築300年以上の「古民家」が「震度7の大地震」でも倒壊しないワケ

築300年以上の「古民家」が「震度7の大地震」でも倒壊しないワケ

"古民家"地震で倒壊しない訳

(※写真はイメージです/PIXTA)

阪神淡路大震災で得た教訓。それは、大地震で命を失わないためには、「住宅の倒壊を防ぐこと」が最低かつ必須条件だということです。倒壊を防ぐための工法は複数ありますが、建築物等の構造物設計・解析を専門とする谷山惠一氏は「免震工法」を推奨し、住宅の免震化に取り組んでいます。なぜ、免震工法が住宅の地震対策として有効といえるのか。その理由を見ていきましょう。

大地震で避難するには「ケガをしていないこと」が第一

前回の記事では、住宅の倒壊を防ぐための工法として、「耐震」「制震」「免震」について解説しました。

耐震・制震・免震工法の特徴をまとめたものが図表1になります。この表を見れば分かるように、すべての危険性を低減できるのは免震工法のみとなります。

[図表1]耐震・制震・免震の違い

耐震・制震の家は、基礎と建物の土台がアンカーボルトで固定されています。そして、地震が発生すると基礎は地面と一緒に動き、基礎に固定されている土台=家も同時に動くことになります。そのため、たとえ建物は倒壊しなくても、中の家具や家電は地震の強さに比例して揺らされてしまいます。その結果、中にいる人間はそれらの下敷きや衝突による被害を受ける可能性が高くなります。

リビングにいるときに大地震が発生すれば、液晶テレビが飛んできたり、本棚が倒れてきます。なかには「自分ならそんなの避けられる」と思う人もいるかもしれませんが、実際には立ち上がる前に飛んでくることが多いようです。

キッチンで料理をしているときであれば、熱湯が入ったヤカンや天ぷらを揚げる油が入った鍋が落下することもあります。そうなれば火傷をする危険も生じます。食器棚が倒れれば、中のモノが飛び出して割れ、床に散乱します。焦って避難しようとする際にそれらを踏みつけて足の裏を切ってしまうかもしれません。

お風呂に入っているときであれば、裸に近い状態で避難しなければならない場合も考えられます。その状態で家中にモノが散乱していれば、さらに危険度が増すはずです。

住宅の地震対策は「倒壊を防ぐだけ」では不十分

家は倒壊しなくても、中身が使い物にならなければ避難せざるを得ません。

筑波大学の糸井川栄一教授が東日本大震災直後に行った調査によると、マンションの住民は、建物が頑丈ゆえに避難する必要がないと思われがちですが、実際は家具の転倒やインフラの停止などによって31%が避難生活を送っていました。

また熊本地震では、家の中にいることが不安なために車で避難生活を送る人が続出し、そのストレスなどから死亡する例が多発しました。

このようなことから、大地震が発生しても家具などが倒れずに今までと同じ生活が続けられる家に住んでいることが重要だということが分かります。

しかしながら、家の内外装に影響がなくても、ガスや水道などのインフラが停止したために避難を余儀なくされるケースもあるはずです。

避難しなければならない場合は、当然ながら移動を伴います。移動するにはケガをしていないことも必要です。

また仮に避難する際に、火災や大津波が迫っていたとします。そしてあなたの目の前で配偶者や子どもなど大切な人が倒れた家具の下敷きになって身動きがとれなくなってしまいました。

「助けたい。でも自分の身にも危険が迫っている」

このような最悪の事態を避けるためには、やはり建物が倒壊しないだけでなく、被災後もすぐに避難できるように家具や家電が倒れないことが重要です。

これを実現できる工法は、今のところ免震しかありません。大地震が発生しても家具は倒れず、食器は飛ばない。そして建物は変形することなく、多少の横揺れを続けても、やがて揺れが収まれば、今までと同じ日常がすぐにスタートできる。仮に避難生活を余儀なくされても、地震発生前と同じ健康な身体で行動することができる。それが免震工法なのです。まさに「免震」こそ、地震の被害を最小限にする最良の方法といえます。

実は、昔の日本の建築物はすべて「免震工法」だった

このように地震に対して圧倒的に有用な免震工法。多くの人は、最新技術を駆使した複雑な建築手法だと思っているのではないかと思います。

しかし、実は昔の日本の建築物はすべて免震工法によって建てられていました。

昔とは明治時代中期くらいまでで、その頃の日本家屋は伝統構法によるものばかりでした。

伝統構法に明確な定義はないようですが、現在の木造軸組構法(在来工法)と明らかに異なるのは、前者は免震構造であるということです。

伝統構法の家とは、いわゆる「古民家」と呼ばれるもので、築後300年を経過しているものも数多く存在します。

なぜそれほど長く存在し続けられるのか。それはやはり「先人の知恵」が反映された構造・構法だからです。

「伝統構法で建てられた家」が大地震に強いワケ

伝統構法の家屋には、大きく三つの要素が含まれています。それは「木組み」「土壁」そして「石場建て」です。

皆さんも田舎に行くとそのような家屋を目にしたことがあるかと思います。例えば、代々続く農家などがこのような家屋です。屋根は、最近では少なくなった茅葺、藁葺、または瓦。軒は長く張り出していて、必ず縁側があります。梁や柱は壁の中ではなく外面に露出しています。壁は土壁。そして、床の下を見ると柱が土台まで通っていて、石の上に載っているだけ。そんな家屋が伝統構法の家です。

このような構造になったのにはそれなりの理由があります。

まず、「木組み」です。日本の国土面積に占める森林面積はおよそ70%です。したがって、家屋の構造材料として大半の場合、木材が使われます。

ここで重要なのは、そのつなぎ方です。伝統構法では、釘やボルトといった金物は使いません。「ほぞ継ぎ」といい、「ほぞ」(凸)と「ほぞ穴」(凹)を作り、はめ込んで柱や梁を連結していきます。時には、その間に「くさび」を差し込んで固定します。

実はこの構造には耐震上、重要な役目があります。地震の振動を受けたとき、「ほぞ」と「ほぞ穴」が擦れます。これによって地震の力が低減されるのです。専門的には「減衰作用」といい、擦れることで効果を発揮します。もし、これを金具でしっかり緊結してしまうと、ある一定までは持ちこたえるのですが、その限度を超えるといっぺんに破壊してしまうのです。

次に、「土壁」です。伝統構法の「土壁」と現在の在来構法の壁との決定的な違いは、前者には斜めに設置される「筋違い」と呼ばれる部材がないことです。

具体的には、木組みの柱と梁(貫)の間に竹材で小舞を編み、土で壁を作っていきます。これにより柱と梁(貫)で構成される立体的な構造体が形成され、地震発生時は壁が壊れることで揺れを吸収します。

一方で在来工法は、揺れに対する抵抗体としての「壁」をつないで構成する平面的な構造体です。

最後が「石場建て」です。実はこれこそが本稿のテーマに深く関係する部分です。

伝統構法の基礎は家の中の柱が土台まで通っていて、それがただ石の上に載っているだけです。

一方で現在の在来工法の基礎は、幅12cm程度、高さ40cm程度のコンクリート基礎の立上り部分にアンカーボルトを埋め込み、木材の土台梁を固定(緊結)しています(図表2)。

[図表2]在来工法の基礎

この二種類の基礎には、決定的な違いがあります。

「石場建て」では、地震を受けた際、家屋は石の上を滑って移動します。しかし在来工法では、アンカーボルトが切断されない限り、地面と同じように動いてしまうのです。例えば、震度7の地震があった場合、「石場建て」なら、家が石の上を滑ってずれます。これにより、震度7の力が解放されるのです。その結果、屋内に伝わる揺れは大きく低減されます。

しかし在来工法は、アンカーボルトで地面と完全に固定されているので、それが破壊されない限り地面と一緒に動きます。したがって、地面の揺れが震度7なら、家にも震度7の力がかかるということになります。

地面に対して家が滑ることによって、地震の力が屋内に伝わらないように考えられているのが伝統構法の「石場建て」です。まさに地震大国日本の風土に合致した免震構造といえます。

ぜひ、身近な古い神社仏閣などの基礎の部分を確認してみてください。おそらく多くは、礎石の上に柱が載っている石場建てになっているはずです。

谷山 惠一

株式会社ビーテクノシステム 代表取締役社長、技術士

日本大学理工学部交通工学科卒業後に石川島播磨重工業(現:株式会社IHI)入社。橋梁設計部配属。海外プロジェクト担当としてトルコ・イスタンブールの第1ボスポラス橋検査工事、第2ボスポラス橋建設工事等に参画。第1ボスポラス橋検査工事においては、弱冠28歳でプロジェクトマネジャーとして従事し、客先の高評価を得る。

その後、設計会社を設立し、海外での橋梁建設プロジェクトに参画。当時韓国最大の橋梁であった釜山の広安大橋建設工事などに、プロジェクトマネジャーとして従事。橋梁、建築物等の構造物設計・解析を専門とする。現在は橋梁設計のほか、独自の技術で一般住宅向け免震化工法「Noah System」を開発し、普及に努めている。元日本大学生産工学部非常勤講師。剣道五段。

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  • 3

    古民家が倒壊しないのは東海地方では無いからだよね。 www これはジョークで1番の理由は屋根が軽い素材で造ってあるからだよね。www

  • 2

    最後の執筆者の紹介文の、一番最後の「剣道五段」は無意味な情報だよね。 ウケ狙い?

  • 1

    数百年物の古民家が壊れない理由の第一は、壊れるような立て方をしたものは過去の地震でとっくに壊れて残っていないからだ。

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