書籍を“ながら聴き”できるオーディオブック! オトバンクが次に狙うこと

リアル書店には書店員さんがいます。そして、電子書店にも“顔が見えない”書店員さんがいます。なかなか実態が見えない電子書店の“中の人”に、アレコレ聞いてみる『教えて!電子書店の“中の人”』。

今回は番外編として、オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」?を運営する株式会社オトバンクの飯泉さんにインタビューしました。

▲オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」?のロゴ

■オーディオブックの強みとは??

――さっそくですが、自己紹介からお願いします。

飯泉 飯泉早希と申します。株式会社オトバンクで、オーディオブック事業部の事業責任者をしています。2020年2月にオトバンクに入社し、その前まではメルカリの子会社メルペイであったりとか、ディー・エヌ・エーだったり、IT企業の開発回りをやってきました。今はオーディオブック事業全般を見てまして、サービス開発やマーケティングと幅広くやっています。

▲オトバンクの飯泉さん

――飯泉さんのプロフィールに『人生にあってもなくてもいいけど、あると豊かになるものが好き』って書いてありますね。これって、まさに本とかオーディオブックだなと思って。

飯泉 そうですね。世の中には必要なお仕事がいっぱいありますけど、ちょっと感情が動いたりすることで人の生活、人生が豊かになると思っていて、そういう仕事に携われたらいいなとは常々思ってます。

――それでは簡単にサービスの説明をお願いします。

飯泉 audiobook.jpというサービスを運営しておりまして、オーディオブックをメインに、ほかにもPodcastやラジオドラマなどの音声コンテンツも配信しています。主に利用者の皆様には、iOSやAndroidアプリで聴いていただくという形で展開をしています。

単品で購入していただく以外にも、定額料金で聴き放題というスタイルもあるんですが、3年前にこちらを始めたところ、今は単品販売よりも人気となっています。現在(2021年10月時点)、聴き放題できる作品は15,000以上となっています。

――サービスのアピールポイントとして、大きくいくつか挙げていただいてるんですけれど、その1つが聴き放題ですね。

飯泉 はい。弊社のメインはオーディオブックなのですが、オーディオブック自体が広く認知されいるとは、まだまだ言いがたい状況だと思っています。

オーディオブック自体の魅力は、まず1つに「何かをしながら学習できる」。1日の中で、手や目は忙しいけれど頭は使っていない時間は意外に多いので、オーディオブックや音声コンテンツだったら、そういう時間を有意義にだったり、楽しい時間に変えることができるのが魅力だと思っています。

2つめは「音声ならではの演出を楽しめる」要素だと思っています。特に会話のシーンが多いものやドキュメンタリーは、弊社の制作スタッフが聴きながら引き込まれるように作っているので、私もよく家事をしながら聞いてるんですけど、引き込まれ過ぎて、手を止めて聴き入ってしまっています(笑)。そういう臨場感も魅力のひとつです。

――(笑)。家事の手を止めてしまうって、だいぶ心が持ってかれていますね! ということは、声優さんやナレーターさんが声入れをする際に「もっと感情を込めて」みたいな演技指導もされてるんですか?

飯泉 そうですね。やはり音声だけで伝えるには高い技術を求められるので。プロの声優さんたちと一緒に話し合いながら作り上げています。

――そうして良質なコンテンツができあがる、ということですね。コンテンツに対する愛をすごく感じます。

飯泉 そこが伝わっていたらうれしいです。弊社はオーディオブック自体もそうだし、その元となっている本もそうだし、それ以外の映像作品も含めて、全員がコンテンツの作り手へのリスペクトを持っているし、それが文化になっている気がします。

――なるほど。それを持ち続けるのは個人の意志だけじゃ難しいと思うんですけど、会社全体での土台作りができているんですね。

▲オトバンクのサービスイメージ

■ドキュメンタリーや物語性があるものが向いている

――オーディオブックの魅力の1つとして、読んで好きになる作品と、オーディオブックで聴いて好きになる作品は違うとお聞きしました。

飯泉 もちろん、全てそうではないと思いますが、視覚と聴覚で向いている作品が違うという印象ですね。

――PDFでのダウンロードに対応している作品もあるようですが、本文中に図が多いものは、元々の目的というか、ながら時間の活用とはちょっと趣旨が違ってきちゃいますよね。

飯泉 図解の作品をどう音声で伝えるかということは、弊社もいろいろと工夫はしているんですけれど、視覚でわかるものはそこに勝るものはないので、オーディオブックに向いてない作品もあるとは思っています。情報を効率的に取捨選択するのは、本を読むほうが向いているなと思っているんですね。

それはなぜかと言うと、オーディオブックは一定のスピードでずっと聴いていないといけない。もちろん飛ばしたりはできるんですけど、読む本に比べて、知りたい箇所を検索して、そこに飛ぶのは難しいんです。ただオーディオブックは、自分には不要だと判断しがちのところも含めて聴くからこそ、新しい発見があったり、新しい価値観や世界と出会えるのがいいところだなと思っています。

ですので、ドキュメンタリーや物語性があるものが、オーディオブックにはオススメだと思っています。

――たしかに! すでに読んだ本のオーディオブックを聴いていると、新たな気づきがあったりします。

飯泉 そうですね。繰り返し聴くことで頭に入れる使い方をされているユーザーさんもいて、そういう使い方もオーディオブックならではだと思います。

――勉強にも向いてそうですね。

飯泉 はい。本の全体像をつかんだあとにオーディオブックで聴いて、自分が最初は必要じゃないと判断した箇所も含めて、ゆっくり噛み砕いて理解していくのは、学習にも向いてるんじゃないでしょうか。

■仕事や育児で読書の時間が取れない人にオススメ

――普段のお仕事で「面白さを感じるときは?」という質問で、飯泉さんのお答えが「感想をいただいたとき」とのことでした。

飯泉 そうですね。自分が携わっているサービスが、日々の生活の中でなにかしらの潤いになっていれば、すごくうれしいと思っていて、2021年の6月に会員数が200万人突破した記念でアンケートを取らせていただいたときに、

「仕事と家事育児でまとまった時間が取れなくて、続いていたインプット不足が解消できた」 「毎朝のお弁当作りの時間に聴くのが楽しく、そのための早起きも苦でなくなった」 「本だと月に1冊も読めてなかったのに、オーディオブックだと年間100冊聴けた。価値観や世界観がアップデートされた」

などのお言葉をいただけて、会員の方々の生活の中に入り込めているというのがわかって、すごくうれしくなりました。

――お仕事の苦労や悩みは「認知度が低いところ」ということですね。

飯泉 先程もお話したのですが、まずオーディオブックというカテゴリ自体が、広く認知されてるとは言えない状況です。そこで使い方であるとか、そもそもどういうもので、生活にどのようなプラスがあるのかを伝えていかないと、audiobook.jpというサービスを使ってみようという話にはならない。その辺をどういうふうに伝えたらいいのかを試行錯誤をしている途中です。

――なるほど。でも、14日間無料で聴き放題を体験できるサービスを行ってますよね。初めての方には敷居が低くなって良いなと思います。

飯泉 ありがとうございます。最初にお金がかからない形でトライアルをしてもらって、自分に合うと思った方には使い続けてもらえたらと思っています。

■世界観を再現するスゴイこだわり

――では、次に仕掛けて売れたタイトルを2つ挙げていただいてますが、1つが、『2020年6月30日にまたここで会おう』ですね。

飯泉 これは弊社創業メンバーの1人だった瀧本哲史さんの本なんですけども、彼の2012年の声を書籍化したもの、ですので「講演録」ですね。2012年の6月30日の講演の中で、8年後の2020年にまた会いましょうと話をしていたので、このタイトルがつけられています。

それを音源化して2020年6月30日に流すYouTubeイベントを企画しました。2012年の当時の講演で、2020年にまた集まろうという約束をイベントを通して果たした、というストーリーとともにメディアにも取り上げていただいて、2万回再生されましたので、いろんな方に手に取っていただけたと思います。

――久保田社長のnote拝見したんですけど、こだわりというか、情熱がすごくてちょっと鳥肌が立ちました。

飯泉 著者の瀧本さんが非常に特徴的な喋り方で、かつメディアにも出ていた人でもあるのに加えて、私たちも喋り方がよくわかっていたので「じゃあ再現しよう」となりました。かなりこだわって作った作品ですね。

――飯泉さんも瀧本ゼミに入られてたそうですね。

飯泉 そうですね。学生時代から彼のことはよく知っていました。

――聴いてみていかがでしたか?

飯泉 息の使い方など、細部まで声優さんがこだわって演じてくださったと思いました。こんな無理なオーダーをありがたかったです。

――「ゴー!」でしたっけ? 掛け声みたいなのを何回もさせられたと書いてありましたが。

飯泉 そうですね(笑)。余談ですが、瀧本さんはすごく早口なので、そのままオーディオブックで読んでしまうと伝わりづらくなってしまうので、喋り方だけ真似て、話す速度はゆっくりにしたんですけど、SNS上で瀧本さんを知る人は「1.2倍で再生すると、ちょうど瀧本さんになりますね」みたいなやりとりをしてました(笑)。

――もう1つ、仕掛けて売れた作品に『もものかんづめ』をあげられてますけど、私もTwitter広告で見かけて「おっ!」って思いました。

飯泉 これは2021年の4月に出したものなんですけど、さくらももこさんの日常を面白おかしく綴ったエッセイです。ちびまる子ちゃんの“まるちゃん役”をされていたTARAKOさんに読んでいただいて、まるちゃんがそのまま喋ってる感じで、すごく感激する仕上がりになっています。

これもSNSで評判とかを見てると、TARAKOさんの声で聴けて、まるちゃんのちょっと哀愁がある面白い世界観に入り込めていい、という感想をいただきました。

――音というか、声を大事にされてるのが伝わってくるエピソードですね。

■企業トップのドキュメンタリーが人気

個人的に推したい本も上げていただいてます。1つが『渋谷ではたらく社長の告白』ということですが。

飯泉 サイバーエージェント社長の藤田さんの本です。創業時にどのようなことが起きて、どういうふうに考えたのかを綴っているんですけども、私自身、IT企業で務めていたバックグラウンドがあるのもあって、すごく共感できるところもあったりして面白く聴いてました。

これ以外にも企業トップの方のドキュメンタリーは、audiobook.jpでは人気ですね。ドラマチックに感情移入ができるような作りになっていて、聴き入ってしまいます。

――電車やバスに乗って聴いていると乗り過ごしそうですね。スタートアップ界隈だけじゃない、一般のビジネスパーソンにも聴いてほしい内容ですか?

飯泉 そうですね。その当時のインターネット黎明期に賭けた人たちの物語っていうか、なんだか目頭が熱くなるなあと思って。やっぱり世の中、成功するってわかったうえでできることって少ないと思うんですよ、それぞれの立場で勝負をしたり、ちょっと不確実なものをやらないといけない。何かに立ち向かっている方には、すごく刺さる作品だと思いますね。

藤田社長をメディアとかで見ていると、すごく強気な姿勢に見えるんですけど、内面として弱い部分があったという告白もあるので、そこも含めて魅力的な作品だと思います。

――なるほど、勇気がもらえそうですね。もう1つ上げていただいているのが『人生ドラクエ化マニュアル』ですね。

飯泉 はい。人生をドラクエ化する(RPGゲームのように目的・ルール・敵を設定する)ことで、人生をゲームとして楽しむことができる、といった生き方を説いた本なんですけど、ドラクエという幼少期から親しんできたゲームを用いて説明されるので、非常にわかりやすいです。

これはオーディオブックならではの工夫なんですけど、ゲームの効果音をつけているので、ワクワクした気分を感じながら聴いてもらえると思います。

――楽しそうですね! ちなみに聴いてほしい年代というか対象はありますか?

飯泉 10代、20代の漠然と何をやろうかと考えている人、挑戦したいことにまだ踏み出せていない若い人にぜひ聴いてほしいですね。自分も冒険を始めようと前向きな気持ちになれるんじゃないかと思います。

■「聴く」を普通の手段として選択する

――では次に、これから取り組んでいきたいことを教えてください。

飯泉 audiobook.jpが目指すのは「聴ける」を当たり前の世の中にすることです。まだまだ聴くことによって、何か新しい情報や価値観、新しい世界に出会える経験って少ないんじゃないかと思うんですね。だから、それが普通の手段として選択されて、日常的に聞くことでいろんな出会いがあるといいなと思ってます。そのためには、もっともっと多様な音声コンテンツがあるべきかなと。

――どこのジャンルを強化したいとかありますか?

飯泉 そうですね。例えば、タイムリー性が強いニュースは、人が読んで制作する関係上、読み上げてから配信となるんですが、そうなると情報鮮度が落ちてしまうんですよね。それを合成音声で読めるようにすれば、タイムリーにニュースを音声で聴けるようになって、音声コンテンツの幅の広げ方の1つとなるかと思っています。

あとは、文学作品だったり、ビジネス書を多く制作しているのですが、それ以外のジャンルにもチャレンジしていけたらいいなと思っています。

飯泉 それから、現在はアプリでダウンロードして聴く手段しかないんですが、コンテンツへのアクセスを容易にしていきたい、シームレスに聴く体験を作っていけたらいいなと思っています。コンテンツを作っても、聴きやすい環境や、手に届きやすい環境がないと聴いてもらえないので、そこにも力を入れていきたいなと思っています。

取り組みとしては2つありまして、1つは弊社が制作したオーディオブックを、audiobook.jp以外のプラットフォームでも聴けるようにしています。例えば、Apple・Google・ドワンゴのストアでも配信する、そのような第三者配信を増やしていって、オーディオブックというコンテンツ自体へのアクセスが容易になるように取り組んでいます。

2つめは、audiobook.jp自体のサービスをさらに磨いて、あらゆる人にとって使いやすくしていきたいと思っています。最近だと、オーディオブックを使う理由の1つに、忙しくて本を読めないから“ながら聴き”をしている、という以外にも、目が疲れやすくなってきたので、本を視覚で読むよりも聴いて理解する習慣に変えたい、といった方も多くなってきてます。

ですので、目が疲れやすい方でも使いやすいように“目に優しいモード”だったり、ヘビーユーザーの方のご要望に応えて“付箋をはさめる”ようにしたりとか、そういう改善をしています。

――その付箋というのは、ここがポイントだなと思ったところで押せば、そこにいつでも飛んでいけるっていう機能ですか?

飯泉 そうです。

――いいですね。ユーザーとしても意見を出した甲斐がありますね。

飯泉 まだまだ小さいサービスなので、愛してくださる方たちと一緒に成長していけたらいいなと思ってます。

――ポイント払いや携帯払いにも対応されてるから、若年層の方も入りやすいですね。

飯泉 そうですね。特に若年層は、動画やショッピングなど、デジタルコンテンツ内での時間の奪い合いが激しいと言われがちです。確かにスマートフォンなどの画面を見ないといけないものに関してはそうなんですけど、弊社のサービスや音声プロダクトは、スマートフォンなどに触れない時間にも使えるので、そこで日々のお供になれる存在になるといいなと思ってます。

――目は使いすぎると疲れるんですけど、耳が疲れた覚えはないですね。それでは、最後にオーディオブックの今後について聞かせてください。

飯泉 今はまだ市場としては小さいんですけれど、昨今の音声ブームもあって注目されているタイミングだと思っていますので、オーディオブックの魅力だったり、使い方をうまく伝えていって、多くの人の生活のなかで、時間を豊かにすることができるように、コンテンツ作りとプロダクト作りの両輪に注力してやっていきたいなと思っています。

――ありがとうございました!

関連記事(外部サイト)