2人で年収1,150万円の「同性カップル」、愛する人とのマイホームが欲しいだけなのに…住宅ローンを組む際の「高すぎるハードル」
2023年02月27日 17時18分幻冬舎ゴールドオンライン

2月はじめ、衆議院予算委員会において同性婚の法制化について問われ、「社会が変わってしまう課題」と答えた岸田文雄首相。「パートナーシップ制度」を導入する自治体は少しずつ増えているものの、同性婚が認められない現状では依然として同性カップルがマイホームを購入する際、いくつかのハードルがあります。今回は、同性カップルが住宅ローンを組む際の「ハードル」と購入後の「リスク」、それらの解決策について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
依然「同性婚」は認められず…金銭面でハードルが高い同性カップル
2015年、日本で初めて、東京都渋谷区と世田谷区で「同性パートナーシップ」が導入されました。「同性パートナーシップ」とは、LGBTQカップルに対し「結婚に相当する関係」とする証明書を自治体が発行する制度のこと。これによって、銀行や保険会社・住宅・携帯電話会社での家族割など、社会生活のさまざまな場面で配慮を受けやすくなることを目指しています。

2023年2月現在、パートナーシップ制度を導入する自治体は259まで広がっています。しかしながら同性婚とは異なるため、「パートナーの法定相続人になれない」、「遺族年金を受け取れない」など、法律上の制限が依然として残っています。このため、同性カップルが生活していくうえでは、将来を見据えて金銭面でのいくつかの「工夫」をしておく必要があります。この記事では、同性カップルが住宅を買うときの現状と対策について、事例を交えて説明していきます。
“そろそろ自分たちの家が欲しい”…同性カップルのAさんとBさん
「LGBTQ」と一言で言っても、性自認のあり方、カップルの組み合わせには種類があります。所得の現状にもそれぞれの問題があるのですが、ここではあくまで特定の事例を挙げて説明していきます。
・Aさん
……35歳/男性(G)/会社員/年収600万円/預貯金500万円
・Bさん
……38歳/男性(G)/会社員/年収550万円/預貯金700万円
・パートナーシップ制度がある自治体に居住
・どちらも両親や兄弟とは疎遠
AさんとBさんは、ともに平均的な年収で働くカップルです。交際して5年になった彼らは、住んでいる自治体にて「パートナーシップ宣誓」を行いました。これまではAさんが借りているマンションに2人で住んでいましたが、そろそろ自分たちの家を買いたいと思い始めました。
Aさんが理想的だと思った物件は、諸費用込みで約6,500万円。年収の10倍以上です。自己資金として預貯金を入れたとしても、Aさん1人の年収では住宅ローンの融資は難しいでしょう。しかし、Bさんの年収を合算して審査に臨むことができれば、融資を受けられる可能性は高まります。
2人の年収を合算して住宅ローンを組むことは、婚姻関係のある夫婦であればなにも問題のない話です。しかし同性カップルの場合、連帯債務やペアローンでの住宅ローンを利用しようとすると、金融機関での審査にハードルが存在します。
同性カップルが住宅ローンを組む際の金融機関の対応「3パターン」
同性カップルが連帯債務・ペアローンで住宅ローンを借りようとする際、金融機関によって対応に違いがあります。主に、大きくわけて次の3つのパターンがあります。
1.LGBTQ向けの住宅ローン商品を用意しているパートナーシップ制度の証明書や公正証書の提出は不要。ただし「連生型団体信用生命保険」への加入が必須。
2.同性パートナーを「連帯債務者」として受け付けるが、パートナーシップ制度の証明書、および任意後見契約および合意契約にかかる公正証書の提出が必要。
3.想定していない。
誤解のないように説明すると、単独債務(1人で住宅ローンを借りる)や現金での購入の場合は、同性カップルかどうかは問われません。これはあくまでも「連帯債務」や「ペアローン」を利用する場合です。

項目1のパターンは、現在「ネット銀行」だけに存在します。パートナーシップ制度の証明書や公正証書の提出は必要ありませんが、連生型団体信用生命保険への加入が必須です。これは2人のうちどちらかが亡くなった場合住宅ローンの債務が免除されるという生命保険なのですが、金利の上乗せがあります(0.2~0.3%程度)。パートナーシップ制度の登録も、任意後見契約や合意契約にかかる公正証書も必要がないため魅力的です。
次に多いのは項目2のパターンです。パートナーシップ制度の証明書と、「任意後見契約」および「合意契約」に係る公正証書のすべて、もしくはいずれかの提出が必要です。任意後見契約とは、「信頼できる代理人を選び、もし自分の判断力が低下した場合の代理人の権限と範囲を決めておく」というものです。合意契約とは、2人のあいだの約束事をまとめ、「公正証書」として作成するものです。夫婦と同じように同居・扶養・貞操の義務や、権利関係、相続関係の約束事を残しておきます。自治体のパートナーシップ制度は婚姻制度ではないため、個別の義務や約束事を公正証書として残しておく必要があるのです。
しかし実際には、項目3のパターンがもっとも多いのが現実です。案件が少ないため、「想定していない」というものです。しかし今後は取り扱いする金融機関が全国で増えていくものと思います。
パートナーシップ制度を導入していない自治体に居住している場合は、項目1のパターンをとっているネット銀行を利用するか、証明書がなくても合意契約および任意後見契約に係る公正証書の提出のみで利用可能な金融機関を利用することになります。
AさんとBさんが潜在的に抱える「3つのリスク」
住宅ローンの借り入れについては無事クリアしたAさんとBさんでしたが、ご本人たちが気づかぬリスクが3つあります。
1.相続
まず、2人は婚姻関係にないため、それぞれに「法定相続人」が存在します。AさんとBさんのどちらかが亡くなったとき、遺言書があったとしてもすべての財産をお互いが相続することはできません。法定相続人には「遺留分」という権利があり、遺言書があっても法定相続分の1/2を受け取ることができるからです。
Aさんには両親と2人の弟がいますが、同性パートナーの件で理解が得られず疎遠となっているため、もしも将来的にAさんが亡くなった場合、遺されたBさんはAさんの両親と険悪な「相続争い」になることが予想されます。一方のBさんにも、母親と兄がいます。こちらも疎遠であるため、同様のリスクが存在します。
お互いどちらかが亡くなったときに、自宅の名義の持分が法定相続人に相続されることは避けたいところです。スムーズに名義変更できるよう、「遺言書」の作成と「任意後見契約・合意契約」を行っておくべきでしょう。

また、法定相続人との円満な遺産分割を実現するためには現金を用意します。といっても、そのための貯蓄をいますぐ用意するのは困難であるため、「生命保険」を活用するといいでしょう。お互いを「受取人」としたうえで生命保険に加入しておき、死亡時に現金を受け取れるようにするのです。こうすれば、保険会社から受け取った保険金を法定相続人への代償相続として交付することができます。
2.生命保険
いまのところ婚姻関係を持てないLGBTQカップルにとって、生命保険は幾多の問題を解決できる便利な仕組みです。先述した相続の解決にはもちろんですが、AさんとBさんの場合、どちらが亡くなっても住宅ローンを残さないようにお互いに死亡保険に加入しておくことで、家を売却する際にも有利になります。ローンを完済した家を売却し、その代金を法定相続人と分割することもあり得ます。
ただし、LGBTQの生命保険加入には住宅ローンと同じく一定のハードルがあります。まず、お互いを受取人として加入できる保険会社は限られています。生命保険の受取人になれるのは、「配偶者と2親等以内の血縁者」と定めてられている保険会社が多いです。同性パートナーを受取人に指定できる保険会社はいくつか存在しますが、自分が望む保険商品を取り扱っているかは別問題でしょう。
また、税務上でも不利な点があります。同性パートナーが死亡保険金を受け取った場合、生命保険非課税枠(500万円×法定相続人の数)は適用されません。もし相続財産の合計が一定額を超えた場合には相続税が発生しますが、同性パートナーが相続した場合には相続税がさらに20%割増しになります※。
※ 相続税法第18条(相続税額の加算)
このため、適切な死亡保険金の額は納税額を考慮して決めなければなりません。プロに依頼して計算してもらう必要があります。
子なし、親類と疎遠…「マイホーム」処分にも課題が
3.2人亡きあとの「マイホーム」
子どもがいないAさんとBさんの場合、将来的に2人とも亡くなったあとでの自宅の処分に課題があります。ただしこれは同性カップルに限らず、子どもがいないすべての世帯に起こりうる問題です。
親族と疎遠になっているうえに将来の自宅に資産価値がない場合、引き受け手がなく遺族に迷惑をかけてしまうことが想定できます。相続で問題を起こす前に、一定の年齢で売却し高齢者マンションなどに移ることも考えておくべきかもしれません。自身の体力や認知能力に余裕があるうちに現預金を中心とした資産に変えておき、遺族に迷惑かけない工夫が必要です。
日本はこれからますます人口減社会となるため、立地次第では売却が困難になることも考えられます。引き継いでくれる子どもなどがいない場合、購入する前に将来その物件の資産価値がどうなるのか、慎重に考えておくべきです。

長岡 理知
長岡FP事務所
代表
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