インド政府、コロナ禍における経済対策第3弾を発表 <HSBC投信レポート>


■マーケットサマリー

インド株式市場は、2月下旬から3月上旬にかけてコロナショックで急落した後、3月下旬から上昇基調を続けており、11月には史上最高値を更新した。新型コロナワクチン開発の進展、米国の大統領選挙でのバイデン氏の勝利、国内では予想を上回る7-9月期の企業決算が追い風となっている。

一方、国債市場は昨年12月下旬以降、インド準備銀行(中央銀行)が金融緩和スタンスを続ける中で、上昇(利回りは低下)基調を維持している。

■トピックス

●インド政府、コロナ禍における経済対策第3弾を発表

インド政府は11月12日、新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)が発生してから第3弾となる総額350億米ドル相当の経済対策を発表した。対策には、始まったばかりの景気回復を下支えするための緊急融資枠保証スキームの延長、新規雇用の創出、インフラ整備の強化、住宅取得の促進、農村支援など12項目が含まれている。

政府の発表によると、5月の第1弾、10月の第2弾と合わせると、コロナ渦における経済対策の規模は国内総生産(GDP)比15%に相当する。しかし、新規歳出を含めた財政出動の全体的な規模は低水準にとどまったままだ。代わりに、中央銀行の緩和的な金融政策による市中への流動性供給の拡大とそれを受けた市中銀行による融資の増加が目立つ格好となっている。

第3弾の経済対策は発表されたばかりだが、コロナ渦で最も大きな打撃を受けている部門の支援など、対象を絞り込んだ新たな対策への期待がすでに高まりつつある。しかし、モディ政権の財政保守主義を堅持する姿勢に変化が起きる可能性はなさそうだ。実際に、政府はコロナ渦で著しい歳入不足が生じているにも関わらず、財政赤字の抑制を試みている。

●経済対策第3弾の主要項目

信用供給支援、融資枠保証の延長:5月に発表された中小企業向け緊急融資枠保証スキーム(ECLGS)は2021年3月まで延長された。これによって、中小企業は借入総額の最大20%までは完全保証・無担保ローンを利用できる。第3弾の対策では、ヘルスケアに加えて26業種を対象とする信用供給支援も延長された。

生産連動型インセンティブ(PLI)スキーム対象の拡大:PLIスキームの対象はこれまでは3業種(電子機器、医療機器、医薬品)に限定されていたが、新たに自動車・自動車部品、通信機器、食品加工、繊維など10主要業種が加わった。同スキームでは、企業の競争力を向上させて国内生産と輸出の増強を図るために5年間にわたり政府の承認を受けた企業に補助金が直接供与される。

雇用拡大インセンティブ:企業の新規雇用を増やすために、政府は、2020年10月から2年間に新規雇用される従業員に対し、企業に代わって従業員積立基金(EPF)を補助する。

インフラ、不動産セクター支援:政府は不動産セクターの再生のためとして、@将来のインフラ支出に備える政府ファンドに出資する、A1戸あたり価格が2,000万ルピー(約2,820万円)までを上限とする住宅について不動産開発業者と住宅購入者を減税の対象とする、B「ハウジング・フォー・オール(すべての人に家を)」計画に1,800億ルピー(2,540億円)を追加供給する、と発表した。

農村経済の支援:政府は、農村部向けの肥料補助金として6,500億ルピー(9,165億円)を供出するとともに、1,000億ルピー(1,410億円)を農村の雇用促進またはインフラ整備促進に使用可能な予算に組み入れた。

インドは、3月末から世界で最も厳しいと言われた全土封鎖を実施し、6月から段階的に解除した。経済指標は最近数ヶ月、回復傾向が持続していることを示しているが、封鎖の影響は現在も続いている。国内の新型コロナウイルス感染者数は11月20日に900万人を超え、米国に次ぐ世界2位となったままだ。しかし、1日当たりの死者数は、9月にピークに達した後、徐々に減少している。

一方、首都ニューデリーは最近数週間、「第3波」に見舞われており、感染者数の累計は11月18日に50万人を突破した。インドはヒンズー教最大の祭典「ディワリ」を11月14日に迎えたが、保健当局は祭事後の11月下旬から12月にかけて感染拡大が懸念されると国民に警戒を呼び掛けている。

この数週間、ワクチン開発が進んでいるというニュースが相次いだことを受けて、インド経済の先行きを楽観視するエコノミストが増え、2020年度(2020年4月~2021年3月)の経済成長率予想が上方修正された。経済対策第3弾の景気の下支え効果に加えて、新型コロナウイルスの新規感染者数が減少すれば消費者マインドの回復も期待されることから、9月以降強まっている経済の回復基調はさらに鮮明になると期待されている。

経済の先行きに関しては、コロナ渦の最中に政府が相次いで打ち出した改革措置は、中期的な成長にプラスの効果をもたらすことが予想される。

世界的なパンデミックの中でインド政府が発表した一連の経済対策には、経済の構造変化につながる長期的な改革政策が織り込まれている。インド政府が、そうした改革を進めることによって、中国離れと進出先の多様化を加速させている国際企業にとってインドがより魅力的な投資先、生産拠点として認識されることを狙っているのは言うまでもない。

発表された改革措置が政府の筋書き通りに実行されないリスクがあるものの、当社では、農村に存在する中間流通業者の排除を含む農業関連法の改正、特に「非組織労働者」層を意識した労働法の改正、外国直接投資の対象部門の拡大、大規模な政府系機関の民営化などの改革が、今後数年にわたる持続的な経済成長の堅固な基盤になる可能性があると見ている。

■株式市場

●3月下旬に反転し上昇続く、11月には過去最高値更新

インド株式市場は、2020年2月下旬から、新型コロナウイルスの感染拡大を背景とした世界的な株安を受けて急落したが、その後反転し、上昇が続いている。11月には一段高となり、史上最高値を更新した(11月30日現在)。

直近の相場上昇の背景には、海外では、新型コロナワクチンの開発の進展、米国大統領選挙での民主党バイデン氏の勝利、国内では、予想を上回る7-9月期の企業決算、新型コロナウイルスの感染拡大ペースの鈍化がある。

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●HSBC投信の株式運用戦略

インド株式市場は短期的にはなお新型コロナウイルスの影響を受けて、不安定な展開を続ける可能性がある。また、当面は感染予防対策が引き続き国内の経済活動に悪影響を及ぼすことが見込まれる。

しかしながら、当社は長期的にはインド株式市場に対する強気の見方を維持している。インド経済の成長ポテンシャルは高く、構造改革の進展から、長期的に成長率は高まると見られている。与党インド人民党(BJP)が安定した政治基盤のもとで高成長・構造改革路線を継続すると見込まれることも、株式市場にとり強力なサポート要因となる。

インド株式の運用では、持続的な収益成長性を有しながらバリュエーションに割安感のある銘柄を選別する。業種別には金融と不動産をオーバーウェイトとし、エネルギー、ヘルスケアをアンダーウェイトとしている。またインフラ関連銘柄は、第2期モディ政権のインフラ投資計画の恩恵を受けると見込まれる。

■債券市場

●債券価格は上昇基調を続ける

インド国債市場は、2019年12月下旬以降、世界的な金融緩和の流れ、国内ではインド準備銀行(中央銀行)による金融緩和を受けて、上昇(利回りは低下)基調をたどっている(11月30日現在)。中央銀行は10月の政策会合で政策金利を据え置いたが、金融政策の最優先課題はパンデミックからの経済の復活とし、政策スタンスは「緩和的」を維持している。

●HSBC投信の債券運用戦略

インド債券市場は、グローバル投資家にとり良好な投資機会を提供している。新型コロナウイルスによる経済的混乱が収束すれば、インド経済の優位性が再び注目されよう。インドの国債の相対的に高い利回り水準にも妙味がある。

インド債券の運用においては、引き続きインドルピー建国債に重点を置いて投資を行っている。また、短中期のインドルピー建社債を選好している。一方、米ドル建インド債券には慎重な姿勢を維持する。

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■為替市場

●インドルピーは9月以降、対米ドルでは軟調、対円ではレンジ相場続く

インドルピーは対米ドル、対円ともに、本年2月下旬から3月にかけて、新型コロナウイルスの感染者の世界的な広がりを受けた投資家のリスク回避志向の高まりを背景に、他の新興国通貨とともに急落した。その後は、対米ドルでは上昇に転じたが9月以降は売り優勢の展開、対円ではレンジ相場を続けている(11月30日現在)。

インドルピー相場は、短期的には新型コロナウイルスの感染状況を巡り不安定な動きとなる可能性があるが、長期的には、相対的に良好な経済ファンダメンタルズや潤沢な外貨準備高が支援材料となり、堅調な展開が予想される。

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