必要なのは「推論力」 なぜあなたの提案は通らないのか?

積極的に仕事に取り組もうとして上司にいろいろ提案するけれど、まったく採用してもらえない……。そんな経験はないでしょうか? もしかすると、それは推論力が足りないからかもしれません。日本全国の企業で人材育成や組織運営の指導・講演を行なっている伊藤俊幸氏が、提案を通すためのコツを伝授します。

※本記事は、伊藤俊幸:著『参謀の教科書 才能はいらない。あなたにもできる会社も上司も動かす仕事術』(双葉社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■提案を通すために「推論力」を高める

皆さんは仕事をしていて、こんな悩みを持ったことはないでしょうか?

提案が通らない 伝えたいことが伝わらない 表面的な分析しかできない

一見するとバラバラな悩みに見えますが、これらはすべてひとつのスキルがあれば解決します。

そのスキルとは推論力です。

推論力は極めて重要です。推論力とは“未知の事柄”に対して筋道を立てて推論し、論理的に妥当な結論を導き出す力のことをいいます。

提案が通らないのは、相手の期待や反応が推論できないからです。伝えたいことが伝わらないのは、相手の聞きたいことや理解できることが推論できないからです。表面的な分析しかできないのは、奥深くにある関係性に推論が働かないからです。それゆえ、推論力は極めて重要な力だと私は考えているのです。

▲提案を通すために「推論力」を高める イメージ:ふじよ / PIXTA

では、推論力の正体とは何かというと、次の3つの思考法の合わせ技です。

帰納法(インダクション):複数の事実から法則を見出し、結論を推論する 演繹法(デダクション):既知の法則に事実をあてはめ結論を推論する アブダクション(仮説的推論):起こった現象に対して既知の法則をあてはめ仮説を推論する

思考のプロセスが違うだけで、いずれも何かを推論する行為です。これら3つの推論法を意識的に鍛えていくことによって、推論力は高まっていくものです。それぞれのコツを簡単に紹介します。

■さまざまなことに意識を向け観察する

帰納法で難しいのは、共通点や法則を見出すことだと思われがちですが、実際にはサンプルデータ(事実)が多いほど共通点が見出しやすくなるわけですから、コツはずばり、常日頃から物事をしっかり観察することです。

たとえば、釣りの達人は決してのんびり釣り糸を垂れているわけではなく、水の色や透明度・流れ・小魚の動きや泳層・潮の高さ・風向きなどの環境要因を忙しく観察しています。結果的に人よりもサンプルデータが増え「このパターンのときは、こうやれば釣れる」という推論ができるのです。

電車に乗るときも、会議に出席するときも、できるだけボーっとやりすごさず、さまざまなことに意識を向けて観察してみましょう。変化や比較に敏感になることで観察力は上がります。

さらに、これらの観察から自分なりの方程式を導くとよいでしょう。これは特別なことをするのではなく、「〇〇という行動をする人は、△△な人だ」「〇〇の兆候があると△△になってしまうんだ」といった具合に記憶するのです。

記憶はインプットではなく、アウトプットによって定着しますから、一度口に出して人に話すとよいと思います。帰納法によって多くの一般化した法則を身に付けると、人から「洞察力のある人」と評価されることになるでしょう。

▲さまざまなことに意識を向け観察する イメージ:EKAKI / PIXTA

■先人たちが気づいた法則を本などを通して学ぶ

演繹法は、すでに認知されている法則・ルール・根拠(大前提)に、目の前の事実をあてはめて結論や未来を推論することで、三段論法とも言います。たとえば「部長はSDGs関連の企画ならよく通す(大前提)」→「今回の企画はSDGs関連だ(小前提/事実)」→「だから部長の承認が得られるだろう(結論)」といった推論の仕方です。

演繹法のコツは2つあります。

まず、大前提となる法則がそもそも正しいのか、もしくはどれくらい正しいのか常に意識することです。大前提が科学的事実や法令のようなものであれば間違えようがないですが、“よく通す”とか“よく売れる”といった(帰納法から導かれた)一般論を大前提にする場合、“よく”の度合いがわからないままだと結論の精度がわかりません。

大前提となる一般論の精度を高めたいのであれば、先ほどの帰納法に戻り、サンプルデータを増やすしかありません。

もうひとつのコツは、大前提となる法則をどれだけストックしているかです。ストックしている法則が多ければ多いほど「このままいくとこうなりそうだ」という推論をする機会が増えます。

では、どうやってストックを増やすかというと、こちらもやはり普段から帰納法で方程式を自分なりに見出すことと、先人たちが気づいた法則を本などを通して学ぶことです。

▲先人たちが気づいた法則を本などを通して学ぶ イメージ:Kazpon / PIXTA

■結果に対して「なぜだろう?」と考える

アブダクションは仮説的推論とも呼ばれ、目の前で起きた事象(結果)に対して既知の法則をあてはめ、その「原因」を推論する方法です。演繹法と混同されやすいですが、演繹法は未来を推測するもので、アブダクションは過去を推測するものです。

たとえば、知人がある会社を退職したとして(結果)、別の人から「その会社はノルマのきつさと離職率の高さで有名だ」という情報(法則)を仕入れていたのであれば、「知人もノルマがきつくて退職を決意したのかもしれない」という仮説が立てられます。

アブダクションも帰納法と同じように、目の前で起こる事象に対して意識的に観察することがすべてのスタートです。「彼、会社を辞めたそうだよ」と聞いたときに「ふ~ん」と受け流すのではなく、「なんで辞めたんだろう?」と反射的に思えるかどうかが重要です。トヨタの生産方式の一環である、問題を発見したら「なぜを5回繰り返す」が有名ですよね。

▲結果に対して「なぜだろう?」と考える イメージ:metamorworks / PIXTA

以上、3つの推論法のコツを紹介しましたが、聡明な方であればそこに共通点を見出すことができたはずです。

共通するのは、法則・ルール・パターンなどのストック量が多いほど推論力が上がるということです。

ビジネススクールでは、さまざまな企業の成功事例、失敗事例を分析しますが、これは帰納法で法則を導き出すため。この法則を実務においてあてはめていき、演繹法で未来を推論したり、アブダクションで原因を推論したりしていきます。

肝心なのは大量の法則・パターンを頭の引き出しに入れておくことです。インターネットのおかげで「知識」のストックには意味がないと言われる時代になりましたが、自分流の方程式をもつことが重要なのです。

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