ロシアの「ウクライナ侵攻」が加速させた「円安」と「エネルギーの高騰」…「戦争」が世界経済に与える大きすぎる「影響」とは

(※写真はイメージです/PIXTA)

高校での投資教育が必須になるなど、経済に対する教育への関心が高まっています。そこで本連載では、専門的な知見を生かし、経済に関するニュースをわかりやすく解説することで人気を博している経済キャスターのDJ Nobby氏が、著書である『実は大人も知らないことだらけ 経済がわかれば最強!』(KADOKAWA)から、日本と世界の経済について解説します。

ロシアによるウクライナ侵攻。世界経済への影響は?

■TOPICS

長期化するウクライナ侵攻

2022年2月24日、ロシア・プーチン大統領がウクライナ東部での「特別な軍事作戦」実施を発表。首都のキーウなどにミサイル攻撃や空爆が開始され、ウクライナ侵攻が始まりました。

同日中にウクライナのゼレンスキー大統領が「戦時体制」の導入を宣言。26日には、EUやアメリカ・イギリスなどがSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの銀行を締め出すという制裁を行いました。

ロシアによるウクライナ侵攻は決着の目途が見えず、いまも争いが続いています。

現在進行形で世界情勢の均衡を乱し続けているのが、ロシアによるウクライナ侵攻。ロシアの一挙手一投足が、世界規模に影響を与えています。

戦争は、世界経済を大きく揺さぶります。ロシアによるウクライナ侵攻が世界にどのような影響を与えているのか、見ていきましょう。

ウクライナ侵攻はなぜ起きた?

ロシアによるウクライナ侵攻は刻一刻と状況が変わっており、さらに着地点が想像しにくいため、これからの経済に与える影響を想像することも難度が高い問題です。

その上で、現時点でわかっている限りでこの戦争のことを紐解いていきたいと思います。

まず、なぜロシアはウクライナに侵攻したのでしょうか? よく言われているのは、NATO(北大西洋条約機構)とロシアの対立という背景です。

■Nobby‘s point

NATOが目指すこと

NATO(北大西洋条約機構)とは、1949年にはじまったヨーロッパ及び北米の30か国による軍事同盟のこと。加盟国の領土・国民を防衛することを最大の責務としており、加盟国が外部から攻撃された場合の集団的自衛に合意。集団防衛のシステムを築いています。

日本は加盟していませんが、NATOは日本を含む非加盟国とも協力し、「世界の安全保障」の確立を目指しています。

ウクライナ侵攻の背景にある、根深い対立

第二次世界大戦までさかのぼると、ソ連とアメリカはもともと連合国としてともに戦っていました。

ドイツやイタリアが同一の敵で、もとは対立国ではなかったのです。しかし戦後、ソ連とアメリカは敗戦国・ドイツの技術者や科学者を取り合うことになります。これを発端として冷戦構造が生まれ、核や宇宙開発の分野で競争が激化します。

そして1955年、ソ連と東欧8か国が、NATOに対抗しワルシャワ条約機構を結成。これにより、二大軍事同盟対立の図式が完成し、ヨーロッパは東西に分断されることになりました。

NATOは1991年のソ連解体後、加盟国を拡大しました。ロシアは一貫してNATOの東欧拡大に反対しており、「次はウクライナ加盟か」というタイミングでロシアが侵攻したと考えられます。

ウクライナ侵攻の影響で「円安」が加速

現在、為替市場では円安が進んでいます。この状況とウクライナ侵攻は、実は連動しています。

ウクライナ侵攻による経済制裁で、ロシア産の原油やガスの輸入を欧米諸国が大幅に縮小しました。そのため燃料価格が高騰、さまざまな商品の価格が上がり、“インフレ”の状態となりました。

価格が上がり続けると国民生活に大きな影響が出るため、欧米各国は政策金利を上げて対応しています。

一方で、物価上昇や景気回復のスピードが比較的緩やかな日本はゼロ金利を堅持しています。

そのため、欧米先進国と日本の間の金利差が拡大され、より高金利のドルやユーロが買われて円が売られる動きが強くなり、急激な円安が進行しているのです。

■Nobby‘s point

ウクライナ侵攻、ロシアの言い分

一部で言われていることですが、「NATO加盟国を拡大しない」という口約束がアメリカ・ロシア間で行われたという説があります。しかしこれはロシア側の文書にしか残っておらず、相互検証ができません。

ただ、ロシア側としては過去の約束を反故にされたとの思いも強く、それが今回のウクライナ侵攻の背景になったという考え方もできます。

アメリカが実施した金融引き締め策

2022年3月16日、アメリカは政策金利の0.25%引き上げを発表しました。これはコロナ禍で実施していたゼロ金利政策を解除し、金融引き締めに転換するということです。

これにより、投資家がドルを買う動きに入っています。ゼロ金利の円で運用するより、金利が少しでも高いドルで運用したほうが効率がよいからです。

その後もアメリカのインフレは収まっておらず、2022年5月には0.5%、6月、7月は2か月連続で0.75%の利上げを行いました。日米の金利差は大きく拡大しており、今後もドル高の圧力は続くものと見られます。

■Nobby‘s point

日本がアメリカと同じ対策を打てない理由とは

アメリカは金利の引き上げによりドル安を食い止めようとしていますが、これと同じ方針を日本がとることは難しいと考えられます。

なぜなら日本は現在、物価は上昇しているものの給料が反映されていない、という状態にあるからです。つまり金利を上げると、庶民の生活がさらに厳しくなってしまうのです。

そのため、金利が上がらず物価が上がり続けることで、インフレが加速することが想定できるのです。

本来、日本は輸出が強い国です。円安が進めば日本製品を安く売ることができるため、外国との競争力は上昇します。

ただ現在の日本は、工場を海外に移転してきた企業も多く、円安のメリットを以前ほど享受できない状況にあると言われています。

また、円安により輸入コストも上がるため、継続的な赤字になってしまうことが考えられます。つまり、どれだけ海外で日本企業の製品が売れたとしても、日本にあるお金はどんどん海外に流出していく可能性があるのです。

資源価格の高騰による消費者への影響

ウクライナ侵攻により、資源価格の高騰が進んでいます。日本を含む各国は、これまでロシアから原油やガスを安く輸入できていました。

しかしロシアからの供給が減少している現在、先物市場で資源価格が上昇しています。現時点で「すぐになくなる」ということはありませんが、いずれエネルギー確保が大きな問題になると考えられます。

日本の商社はサハリンでガス田の権益を保有しています。ここで採れるガスが、日本の多くの発電所で使われているという現状があります。

日本にとってサハリンのガス田が重要である理由の1つは、地理的条件です。日本から近いために輸送コストが安く、輸送にかかる日数も短いために機動的に調達できるというメリットがあります。

また、もう1つの理由はコストです。長期契約を結んでいるため、有利な価格で調達できるのです。

日本のエネルギー政策を考える上で、サハリンのガスは非常に重要と言えます。しかしウクライナ侵攻を機に、各国企業がロシアから撤退を表明しています。今後の政府の方針しだいでは日本企業の撤退も十分あり得ます。

そうなったとき、代替となる供給源を確保できるかどうかが大きな問題となるでしょう。

もしガスの仕入れ先をロシアから中東に変えると、日本全体で年間2兆円ほどガスの調達コストが上昇すると想定されています。これが電気代に反映される可能性が高いため、ウクライナ侵攻は日本人の生活にも大きな影響を与えると考えられます。

そして燃料価格は、すべての生産に影響します。海外から日本に輸入するための船にも使われますし、国内の食料生産にも使われます。発電所の稼働や衛生施設の維持にも、燃料は必要です。

ただ、ロシアのプーチン大統領は2022年6月30日、「サハリン2」の権益を持つ外国企業に対し、ロシアが設立する新会社の経営に参画しなければ、権益を接収すると大統領令を出しました。

今後の動きによっては日本の商社も権益を失いかねず、動向が注目されています。

■Nobby‘s point

ウクライナ侵攻が原子力発電再開のきっかけに?

国内の原油在庫には限りがあります。そのため、ウクライナ侵攻が長期化すれば、必ずどこかで原油不足に陥ります。

燃料はお金さえあれば買うことができるので、国民が物価の上昇に耐えられる限りは現状維持が可能です。

ただ、これを機に比較的低コストで、燃料の再利用も可能な原子力発電所の再開が活発に議論に上がるのではないでしょうか。現在はほとんど稼働停止している原子力発電所ですが、ウクライナ侵攻がきっかけで再稼働の動きが活発化しそうです。

グローバル経済が縮小し、自由な貿易ができなくなる?

ウクライナ侵攻により、グローバル経済の動きが縮小していくことが想定できます。これまでは、それぞれの国が得意分野を生かして食料や工業製品を生産し、各国が自由に貿易を行うことでグローバルな経済を構築していくという機運が高まっていました。

しかしこれは、各国間の対立がないことが前提になっています。今回のように戦争が起きてしまうと、「あの国とは貿易するな」という経済制裁が発動されるなど、さまざまな障害が出てきます。

いままではグローバル経済の名のもとに自由貿易が行われていましたが、現在は各企業がサプライチェーンの見直しに着手しており、今後は友好国同士でしか貿易が行われなくなる可能性もあります。

世界経済はすべて絶妙なバランスで成り立っているので、大きな事件が起きるとドミノ式に崩れてしまいます。今回のウクライナ侵攻で、そのリスクを各国が再認識したといえるでしょう。

今後は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような経済グループの枠組みが世界で作られていくのではと思っています。

そのグループの中に、産油国は含まれるか? 農業国はあるか? など、枠組み内で経済の営みを完結させられるかが、それぞれのグループの強さになっていくと考えられます。

ウクライナ侵攻で気になるアメリカ政府の動き

アメリカ大統領の方針は、金融以外の分野においても世界に影響を与えます。例えば、政党により「戦争が起こりやすいかどうか」も変わります。

共和党と民主党の最も大きな違いは、「政府が民間にお金をたくさん出すかどうか」。

共和党は市場の原理に任せるという方針のため、軍事力強化という方向にも行きにくいと考えられます。

逆に民主党は、経済コントロールのため市場にどんどん介入します。軍事力強化に資金を投入し、雇用を増やすことで経済を回そうという考え方になりやすいのです。

実際、バイデン氏は「軍事費を4%ほど増やす」と発言しています。

■Nobby‘s point

ウクライナ侵攻とアメリカ大統領

もしも、アメリカがトランプ政権のままであれば、ウクライナ侵攻は起きなかったと考える人も多くいるようです。

理由は、トランプ政権の強みの1つであるロシアとの強いパイプ。東西冷戦時代の筆頭対立国の首脳同士が緊密な関係であることが、お互いの安心感に繋がっていたと考えられるからです。

これは完全に私見ですが、米露の緊密な関係性があったからこそ、絶妙なパワーバランスが保たれていたのではないでしょうか。

DJ Nobby

経済キャスター、金融コメンテーター、ラジオDJ

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