェーズでは、たとえば、中小企業のキャッシュ不足に応じた政策融資・信用保証増枠、雇用維持策(補助金)、増大する不良債権を抱える銀行への公的資金注入など、伝統的な施策が功を奏すると思います。

しかし、コロナ危機後を見据えると、伝統的な中小企業政策・施策パターンでは適合しなくなるかもしれません。その前提条件となる社会の変容としては、「デジタル化の加速」が考えられます。

身近な例で言えば、コロナ危機前はテレビ会議・ウェビナーなどやったことがなかった人々も必要に迫られ、在宅ワークに慣れ始めています。

テレビ会議の場合、アポとアポの間の移動時間がないため効率的に予定を入れられるので、出勤・移動が無駄に思えてきます。そうなれば、出張(特に、コストが割高な海外出張)の目的は何なのかと問い直され、出張頻度はかなり絞られてくるでしょう。

現業職でないホワイトカラー・管理職・研究職の仕事などは、突き詰めればほとんどオンライン化できますし、そのほうがデータに基づく業務管理もしやすくなるでしょう。この辺りは、以前のような環境には戻らないのではないでしょうか。

一方、本質的にデジタル化しやすい金融業界においては、今回のコロナ危機がデジタル化の触媒になるのではないかという議論が盛んに行われています。

コロナ危機後は、デジタル世界に金融エコシステムが構築され、ウェブ上のマーケットプレイス型プラットフォーム、人工知能・機械学習活用型金融サービス、オープンバンキング、新たな形態の金融機関(例:デジタルオンリーバンク)や貸出事業者(alternative lender)なども形成されていくでしょう。

そうしたデジタル世界とは別に、政府による中小企業向け政策金融や信用保証だけが、デジタル化の波に取り残されていくのでしょうか。

各国のデジタル環境の発展度合いによって差が出てくるでしょうが、デジタルマインドセットを持つ若手経営者など新しい世代の中小企業は、遠方の支店にわざわざ訪問することを余儀なくされるような金融支援を敬遠するに違いありません。

これはコロナ危機前にはまだまだ先の話だと勘繰っていましたが、コロナ危機後に、そうした未来が思っていたより早くやってくるのではないかと感じています。

■中小企業の分断と支援政策

中小企業と一口に言っても実に様々な業種があります。それが中小企業の特徴でもあるわけですが、コロナ危機後の未来像を考えると、グローバル経済とは一線を画し縮小均衡なリアルのローカルマーケットに生息する中小企業と、膨張するデジタル世界で真にグローバル化する中小企業とに、大きく分断されることになるのではないでしょうか。

たとえば、街のパン屋さんはご近所の人々をお客に、日々美味しいパンを作り、それを食べてもらうことで笑顔になってもらう。あくまでローカルに徹します。

一方、何らかのデジタルサービスを提供する中小企業、あるいは、提供するサービスがほぼオンライン化できるような中小企業は膨張するデジタル世界(例:Open Business Council( https://www.openbusinesscouncil.org ))に生息することになります。

ブロックチェーン技術に支えられた分散型プラットフォームでは、グローバルにあらゆる商取引が瞬時になされます。また、人材は世界中から採用できます。金融取引や資金調達も低コストで迅速に行われるのでビジネスの効率性が一気に高まってくるでしょう。

たとえ中小企業であっても、デジタル世界の住人となり、その世界で完結するようなビジネスモデルができれば、グローバルビジネスの可能性が無限に広がりますし、社員がコロナ感染に怯えながら通勤や仕事をすることも避けられるわけです。

どちらが優れているとか劣っているということではなく、ビジネスの性格や対象マーケットによる違いだけです。

そう考えると、コロナ危機後の未来では、中小企業政策・施策は支援対象を完全に2つに区分した上で検討すべきということになるかもしれません。

特に、デジタル世界に生きる中小企業に対する政策支援については、政府による中小企業支援サービスそのものを徹底的にデジタル化するなど、過去のパターンに囚われない斬新なアイデアを生み出していかなければならないかもしれません。

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