いまさら聞けないDX、結局は私たちの何が変わるのか

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今回は、よく耳にするようになったけれども、まだよくわかっていない熱量の高いキーワードについて、専門家に話を聞いていきます。今回はクラウド上でのシステム開発に詳しい、クラウドエース株式会社取締役会長の吉積礼敏さんに話を聞いていきます。

■DXに対するよくある誤解とは

――DXが話題です。DXとは何を指し、どのようなものなのでしょうか。

DXとはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略です。Trans(トランス)を“X(エックス)”と略すことが英語圏で一般的だからということでDXと略されています。

DXというのは単なる業務のデジタル化やペーパーレスのようなことでは無く、デジタル化の力によりビジネス自体を変身(脱皮させるレベル)させることを意味します。

皆さんがよく誤解している意味と区別するために言い換えると、デジタルに向かってトランスフォームすることでは無く、デジタル化によりビジネスをトランスフォーム、させるということです。

くどいかも知れませんが、あえて英語を交えて書くと「トランスフォーム to デジタル」では無く、「トランスフォーム by デジタル」です。

■DXで私たちの生活は既にこう変わった

――DXが普及していくと、私たちの生活や仕事の仕方はどう変わっていくのでしょうか。

新型コロナウイルスの影響もあり、現在私たちの生活様式などは変わって行っている最中だと思います。

その中でも特に顕著なのは、私たちが必要としているのが、商品では無くサービスを軸にあらゆるものを捉え直した形になっていくと思われます。

たとえば、会議というものを捉え直した場合に、必要なのは顔を見た会話であって物理的に一緒に居る必要性は低いということです。オンライン会議システムが一気に成長したのは皆さんもお感じのことかと思います。これは会議という業務や仕事をDXし、また移動をも取り払うという変革をした例です。

オンラインショッピングも購買行動をDXした例とも言えるでしょうし、生活や仕事について本質的に必要なもの・点に絞り込まれて新しいサービスが登場してくると思われます。

■誰がDXをうまく活用しているのか

――DXをうまく取り入れた企業や具体的な例があれば教えてください。

サービスとしての評価は様々あるかとは思いますが、新価値創造型DXとしては、資生堂のOptune(オプチューン)は良い取り組み事例だと思います。

利用者がスマホアプリで肌写真を撮ると、肌の状態と天候等を考慮して最適な美容液を調合してくれるIoT製品です。商品を売り場で売るのではなく、サービス化する。そして、それに伴い、業務プロセスも大幅にトランスフォームしていると想定されます。意欲的な取り組みだったのではないでしょうか。

また、海外の例ですが、業務改革型のDXとしては、中国の大手ECの京東商城(JD.com)の完全無人倉庫があげられます。商品の入荷、棚入れ、ピッキングから、梱包、積み込みまですべてロボットが行うという完全無人の倉庫です。

さらに配送のトラッキングもできるようにしたことで、購入者は、時間単位での配送指定も行えるようになったそうです。既存の業務のあり方をがらりと変えた良い事例だと思います。

■日本のDXを先に進めるのは誰なのか

――DXを推進していくのは、誰なのでしょうか。単に利用者が求めれば普及するのか、それともIT環境を事業者に提供するSIと呼ばれるシステムインテグレーターでしょうか。

DXを推進する主体は、基本的には業務改善や新規事業に取り組む事業者になります。もちろん商品やサービスに関係することであれば消費者や利用者の存在を無視することはできないでしょう。

また、SIerはそれを助ける存在でしかありません。アドバイスをする立場のコンサルタント等も一端を担うことにはなりますが。DX自体はビジネスそのものを変革させる必要がありますので、そのアイディアは第一義的には事業者から出てくるものであろうと考えます。

しかし、そのSIerであったり、SIの仕事の仕方も変わっていかなければDXの進展というのも大きく期待できないと考えています。これまでのSIのあり方が「SI 1.0」とすれば、今後は「SI 2.0」へと進化していく必要があるともいえます。

■DXは本物の潮流なのか

――そもそもなのですけれども、これまで DX が普及してこなかった要因があるとすればそれは何でしょうか。そして、今回は以前と比べてどのような条件がかわってきているのでしょうか。

大きな要因として、変革をしなくても売上が立っていたこと、そして企業の縦割りの文化があると思います。実態としては、ぼちぼち売れているので、変革に対して切迫感がなかったということでしょう。

また、これまでのやり方、つまり部署ごとに役割が明確にわかれていて、それぞれ自分たちの仕事だけをやっていればよかったわけです。これが縦割りにつながっていました。

DXでは、例えば、製造業であればデジタル技術を使って、どのように全体の製造プロセスを効率化・スピードアップするか、どう顧客に届けるまでをスピードアップするかを、全社横断的に考える必要があります。

ところが、これが大手企業であればあるほど、これが難しいのが実情です。ぼちぼち売れているので、各部署が既存の業務で忙しくてそんな検討をする暇がない。そして全社横断的に変革を実行できるスキル・権限を持ったチームもない。これでは変革ができません。

しかし、今回のコロナ禍も1つのきっかけだと思いますが、商品が売れなくなってくると、このままではまずいと気づくわけです。そして、変革の必要性に切迫感が出てくる。そこで、いま様々な企業がDXに本気で取り組み始めているのだと思います。

■DXに遅れた企業は滅びるのか

――DX を推進できない企業は今後どうなるのでしょうか。

FinTech(フィンテック)、HealthTech(ヘルステック)、EdTech(エドテック)、AgriTech(アグリテック)など、「XX+Tech」による業界の再編は至るところで起こっています。

流通のインフラ化や商品のコモディティ化により、あらゆる産業の勝負の源泉は上位レイヤーに移りはじめています。そうしたことに気付いてか、ベンチャー企業や他業種から新事業として上位領域への参入が起こり始めているのです。

上位レイヤーとは、顧客の本質的なニーズという情報に対してどれだけ上手く加工して製品・サービスを届けるのか、という情報加工のレイヤーという意味です。

これをどれだけ上手く・高速に出来るようになるかが勝負を分けることになります。それに対応することこそがまさにDXと言えます。

ここの勝負に乗れない企業は当然衰退していくことになるでしょう。これはまさにデジタル化により自動車というモビリティを再設計・捉え直したテスラが大手自動車メーカーの時価総額を抜いたことに代表されると思います。

また、DX を理解し、事業に取り入れていくことができないSIも厳しい環境に追い込まれることになります。顧客である事業会社に必要な提案が出来ないということになると思いますので、当然これも衰退していくことになると思います。

■DXが浸透するまでどこまで時間がかかるのか

――DXが浸透していくのは、大きな流れだと思いますが、DXが隅々に浸透するまでにどれくらいの時間がかかるとお考えでしょうか。

隅々に浸透するという定義がまず非常に困難だと思います。ですが、歴史で言うと主に動力が石油や石炭から電気に変わってきた(家庭の動力はほぼ隅々まで切り替わったと思いますが、あとはもうすぐ車が切り替われば概ね浸透と言えるかと思います)というスパンよりは相当早く浸透するのではないかと思います。

もう少し別の観点から具体的に想像してみると、レニアル世代と言われるデジタルに抵抗感がない「デジタルが当たり前」という世代の人間が、大企業で決裁権を持つようなレベル(社長を直接説得出来る)になるのには、やはり50歳くらいでしょう。

彼らが決裁してから5年くらいで変革していくようなタイムスパンで考えると今後15年から20年くらいのスパンになるのではないかと言う想定も出来るかと思います。

いずれにしても、DXは短期間でしぼんでしまうような話ではありませんし、長期間に渡って継続しておこり続ける潮流かと思います。そのためには、事業者の意識も変わらなければなりませんし、それに必要なIT環境を提供するSIのあり方も変わっていかなければなりません。まさに今はその変化の途中ということが言えます。

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