「資金繰りが苦しい」20代・IT企業社長の弱音…ベンチャーがぶつかる“資金調達の壁”【弁護士が解決】

(写真はイメージです/PIXTA)

ベンチャー企業に立ちはだかる「資金調達」の壁。銀行融資や補助金の活用、ベンチャーキャピタルからの出資など方法はさまざまですが、それぞれに注意すべきリスクが存在します。そこで、ベンチャー企業の具体的な資金調達方法とそれぞれのメリット・デメリットについて、企業法務に詳しいAuthense法律事務所の西尾公伸弁護士が、20代のIT企業社長Aさんの事例を交えて解説します。

資金調達のために売却した株式の「買い戻し」は可能?

IT企業を経営しているAさん(20代・男性)は、資金調達のため、投資家のBさんに株式を一部売却しました。しかし、以前は自分のアイデアや経営判断を迅速に実行できていたものの、投資家が意思決定に関わるようになったことで、自分の判断だけで事業運営を進めることがやりづらくなってしまいました。

1度は売却した株式でしたが、「これでは思うような経営を続けられず、会社の成長を阻害しかねない」と考えたAさんは株式の買い戻しを決意し、筆者の法律事務所に相談に訪れました。

株式の買い戻しを申し出たAさんに対し、Bさんは「買い戻しをした直後にM&Aをするのではないか」とBさんは疑念を抱きました。「そのまま株式を保有しておけば高く売れたのに」という事態が起こるのではないか、というのがBさんの懸念点です。

そこでBさんは、一定の期間内にM&Aが行われた際には、差額を補償する旨を契約書内に入れることにしました。

また、買い戻しの内容を取りまとめるにあたっては、「一物二価」となり税務上のリスクを負う可能性や課税される金額も想定しながら、公認会計士の助力を得てスキームを構築しました。

筆者は、法的な不安要素を潰していくことはもちろん、税金の面でも双方にとって問題が起こらないよう、一つひとつリスクを想定してはクリアしていく作業を繰り返しました。

最終的に、Aさんは可能な限りリスクを排除したスキームを構築し、Bさんに提案。

Bさんは、株式取得後の短期間で「買い戻しさせてほしい」と言われたことでAさんに不信感を抱いていたため交渉は難航しましたが、結果的に無事株式を買い戻すことができました。

解決ポイント

Bさんはご自身のご判断に自信をお持ちの方でしたので、丁寧な交渉を続けることや強く主張すべきところは主張するということを意識しました。

M&Aに関する疑念についても、法律面、税金面におけるリスクを徹底的に洗い出し、双方が納得のいく方策を提案・説得できた点が解決のポイントではないかと思います。

ベンチャー企業にとって資金調達が不可欠なワケ

新たなビジネスを形にして軌道に乗せるためには、多くの資金が必要となります。設備や技術への投資の他、利用者を獲得するための広告宣伝などにも費用がかかります。

規模の大きい企業であれば、事業による売上でこれらの費用を賄うことも可能でしょうが、ベンチャー企業の場合、自己資金のみで必要な資金を賄うことが難しいケースも考えられます。むしろ、スピードが命ともいえるベンチャー企業で、必要な費用を自己資金のみで手配できる日を待っていては、ビジネスの機運を逃してしまうことにもなりかねません。

こうした事情から、ベンチャー企業を一気に軌道に乗せるためには、企業自身以外から、まとまった資金を調達することが不可欠といえます。

しかし、ご紹介した事例のように、資金調達はトラブルの原因ともなり得ることから、慎重な判断も求められます。

融資、助成金…ベンチャー企業の資金調達方法「6つ」

ベンチャー企業が資金を調達するには、以下のような方法が考えられます。

1.「信用保証」付きで金融機関からの融資を受ける

金融機関から融資を受けた場合、利息が発生し、約束した返済時期に利息とともに資金を返済する必要があります。また、返済してくれるかどうかわからない相手にはじめから多額の融資をすることは、金融機関にとってリスクが高いといえます。

さらに、金融機関は融資にあたり、対象企業の「与信審査」を行いますので、財務体質がまだ万全とはいえないベンチャー企業では、この与信審査が通らないこともあります。

そのため、ベンチャー企業が創業時に金融機関から融資を受けるためには、「信用保証」をつけることが一般的です。

信用保証とは、創業したばかりなどの理由でまだ信用力の弱い企業の保証を信用保証協会が引き受けてくれる制度です。万が一返済が滞った場合には信用保証協会が返済を肩代わりしてくれるため、金融機関からの融資が受けやすくなります。

2.「日本政策金融公庫」から融資を受ける

「日本政策金融公庫」とは、民間金融機関を補完するために存在する政府系の金融機関です。創業融資などさまざまなコンセプトでの融資制度を設けており、創業間もない企業が融資を受けやすい仕組みとなっています。

「無担保・無保証」で融資が受けられる枠があるため、創業時にまず検討したい資金調達方法の1つです。

3.助成金や補助金を活用する

国や地方自治体からの助成金や補助金は、原則として返済不要です。ただし、支給を受けるには要件があります。一般的に、助成金は人材の活用や育成のために支給されることが多い一方、補助金の目的はその補助金の種類によってさまざまです。

補助金や助成金には非常に多くの種類が存在します。また、常に募集があるものではなく、年によって募集内容が異なることも少なくありません。そのため、活用を検討する際は、要件に当てはまりそうな助成金や補助金を見逃さないことが重要です。

クラウドファンディングを活用する手も

4.「VC(ベンチャーキャピタル)」から出資を受ける

「VC(ベンチャーキャピタル)」とは、上場していないベンチャー企業などに出資して株式を取得する投資会社や投資ファンドを指します。

VCは、将来的にその企業が成長して上場した際や、M&Aをされた際に株式を売却して利益を得ることを目指していることが一般的です。

5.「個人投資家(エンジェル投資家)」から出資を受ける

「個人投資家」とは、VCなどに属さず個人でベンチャー企業へ投資する人を指し、創業間もない企業に出資を行う個人投資家は「エンジェル投資家」とも呼ばれます。

VCと同じく、企業が上場した際やM&Aをされた際に株式を売却して利益を得ることを目指していることが一般的です。

6.「購入型」のクラウドファンディングを活用する

「クラウドファンディング」とは、インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつの資金を調達することを指します。クラウドファンディングのマッチングサイトも複数存在し、近年急速に認知が広がっている資金調達の形態です。

一口にクラウドファンディングといってもその形態はさまざまですが、なかでも「寄付型」と「購入型」が代表的です。

「寄付型」は、起案されたプロジェクトに対して支援者が寄付をする仕組みのクラウドファンディングです。お礼の手紙などの返礼がある場合もありますが、返戻品の金銭的価値は出した資金と比べて低いことが一般的です。被災地支援などに活用されることが多い形態です。

「購入型」は、商品やサービスの前払いに近い仕組みのクラウドファンディングで、資金を出した対価として商品が返礼されます。商品などを作るためには、材料費の購入や設備投資で先にお金が必要になることが少なくありません。また、購入者がいないにもかかわらず大量に作ってしまえば、売れ残りのリスクもあります。

そこで、購入型クラウドファンディングであらかじめ資金を調達し、目標額に達した時点で実際に商品を製作して、出資者へ返礼することでリスクを低減することが可能です。

資金調達においては、この「購入型」が選択肢となるでしょう。

各資金調達方法の「メリット・デメリット」

資金調達には、それぞれのメリットとデメリットがあります。それぞれの特性を知ったうえで、資金調達の方法を検討しましょう。

1.金融機関からの融資…関係構築につながるが「口座凍結」のリスク

金融機関からの融資で資金調達をするメリットには、次のものが挙げられます。

・「信用保証協会」を使えば、創業間もない企業でも資金調達を受けやすい
・株式を保有されるわけではないため、経営に口出しされない
・きちんと返済すれば以後の金融機関との関係構築につながる(以後の融資が受けやすくなる可能性がある)

一方、デメリットは次のとおりです。

・返済義務がある
・利息に加えて、信用保証協会を利用した場合には、同協会に対する手数料が発生する
・融資を受けるまでに審査などで時間がかかりやすい
・ある程度の自己資金が必要となる

金融機関から融資を受ける場合、その金融機関に預金口座を設けて、その口座を通して融資金のやり取りを行ったり、売上金の管理を行ったりすることも多いでしょう。

その際、金融機関への返済が滞った場合には当該預金口座が凍結されたり、預金と融資金とを相殺されたりして、運営資金を使えなくなり、経営自体が困難となることがありますので、しっかり返済計画を立てておかなければリスクが大きいといえます。

2.日本政策金融公庫からの融資…融資を受けやすいが「計画書」の作成必須

日本政策金融公庫から融資を受けるメリットは、次のとおりです。

・創業間もない企業であっても融資を受けやすい
・無担保・無保証で融資が受けられる制度がある
・株式を保有されるわけではないため、経営に口出しされない
・比較的スピーディーに融資が実行される
・民間金融機関よりも低金利で返済期間が長いことが多い

一方で、デメリットとしては次の点が挙げられます。

・返済の義務がある
・それぞれの融資制度ごとに利用条件がある
・融資の条件として創業計画書をきちんと作成する必要がある
・ある程度の自己資金が必要となる

なお、創業計画書の作成は手間の面でデメリットに分類しましたが、事業の収益性や見通しと向き合うためには、創業計画書の作成はむしろメリットであるとも考えられます。

3.助成金や補助金…「返済不要」も“見逃し”のリスク

助成金や補助金を使った資金調達のメリットには、次のものが挙げられます。

・原則として返済が不要
・株式を保有されるわけではないため、経営に口出しされない

一方、デメリットは次のとおりです。

・種類が多く募集中の補助金などの情報を追うのが大変
・募集期間が短いことも多く、厳しいスケジュール管理が必要
・審査があるため申込書類を作りこむ必要がある
・入金までにかなり時間がかかることが多いため、ある程度の自己資金が必要となる
・申し込んだからといって必ず採択されるとは限らない
・定期的な報告が必要となるものもある

投資家からの出資は「経営権を奪われる」リスク

4.VCからの出資…返済「義務」はないが経営に口出しされる可能性

VC(ベンチャーキャピタル)からの出資による資金調達のメリットは、次のとおりです。

・融資ではないため返済の義務がない
・VCによる経営コンサルや取引先の紹介を受けられる場合がある
・第三者の目があることで上場などに向けてより真剣に取り組みやすくなる

一方で、デメリットとしては次の点が挙げられます。

・株式を保有されるため、経営に口出しされる可能性があり、場合によっては、経営権を奪われることもあり得る
・長期目線での成長よりも短期的な利益が重視される傾向にある

VCとのあいだでは、投資契約などの契約書を締結することが必須ですが、この契約内容が非常に重要となります。

IPOや、M&Aなどのイグジットに至らなくとも、一定期間経過後に、会社や創業者がVCの保有する株式を買い取る義務を負ったり、イグジットの際に出資者の株式を優先的に売却するという内容であったり等、契約内容をよく確認しておかなければ予期していなかった事態が発生することもあり得ます。

5.個人投資家からの出資…返済「義務」はないが“出会い”にハードル

個人投資家からの出資により資金調達をするメリットは次のとおりです。

・融資ではないため、返済の義務がない
・個人投資家による経営コンサルや取引先の紹介を受けられる場合がある
・第三者の目があることで上場などにより真剣に取り組みやすくなる

一方、デメリットは次のとおりです。

・株式を保有されるため、経営に口出しされる可能性があり、場合によっては、経営権を奪われることもあり得る
・応援して出資してくれる個人投資家と出会うことは容易ではない

6.クラウドファンディング…販売前にニーズを知れるが「リターン」必須

クラウドファンディング(購入型)での資金調達のメリットには、次のものがあります。

・商品販売前にニーズを知ることができる
・スピーディーに資金調達ができる
・想定以上の額が調達できる可能性がある

一方、デメリットとして考えられるのは、次のとおりです。

・サイトの利用手数料がかかる
・必ず資金調達ができるとは限らない
・リターン(返礼)を提供する必要がある
・不適切な募集などにより、炎上や風評被害が発生する可能性がある

◆まとめ

ベンチャー企業が資金調達をするうえではさまざまな選択肢がありますが、それぞれ異なるリスクがあり、慎重な検討が求められます。

また、いずれの資金調達方法においても、契約書の締結は必須であり、その契約内容しだいで会社運営に大きな影響を及ぼす可能性も否定できないことから、専門家によるチェックは必須です。

資金調達の判断に迷った場合は、1度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

西尾 公伸

Authense法律事務所

弁護士

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