高齢者による交通事故を防ぐのに運転免許の年齢制限は必要? 増加する高齢ドライバー


■東池袋の自動車暴走死傷事故の初公判で、高齢被告が無実を主張

10月8日、昨年4月に起きた東池袋(東京)における自動車暴走死傷事故の初公判が開かれました。

これは、87歳という高齢者が運転した車が暴走し、2人(母親と幼い娘)が死亡、9人が負傷する悲惨な事故でした。全く無関係の人が巻き込まれ、とりわけ、幼い子供が巻き添えになって命を落としたことに対し、心を痛めずにはいられなかった人も多かったでしょう。

事故発生から約1年半も時間を費やした初公判では、加害者の被告(過失運転致死傷罪)は遺族と被害者に謝罪した一方で、「車に異常が生じた」として自身の無罪を主張しました。これを聞いて多くの人が憤慨したと思われます。事実関係はさておき、87歳の高齢者運転が運転すること自体に大きな疑問を感じた人も少なくなかったはずです。

■どんな人でも歳には勝てない…高齢者特有の原因

この東池袋の事故のみならず、高齢者の運転による死傷事故は後を絶ちません。こうした最近の高齢者運転による事故を見る限り、故意でないのは当然として、過失とも言い難いケースが散見されます。

具体的には、高齢による判断力の衰えのため、運転者本人は正常な意識を持っていると感じたにもかかわらず、結果としては過失と見られる行動につながっていることです。たとえば、本人は通常にブレーキを踏んだつもりでも、その反応が遅くなったため間に合わなかったことや、間違えてアクセルを踏んだことが挙げられます。

自動車の性能という観点から見れば、衝突時の安全性は年々高まっており、また、高齢者にも運転しやすくなっているため、クルマそのものに原因があるとは考え難い状況です。高齢者の運転による事故増発の背景には何があるのでしょうか?

■75歳以上の運転免許保有者は直近14年間で2.5倍に

ところで、高齢者が運転しているということは、当然ながら、運転免許を保有しているということです。そこで、高齢者の運転免許保有状況(警察庁資料)を見てみましょう。すると、昨今の高齢者による自動車事故が増えた要因を垣間見ることができます。

まず、「高齢者」の定義に関して、様々な見解はあるとは思いますが、ここでは一応、75歳以上としておきましょう。75歳以上の運転免許保有者は令和元年末で約583万人(前年比+3.3%増)います。

全保有者が8,216万人(同▲0.2%減)ですから、高齢者が占める割合は7.1%(同+0.3ポイント上昇)です。ザックリ言うと、運転免許保有者の100人に7人が高齢者ということになります。かなり多いと感じた人も多いのではないでしょうか。

さらに注目すべきは、その増加率です。実は、平成17年末における75歳以上の運転免許保有者は約237万人でした。つまり、この14年間で、高齢者の運転免許保有者が約2.5倍になっているのです。これは非常に高い増加率と言っていいでしょう。なお、平成17年末の全保有者(約7,880万人)に占める高齢者の割合は3.0%でした。

さらに高齢の80歳以上の運転免許保有者の状況も見てみましょう。令和元年末における80歳以上の運転免許保有者は約229万人います。平成17年末には約75万人でしたので、13年間で3倍超へ増加しました。

なお、全保有者に占める割合は、平成17年末が1.0%、令和元年末が2.7%です。つまり、現在は、運転免許保有者100人のうち約3人が80歳以上となっているのです(注:この3人は前述した75歳以上の7人に含まれる)。

■効果を表し始めている免許返納の推奨

ここ数年、地方自治体は高齢者に対して、様々なクーポン券配布等により運転免許証の返納を奨励しています。そして、その効果により、返納者数は着実に増加していると言われています。

実際、前述した令和元年末における80歳以上の運転免許保有者は、前年比+0.9%増でしたが、男性だけ見ると同▲0.5%減と減少に転じています。もちろん、女性の平均寿命の方が長いことも一因と思われますが、高齢者の運転免許返納の機運が徐々にではありますが、着実に高まってきていることは確かのようです。

一方で、こうした高齢者の運転免許保有者は、いわゆるペーパードライバーなど、実際には運転していない比率が高いという見方もあります。確かに、それは一理あるでしょう。しかし、日本国内の自動車保有台数が7,800万台弱、運転免許保有者数が8,200万人超であることからも、高齢者による“稼働率”は意外に高いかもしれません。

■過疎化が進む地方都市では単純な年齢制限は難しいが

いずれにせよ、ここ数年急増してきた高齢者による運転事故は、今後も増加していく可能性は高いと考えられます。

なぜならば、65歳〜74歳の運転免許保有者は全国に1,300万人以上もいるため、免許返納や自然減(死亡など)を勘案しても、少なくとも毎年100万人の新たな高齢者ドライバーが誕生するからです。もちろん、全員が死傷事故を起こすわけではありませんが、“予備軍”が確実に増えることは事実です。

そこで議論されているのが、運転免許の上限年齢の設定です。たとえば、75歳以降は運転免許更新を認めないという類です。

しかしながら、このような単純な年齢制限を実施すると、地方都市で生活する人々には死活問題です。地方では、次のコンビニ店舗まで10km要するのはごく普通であり、クルマの移動は必要不可欠です。100〜200m於きにコンビニやスーパーが並ぶ都心とは全く異なります。

だからと言って、このまま毎年同じような悲惨な事故が起きるのを見過ごすこともできません。悲惨な事故を1件でも少なくするために、政府や地方自治体のみならず、自動車メーカーを始めとする民間企業も含めて、真剣に対応策を考えないといけません。

ただ、どのような施策になっても、各種法律の改正が必要になるため相応の時間を要するでしょう。もう一刻の猶予も許されないというのは、決して言い過ぎではありません。

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