手取り40万円・34歳のフリーランス、鬱病で「障害等級3級」と診断…年金受け取れず、生活苦の挙句の果てに「俺は、父親失格だ」

(※写真はイメージです/PIXTA)

フリーランスや自営業として働く人にとって、働き方や目の前の収入ばかりに目が行き、公的な保障が少ないことを意識できていない人もいるのではないでしょうか。けがや病気で病院にかかる際の公的補助はあるものの、働けなくなった際に受け取れる保障がないことも、しっかり考えておかなくてはなりません。本記事ではフリーランスで鬱病となり、障害等級3級と診断されたSさんの事例とともにFP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が障害年金について解説します。

自営業者が働けなくなったときの補償

昨今では保険ショップが増え、自分から保険について考える人も多いようです。週末には家族連れで相談している姿を見かけることもよくあります。相談の多くは、家計を支える家族が亡くなったときの残された遺族への保障やけがや、病気で入院したときの保障に対するものではないでしょうか。最近では、働けなくなったときの保障についても気にかける人が増えています。

会社員などの場合には、けがや病気などで4日以上(連続3日間を含む)、仕事を休んだ場合は加入している健康保険組合から傷病手当金が支給されます。しかし自営業など1号被保険者では、傷病手当金の支給はなく、けがや病気で仕事を休んだ場合には、収入もなくなってしまうことになります。公的年金では、「障害年金」というけがや病気で所定の障害状態となった場合に支給されるものがあります。

フリーランスは障害年金が受け取れない!?

障害年金は1級の場合、令和4年度は97万2,250円+子の加算額(2人まで1人につき22万3,800円、3人目以降1人につき7万4,600円)が支給されます。2級の場合は、77万7,800円+この加算額となります。

会社員など厚生年金に加入している場合には、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。障害厚生年金の1級は報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(22万3,800円――生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算)が支給され、2級は報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額となります。さらに障害厚生年金は3級のときに報酬比例の年金額(最低保障額58万3,400円)の支給もあります。

障害年金の受給要件として、初診日に加入していた年金制度が採用されますので、これまで会社員として働いていて、フリーランスなど自営業になった場合、その傷病の初診日が会社員のときなのか自営業になってからなのかによって、どの障害年金が受け取れるか判断が変わってきます。自営業になってから初診日となった場合には、障害認定日に障害等級表の1級または2級に該当していると、障害基礎年金の受給の開始となります。

会社員などの社会保険に加入している場合には、初診日から休業を余儀なくされた場合でも傷病手当が1年6ヵ月まで、それまでの給与の3分の2程度は支給されます。しかしフリーランスや個人事業主などが加入する国民健康保険には傷病手当が基本的にはないため、この1年6ヵ月分の収入が無くなってしまうケースがあります。

障害等級3等級と診断された、フリーランスで働くSさん

自営業者などは障害基礎年金を受給することになります。所定の障害状態とは、国が定めた障害状態によって1級から3級まであり、障害基礎年金では1級もしくは2級に該当した場合に、年金が支給されます。厚生年金では、3級や障害手当金という障害の等級に該当しない場合でも一時金を受け取ることができる場合もあります。

フリーランスでITエンジニアとして手取り40万円の収入を得ていた34歳のSさんは、4歳の子どもと妻の3人暮らしでした。会社員からフリーランスになり、自宅にいる時間が多くなったことで妻と喧嘩が絶えなくなってしまい、結果として離婚にまで至りました。

Sさんは離婚による精神的なダメージが大変大きく、鬱病を患ってしまい、思うように働けなくなりました。障害認定を行った結果、障害年金の判定は、精神疾患で障害等級3等級の診断が下りました。

障害年金は1級~3級まであり、会社員として働いている人が3等級以上に該当すれば、障害年金を等級に応じて受け取れます。しかし、フリーランスの場合、加入している年金では1級もしくは2級の時に障害年金が受け取れますが、3級では受け取ることができません。

仮にSさんが会社員のときに初診日があり、障害年金の3級に該当していれば、報酬比例部分の年金額の支給がありました。フリーランスとなってから手取りは40万円でしたが、会社員の時には毎月の手取り35万円、税引き前の年収では525万円です。この場合、障害年金3級にあたる約72万円(月額約6万円)が受け取れたのです。


今回のケースでは、Sさんは初診日がフリーランスになってからであったため、この3級の年金も受給することができませんでした。鬱病と診断されましたが、障害等級1・2級と比べ軽度の診断であったため、日常生活や社会生活に制限はあるもののまだ仕事はできました。

しかし、いままでのように仕事を熟すことができなくなったことで収入も大幅に減り、養育費を支払えず、目の前の生活さえ厳しい状態に陥りました。養育費が支払えないことに「父親失格」と自分を責め、益々Sさんの体調は悪化していくこととなりました。

自営業やフリーランスの人は生活費の1年6ヵ月分は備えておくべき

フリーランスや自営業者などの場合、障害年金1級、2級の認定を受けた際、障害年金を受け取るまでの1年6ヵ月という期間の収入を考えておかなくてはいけません。もちろん潤沢に資金があり、1年6ヵ月分の生活費が準備できているのであれば、問題はないといえるでしょう。

ただ、収入が不安定なケースが多い、フリーランスや自営業者の場合、なかなか貯蓄をしておく余裕がなかったり貯蓄額が大きく変動したりしてしまうということもあるかもしれません。今回のケースのように障害認定はされたものの3級であれば、障害年金を受け取ることすらできなくなり、労働に制限が出たときのことを考えておかなくてはいけません。

民間の保険では、「収入保障保険」という万が一のときの死亡保障として準備できる保険はありますが、働けなくなったときに利用できるものがあります。生命保険では就業不能保険、損害保険では所得補償保険が働けなくなるリスクに備えられる保険です。これらは一定の期間以上働けなくなると、保険金を受け取ることができます。

公的な年金を受け取るまでの期間の収入の補填をするということも考えられますが、障害基礎年金は1級に該当した場合でも、子ども2人で年間141万9,850円(月額約12万円)、と年金だけで生活をしていくには、厳しい額になります。さらに3級の認定では、ある程度の制限はあるものの労働を続けることができる可能性もありますが、健康な時と同じくらいの収入を得られない可能性もあります。それにもかかわらず障害年金を受け取ることはできません。

収入保障保険などを活用し、最低でも子どもが大学を卒業するまでの保障を考えておく必要があります。年金の考え方では子どもは18歳になった年度末までとなっていますので、子どもが大学進学後の年金額の減少を踏まえた保険金の設定も考えておくと安心です。

フリーランスという働き方を考えるときには、不測の事態に備えた自己防衛を考えておく必要があるといえます。

<参照>
厚生労働省:「生活保護制度の現状について」
総務省:令和3年度家計調査(家計収支編)

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表

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