共働きで退職金2,500万円の「63歳・勝ち組夫婦」…余裕の老後のはずが一転、妻「死ぬまで働きます」のワケ【AFPが解説】
2023年03月07日 12時33分THE GOLD ONLINE

同期入社で結婚したK夫妻。結婚後もともに総合職としてバリバリ働いてきました。40歳で第一子が生まれましたが、退職金も夫婦合わせて2,500万円あり、申し分ありません。ところが、予想外の事態が起こります……。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也氏が、K夫妻の事例をもとに、老後を見据え考えておきたい「遺族年金」や必要な介護費用について解説します。
予定外の高齢出産…2馬力の世帯年収も「まさか」の事態に
同じ会社に同期で入社したK夫妻。29歳で結婚し、相談のうえ「子どもはいらない」と考え、ともに総合職でバリバリ働きながら思う存分贅沢をする、悠々自適な生活を送っていました。
しかし、39歳で妻がまさかの妊娠。40歳で第1子を出産しました。子どもが生まれたあとは旅行や外食といった贅沢の頻度を抑えながら、子どもが3歳になったタイミングでマイホーム(4,000万円のマンション)を購入。ローン額は、60歳定年時に2,000万円ほど残る程度です。
2馬力の世帯年収でその後も特に不自由なく生活し、退職金も2人で合計2,500万円ほど受け取ったそうです。
子供も大学を卒業し、これからは2人で楽しい老後を過ごそうと計画を立て始めた矢先、夫が交通事故で急逝。63歳でした。
残された妻は途方にくれます。それもそのはず、描いていた「余裕の老後生活」は夫との2馬力の収入でした。さらに、退職金は住宅ローンの繰り上げ返済と子供の大学費用に消えています。決定的なのが、子供が大学を卒業したタイミングで保険を見直しており、死亡時保障の手厚い保険を解約してしまっていたのです。
Kさんの妻に対する国の補償…受け取れる「遺族年金」の額は?
「遺族年金」とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者が亡くなった際、被保険者に生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2つがあり、亡くなった方の加入状況などによって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。
遺族基礎年金の対象となるのは「子のある配偶者」もしくは「子」です。K夫妻の場合お子様がいらっしゃいますが、ご主人が亡くなった時点で成人されているため、これを受け取ることはできません。
ただ、Kさんが亡くなったご年齢が63歳であるため、妻は遺族厚生年金の「中高齢寡婦加算」を65歳まで受け取ることができます。
「中高齢寡婦加算」とは
遺族厚生年金においては、夫が亡くなったときに妻の年齢が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない場合、65歳になるまでのあいだ58万3,400円(年額)が加算されます。
65歳以降の遺族厚生年金額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4となります。ただし、65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある方が、配偶者の死亡により遺族厚生年金を受け取るときは、「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額」と「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の1/2と自身の老齢厚生(退職共済)年金の1/2を合算した額」を比較し、より高いほうが遺族厚生年金として支払われます※。
※ 日本年金機構「遺族年金」より
K夫妻は共働きで、妻は産後の早い時期から職場復帰されていたため、妻が受け取る65歳以降の年金について影響はほとんどありませんでした。
Kさんの妻が受け取る年金額は月額約15万円です。日々の生活費は20万円ほどかかるため、不足している5万円をなんとかする必要があります。
・食費……4万円
・住宅関連費……5万円
・水道光熱費……1,5万円
・医療費……5,000円
・交通費……1万円
・衣服、美容関連費……2万円
・趣味……1万円
・通信費……5,000円
・保険料……1,5万円
・その他……約3万円
ローン完済後も立ちはだかる「マンション維持費」問題
K夫妻はマンション購入後、ローンを完済しましたが、その後も月々の管理費・修繕積立金が発生しています。
マンションにおける「管理費」は管理人の人件費や共用部の電気代・清掃費などに、「修繕積立金」はエレベーターのメンテナンスや外壁など大規模修繕の際に支払う必要があります。
平成30年度の全国におけるマンションの平均管理費は月々1万5,956円/戸あたり、修繕積立金は月々1万2,268円/戸あたりです※。そのため、住宅ローンの返済がなくともマンションの維持費として全国平均で月々2万8,224円程度のランニングコストが発生します。
※ 国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果」より
K夫妻の所有されているマンションは、ゆったりとしたロビーや庭園があり、外構部に植栽があるなど、共用部が充実しています。さらに管理人さんも常駐しているため、月々の管理費・修繕積立金が平均よりも高くなっています。
加えて、固定資産税も年間十数万円ほどかかりますので、月々の管理費・修繕積立金と合わせて年間60万円ほど必要となります。
マンションを購入する際、部屋の間取りや設備についてはチェックするものの、将来の管理費や修繕積立金まで確認して購入される方はあまり多くありません。購入前に、子どもが巣立った老後の生活スタイルについてもシミュレーションしておくことをおすすめします。
平均寿命と健康寿命
令和3年時点で、男性の平均寿命は 81.47年、女性の平均寿命は87.57年となっており、平均寿命は男性より女性のほうが6.1年長くなっています※。
※ 厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」より
同い年の夫婦であれば奥様のほうが長生きされる確率が高いため、奥様が1人で老後を過ごす場合に備えておきましょう。
また平均寿命と「健康寿命(介護を必要とせず、健康で日常生活を支障なく過ごすことができる寿命)」を比較した場合には、男性で約8年、女性で約12年の差がありますから、介護が長期化しても安心して過ごせるよう準備しておきたいところです。
「自宅」か「施設」かで大きな違い…考えておきたい“終の棲家“
今回、Kさんに先立たれた奥様ですが、平均寿命を見るとわかるように男性よりも女性のほうが長生きする傾向にあるため、「終の棲家」についてもよくよく考えておく必要があるでしょう。
誰しも、最期は人の手を借りて生活する場面が増えてきます。生活の場として自宅(在宅)で継続して過ごすのか、場所を移して施設で過ごすのか、選択肢は大きく2つに分かれます。それぞれ、どれほど備えがあればよいのでしょうか。
在宅でも施設でも…一般的な「介護費用」の額は
生命保険文化センターが行った調査※では、過去3年間に介護経験がある人に「どのくらい介護費用がかかったのか」を聞いたところ、介護にかかった費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計は平均74万円、月々の費用が平均8.3万円となっています。
介護を行った期間(現在介護を行っている人は、介護を始めてからの経過期間)は平均61.1ヵ月(5年1ヵ月)で、4年を超えて介護した人も約5割と、半数以上の方が長期間介護を行っていることがわかります。
※ 公益財団法人生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」より
上記のデータをもとに単純計算してみると、準備すべき介護費用は74万円+(8.3万円×61ヵ月)=580万円となります。日々の生活費とは別に準備しておきましょう。
なお、上記調査で介護を行った場所別に介護費用をみると、在宅では月額平均4.8万円、施設では月額平均12.2万円となっています。
在宅の場合…「リフォーム費」の考慮を
自宅で過ごす場合、持ち家であれば家賃は発生しませんが、身体の状態に合わせてリフォームが必要になる場合があります。
マンションであればバリアフリーになっていることが多いですが、戸建の場合には玄関や廊下などに段差があることも多く、リフォームが必要になるケースが少なくありません。また、足腰の筋力が衰えてくるとトイレや浴室に手すりを備え付ける必要も出てきます。
リフォーム代の目安は、以下の通りです。
・屋内の段差解消……1~10万円ほど
・玄関先の段差解消……10~60万円ほど
また、介護ヘルパーを利用する場合には介護サービス費が発生しますが、施設で過ごす場合と比較すると月々の負担は低く抑えることができます。
施設の場合…「タイプ」により金額に差
自宅で過ごすのは心細いという方は、施設に入所するという選択肢があります。ただし、「施設」と一口にいってもさまざまなタイプがあります。月額費用の相場は以下のとおりです。
・特別養護老人ホーム……5~20万円
・サービス付き高齢者向け住宅……13~23万円
・介護付き有料老人ホーム……20~35万円
など※
※ 施設の月額費用には介護サービス費、食費居住費、管理費などが含まれています。
また、特別養護老人ホームを除き、施設へ入居する際には一般的な入居費用としてサービス付き高齢者向け住宅で10~20万円ほど、介護付き有料老人ホームで30~600万円ほどかかります。
それぞれの施設によって方針・サービスの違いもあり、日々のレクリエーションが充実した施設もあれば、お酒やたばこなどの嗜好品が制限される施設もあるので、ご自身の生活スタイルに合った施設を探しましょう。
自分に合った介護サービスがわからない場合は、ケアマネージャーに相談するといいでしょう。ただし、ケアマネージャーにも医療に詳しい看護師から介護経験のある社会福祉士などさまざまな背景を持つ方がいますので、ご自身の意向に合った専門家を見つけてください。
まとめ
定年退職後の老後も、予想以上にさまざまな費用がかかります。またK夫妻のように、不測の事態が起こることも十分にありえます。
本来は夫婦2人で悠々自適な老後を過ごすはずであったK夫妻。妻は、今後必要になるであろう老後費用への不安から「死ぬまで働くしかないんですかね……」と、途方に暮れていました。
第二の人生を平穏に過ごせるよう、老後の生活に潜むリスクについて知っておくことが重要です。より詳細なプランを立てたい方は、お近くのFP事務所へご相談ください。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役
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