SDGsは人類史上類を見ない規模の世界共通ビジョンである
2023年03月06日 05時30分幻冬舎ゴールドオンライン

SDGsは、Sustainable Development Goalsの頭文字をとったもので、日本語では持続可能な開発目標と翻訳されている。株式会社電通による2022年4月の「SDGsに関する生活者調査」※1では認知率86%という結果であり、認知度は高まっている。しかし、企業による取り組み度合いの差は大きく、取り組んでいる企業と取り組んでいない企業(取り組んでいるように見せているだけのSDGsウォッシュを含む)との格差は広がるばかりである。今回、企業がSDGs経営を導入して持続可能なビジネスモデルを構築する方法を3回にわたって紹介する。第1回はSDGs経営とはどのようなものか、なぜ取り組むべきなのかを紹介する。
企業がSDGs経営に取り組む意義は大きい
2015年9月25日~27日、ニューヨーク国連本部において開催された「国連持続可能な開発サミット」にて、150を超える加盟国首脳の参加のもと採択された世界共通の未来ビジョンであるSDGs。その成果文章としての「持続可能な開発のための2030アジェンダ」※2には以下のような文言が記載されている。
<この偉大な共同の旅に乗り出すにあたり、我々は誰も取り残されないことを誓う。>
<誰一人取り残さない>というのは、SDGsの根底にある重要な精神である。
<このような広範でユニバーサルな政策目標について、世界の指導者が共通の行動と努力を表明したことは未だかつてなかった。>
SDGsは人類史上類を見ない規模の世界共通ビジョンである。
<民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。>
<民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める。>
企業が取り組む意義は非常に大きい。現状の取り組みレベルではなく、創造性とイノベーションの発揮が求められる。
このように、人類史上類を見ない規模の世界ビジョンであるSDGsに企業として取り組む目的は、世界レベルでの課題認識を共有することであり、“誰一人取り残さない”ためにすべての企業が取り組まなければならないものであることは容易に理解できるのではないだろうか。
こうした課題認識のもと、創造性とイノベーションを発揮した企業活動によりSDGsを実現しようとする取り組みを「SDGs経営」と定義する。
企業経営にSDGsを取り入れるにあたって認識すべきことは、持続可能な開発の3つの側面である経済・社会・環境の調和が必要であり、企業活動をこの三側面に対して連動させたアプローチとすることが重要であるという観点である。
自社にとってのSDGs経営はこの経済・社会・環境の課題に対してしっかりアプローチできているか、経済活動が環境課題や社会課題の解決にまでアプローチできているかを考えながら、創造性とイノベーションを発揮してSDGs経営に取り組んでいただきたい。
SDGsに取り組むメリットを経営に生かす
SDGs経営に取り組むメリットは大きく、裏を返せば取り組まないことによるリスクが存在する。SDGsの考え方や目指す姿は誰もがその趣旨に賛同するだろう。しかし、いざ企業として取り組むとなると、「効果が見えない」「取り組み方が分からない」と二の足を踏む企業も多い。総論賛成ではあるが、各論反対なのである。
ここで断言するが、メリットとリスクを理解し、躊躇なくSDGs経営へ邁進すべきである。これは企業規模や業種を問わない。誰一人取り残さない精神は、恩恵を享受する側だけでなく、提供する側も誰一人取り残してはいけないのである。
SDGsに取り組むメリットを以下の3点にまとめる。
①全世界で取り組むべき成長市場を示している
SDGsは世界共通の課題であり、この課題に対して国を挙げて推進する意志を固めている。VUCA時代※3と言われる先行きが見えない時代にあって、唯一と言っていいほど成長市場を明確に指示している。ここへのアプローチは大きなチャンスとなる。
②同じ想いを持つステークホルダーとのパートナーシップが構築できる
17番目のゴールにある通り、パートナーシップは重要なテーマである。しかしながら、日本人や日本企業は苦手とされている。そこでSDGsに本気で取り組むという想いを発信することによって、その想いを共にする仲間をつくることができる。同じ想いを持った仲間による成果のインパクトは1社での取り組みの比にならないほど大きい。社内外へ想いをしっかり発信しよう。
③企業価値を高める企業ブランディングにつながる
企業を評価するモノサシが変わってきている中、社会貢献する企業への評価は年々高まっている。SDGsへの貢献は企業価値を高め、大いにブランディングに役立つ。そしてそれがさらなるSDGsへの大きな貢献につながるという正のスパイラルにつながる。
また取り組まないことによるリスクについても以下3点でまとめる。
①今対策を打たなければ将来の経済・社会・環境のリスクを増大させることになる
2030年までに解決しなければ将来に大きな危機を及ぼす17の課題に対して、今取り組まないということは、企業や個人、子孫の安全・安心を脅かすことにつながる。今以上にリスクを拡大させる活動は決して許されるものではない。「自社一社くらいいいだろう」「これくらいでいいだろう」といった考えは即刻捨てるべきである。
②サプライチェーンでの取り組みに後れを取ることで事業機会を喪失する可能性がある
大手企業を中心に業界全体やサプライチェーン全体での取り組みが重要だという認識が強くなっている。そうした風潮の中、自社だけ取り組まないということになるとサプライチェーンから外されるリスクもあり、事業継続に悪影響を及ぼす可能性がある。今はまだそういった動きがないという企業も、数年のうちにはその流れにのまれることになる。そうなってから慌てて取り組むのではなく、リードするくらいの気概が必要である。
③世界の意識が変わる中で、顧客や社員などあらゆるステークホルダーから選ばれなくなる
エシカルな消費活動が一般消費者にも広がりつつある。世の中の風潮は間違いなく良い方向へ変化している。その変化についていけない・ついていかないとなると、やがて顧客や社員から選ばれなくなってしまう。真正面から取り組む企業姿勢に顧客も社員も感動し、エンゲージメントが高まるのである。
企業に求められるのは創造性とイノベーション
SDGsについて様々な企業の方とディスカッションをさせていただくと、「改めてSDGsと言わなくても、我々は過去からすでに取り組んでいる」というお言葉を多く耳にするようになった。自社の製品やサービスは顧客の課題解決につながるからこそ支持され、取引が継続しているということである。既存の事業活動が顧客の課題解決につながっているという認識に反論はしない。しかし、ここで考えていただきたいことが2つある。
1つ目は、SDGsの取り組みの一方で、社会課題を生み出している活動は無いかということである。例えば、顧客の役に立つ製品を作り出す工程において排出された二酸化炭素などによる環境への負荷に十分配慮できていたかなどが挙げられる。これからも顧客の課題、社会の課題に対する解決策を、事業を通じて提供し続けることに企業価値を見出していくことに変わりはない。
しかし、その生み出し方にも目を向け、企業価値の厚みと深みを増す活動が、未来の企業戦略にとって大変重要になる。
2つ目はより大切な考え方であるが、世界中の企業がこれまでも顧客の課題に真摯に取り組み、貢献する事業を行ってきた結果が17のゴールに代表される「積み残された課題」という形になっているという現実についてである。端的に言うと、現状のままでは不十分なのだという正しい危機感を持つことである。
世界中の企業が課題を解決する事業を行っているにもかかわらず、世界のサステナビリティに懸念を示す状況になっているのはなぜだろうか。世界中のすべての企業が根本的に上流から下流までのビジネスモデルを見直し、パートナーシップのもと創造性とイノベーションによる貢献価値の変革を迷うことなく推進しなくては解決しないのである。大きな視野で自社がどのように課題解決へ取り組むのかを見直していただきたい。
われわれ企業は「なぜSDGsに取り組むのか」「何をどのようにSDGsで実現するのか」を経済・社会・環境の三側面で明確にする必要がある。今こそ、そうした大きな視点に立って行動に移していきたい。
SDGsはきれいごとの思想ではない。未来の環境や社会や経済のために必要不可欠で、誰もが例外なく取り組まなければいけない世界を巻き込んだ“行動”なのである。掲げるだけではなく“行動”することが重要である。ここにビジネスチャンスがある。
今、SDGs経営へ本気で取り組むことが5年後10年後の価値ある企業を創るのである。
(参考文献) ※1 電通 SDGsに関する生活者調査 https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0427-010518.html
※2 持続可能な開発のための2030アジェンダ https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/ https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
※3 VUCA Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもので将来の予測が困難な状態の意味
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