「黒田緩和」で株価が上がった不思議〜投資家は何を信じたのか?


株価は美人投票なので偽薬効果を生みかねない、と筆者(塚崎公義)は考えています。

■株価は美人投票と言ったのはケインズ

株価は美人投票だと言ったのはケインズです。その意味を理解するためには、当時の美人投票の仕組みを知っておく必要があります。当時は今と異なり、優勝した候補者に投票した審査員も「審美眼がある」という賞品がもらえたのです。

そうなると、審査員は自分が美人だと思う候補ではなく、優勝しそうな候補、すなわち他の審査員が投票しそうな候補に投票するようになります。

自分はAが美人だと思っても、Bが登場した時に周囲の審査員が拍手をしたとすれば、Bに投票した方が賞品にありつける可能性が高いからです。

審査員としては、壇上の候補者を観察するよりも、審査員席に流れている噂を探る方が得策です。そんな時に「Cが審査員に賄賂を配っているからCが勝つだろう」という噂を耳にしたら、Cに投票すべきですね。自分も賄賂が欲しかった、と思うか否かは別問題として(笑)。

株式市場も同様だ、とケインズは言います。他の投資家が買いそうな銘柄を買えば良いので、そのためには財務諸表等を分析するよりも他の投資家たちの噂話に耳を傾けるべきだ、というわけです。

残念ながら筆者の投資はあまり儲かっていませんが、その理由は投資家たちの噂のネットワークに参加できていないことにあるのですね(笑)。

■噂の真偽は重要ではない

ここで重要なことは、噂の真偽は重要ではなく、人々が噂を信じて行動するか否かが重要だ、ということです。仮にCが本当は賄賂を配っていなくても、審査員たちが噂を信じてCに投票すればCが優勝するのです。

仮にCの親友が真実を知っていたとしても、やはりCに投票する方が得です。自分は真実を知っているからCには投票しない、などと考えるようでは賞品にありつけそうもありませんから。

もっとも、株式投資で噂に従って投資をすべきなのは短期投資だけです。人の噂も75日と言いますから、それ以上の長期投資を考えている場合には、噂よりも真実を追求すべきです。

筆者について言えば、噂のネットワークに加われていないとしても、会社の収益性等々をしっかり分析して真実を把握できれば、長期投資ならば儲けることが可能かもしれません。分析能力があれば、の話ですが(笑)。

■黒田緩和で株が上がったのは美人投票による偽薬効果

黒田日銀総裁は就任の記者会見で「大規模に金融緩和をするので、世の中に資金が出回り、株価は上がるでしょう」と自信満々に述べました。それを投資家たちが信じて買い注文を出したので株価が大幅に値上がりしたわけです。

これは不思議なことでした。前任者も質的には似たようなことをしていたので、もしもゼロ金利下の金融緩和に株価押し上げ効果があるのならば、黒田総裁の就任前から少しは株価が上がっていたはずなのですが、そうではなかったからです。

黒田総裁は、前任者と同じようなことを規模を拡大して行ない、自信満々に記者会見をしたことで投資家たちの考え方を変えたのです。

実は、さらに不思議なことがありました。実際には世の中に出回る資金の量は増えなかったのに株価が上がったのです。投資家たちは、「資金の量が増えるから株価が上がるだろう」と考えていたのですが、そうではなかったのです。

投資家たちが信じたのは間違った情報だったのですが、Cに投票した審査員が賞品にありついたのと同じで、間違った情報でも皆が信じれば株価を押し上げるのです。

病気の患者に「薬です」と言って小麦粉を渡すと患者の病気が治ってしまうことがあり、偽薬効果と呼ばれているようです。その意味では黒田緩和による株高も偽薬効果でした。株価を押し上げるはずがない政策で株価が上がったのですから。

■資金が出回らないことを知っていたが株を買った

筆者は、元銀行員ですから、ゼロ金利下で金融を緩和しても資金が世の中に出回らないことを知っていました。銀行が国債を持っているのは貸出先が乏しいからですので、国債を日銀に売っても貸出が増えるわけではなく、売却代金が日銀への預金になるだけなのです。

しかし筆者は株を買いました。Cの親友がCに投票したのと同じ理屈です。「自分は黒田総裁が間違えていることを知っているから株は買わない」などと自己満足しているようでは儲けることはできないのです。

おかげで、何回も飲みに行くことができました。そのたびに「黒田総裁ありがとう」と言ってから乾杯しました(笑)。

最後に余談です。黒田総裁が本当に上げたかったのは株価よりも野菜のカブの値段だと思いますが、こちらは上がりませんでした。一つには、野菜には美人投票が通用しないからですが、もう一つ、カブは株と異なり保管コストがかかるので、来年食べる予定のカブを今のうちに買っておこうと考える消費者はいないからですね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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