韓国のGDPが「20年で約4倍」になったワケを探ると見えてくる!日本経済停滞の理由と復活のカギ
2023年03月17日 11時30分幻冬舎ゴールドオンライン

高校での投資教育が必須になるなど、経済に対する教育への関心が高まっています。そこで本連載では、専門的な知見を生かし、経済に関するニュースをわかりやすく解説することで人気を博している経済キャスターのDJ Nobby氏が、著書である『実は大人も知らないことだらけ 経済がわかれば最強!』(KADOKAWA)から、日本と世界の経済について解説します。
実は中国より成長している⁉韓国経済の歴史と現状
中国の急激な経済成長の影に隠れがちですが、実は韓国も急激な成長を遂げた国のひとつです。GDPだけでなく、賃金も順調に上昇。着実に経済成長を進めています。
近年はK-POPなどの文化芸術分野でもめざましい世界進出を遂げています。読者の皆様にも韓国のアイドルやドラマ、映画などのファンが多くいらっしゃると思います。
私の世代の日本人から見ると、韓国文化の受け入れられ方がこの20年ほどで大きく変化しており、韓国の発展には驚かされます。

日韓を比較して見えてくる、過去20年の経済成長
韓国は、この20年ほどで一人当たりGDPがおよそ4倍になっています。2000年と2020年を比べると、3.85倍に成長。その間、日本はわずか3%しか成長していません。
ただ、これは名目GDPであり、物価上昇率は加味されていない数字です。
そのため、「4倍モノを買えるようになった」わけではありません。それでもこの成長率は凄いと言わざるを得ないでしょう。

知っておきたい、韓国と日本の経済政策の違い
日本と韓国の経済政策にどんな違いがあるのでしょうか。
◆日本の政策
2000年以降日本は、「円安誘導」を行いました。円安が進むと、ドル建てでは同じ売上げだったとしても日本円に換算すると利益が増えます。輸出企業の利益が増えたことで株価も上昇、良い循環が生まれたかに見えました。
ただ、円安になるということは原材料の価格が上がるということ。だからといって、日本国内の景気は悪いため、価格を上げることはできません。
利益が圧迫され、新たな投資が行いにくくなったことで、技術革新が停滞する羽目になりました。また、企業が円安効果に依存してしまったことでも、日本の競争力を低下させることになりました。
◆韓国の政策
一方の韓国政府はもともと輸出に依存する割合が高かったことから、韓国は技術革新を進めることを選びます。
2000年ごろには日本の半分ほどしかなかった輸出額は2008年ごろに日本とほぼ同じにまで拡大、同時に貿易黒字も増大、これがGDPの成長に大きく寄与したと考えられます。
韓国の経済成長は、戦後から始まった
韓国の経済成長を示す「漢江(ハンガン)の奇跡」という言葉があります。これは、朝鮮戦争で壊滅的被害を被った韓国が急速に復興し、経済成長と民主化を達成させた現象を示す言葉。漢江とは、ソウルに流れている川のことです。
1960年代まで、韓国は世界最貧国の1つでした。隣国である北朝鮮よりも貧しかったと言われています。GDPベースで見ても、北朝鮮を追い抜いたのは1960年代後半でした。
戦後、韓国が成長した背景にあるのが、朴正煕大統領による経済政策。朴正煕大統領は「五か年計画」をつくり、外貨を積極的に獲得する方針を取ります。
キーになるのが、1955年に起きたベトナム戦争。アメリカとともに戦うことで、韓国にはアメリカのドル資金が大量に流入しました。
アメリカと良好な関係を築き、国内に米軍基地を置き、文化を受け入れ、援助を受けるなど韓国発展の裏に、アメリカの存在は大きいと考えられます。
また、日本も1960年代から日韓基本条約を契機として「円借款」(低い金利で長期に資金を貸付けること)と技術援助を行いました。
アメリカや日本など他国から提供された資金や技術を基に韓国企業は発展、サムスン、ヒュンダイ、LG、ロッテなどの巨大財閥に成長しました。同時に社会インフラの充実も図られ、1998年のアジア通貨危機に至るまで、極めて高い経済成長を遂げました。
韓国は、たった30年ほどで世界最貧国からオリンピックが開催される国にまで成長できたのです。
実は韓国も、1990年代末のアジア通貨危機で一時的な落ち込みを経験しました。しかし、その後はリーマン・ショックにも負けずに成長を継続。そして2021年7月には国連貿易開発会議が韓国の地位を発展途上国から変更する案を可決。韓国はついに先進国入りを果たしました。
【Nobby‘s point】アジア最先端の技術国はもはや韓国?
製品の品質が上がったことで、韓国製品を“見る目”は大きく変化しました。
1990年代までは日本のハイテク製品は世界最先端で、次々と革新的な商品を世に送り出していました。ただ、円安誘導が行われ始めると安売りで輸出を増やして利益を上げる構造に変化。
その間にサムスンをはじめとした韓国企業は技術開発に取り組んで、アジアの最先端国の座を手に入れるまでになりました。
成長著しい半導体や液晶パネルなどの分野で着実に利益を出し、その利益をさらに投資に回すという好循環ができあがっているのです。
韓国経済が抱える課題とは?
順調に見える韓国経済ですが、もちろん課題も抱えています。「貿易」・「少子高齢化」・「非正規労働者」・「産業」という4つのキーワードから見てみましょう。
◆貿易
韓国は、中国との経済的な繋がりが深い国です。輸出ランキングを見ると、中国のシェアが全体の24%。輸出の4分の1を中国に依存しています。

一方、アメリカは12%、日本は4.7%。経済の大きな部分を輸出に頼っている韓国にとっては、中国の浮沈が経済の命運を握っていると言えます。
中国に輸出している品目として多いのは、化学工業製品・機械類。輸出の4割が半導体や電子部品です。一方資源の輸出は少ないので、ハイテク製品に支えられているという現状があります。
◆少子高齢化
中国や日本と同様、韓国でも少子高齢化により人口バランスの崩れが起きています。韓国の高齢者の割合は2024年頃に19.2%とOECDの平均を上回り、2045年には37%と日本を上回るという予想もあります。
特に問題視されているのが、高齢層の所得格差が大きいこと。韓国で国民年金制度が本格導入されたのは、1988年以降。
そのため、実際に年金給付を受けられる人が少ない現状があるのです。現在65歳以上で老齢年金を受給している人の割合は65%ほどにとどまり、さらに平均額は月6~7万円程度。年金のみで生活を維持することは困難です。
公的年金の給付が行きわたらない現状において、多くの高齢者が就労を続けています。また物価や教育コストの上昇などで現役世代の生活も楽ではなく、親類からの援助を得ることも難しくなりつつあります。
日本以上に高齢化が進行すると見込まれている韓国。社会保障政策について、大きな転換を迫られていると言えるでしょう。

◆非正規労働者
韓国は、非正規労働者が多い国です。世界的に見ても高い比率で、全体の約33%が非正規労働者。
韓国映画などでもよく描かれる通り、国内の格差問題は深刻で、収入の少ない非正規労働者が多いことは社会の不安定要因になりかねません。また、収入の少ない層は結婚や出産にも消極的であることが多く、少子高齢化が加速する要因になると考えられます。
◆産業
韓国はハイテク産業が世界レベルに達している一方、重工業の技術レベルはまだ弱いと言われています。
特に自動車産業が弱く、国外への輸出も少ない現状。現代(ヒュンダイ)や起亜(キア)といったメーカーはありますが、日本やアメリカのメーカーに比べると存在感は薄いと言えます。
今後電気自動車へのシフトが進むなかで立ち位置が変わってくる可能性もあり、一大成長分野と捉えることもできそうです。
【Nobby‘s point】少子高齢化で、韓国の防衛が危ない!?
韓国は徴兵制度のある国です。
しかし少子高齢化により、戦闘要員の確保が難しくなる可能性が取り沙汰されています。北朝鮮との戦闘が行われたとしても、アメリカ軍の援助を前提としなければ防衛がままならない可能性もあります。
経済発展するということは、より高度な防衛体制が求められるということ。これからの政権にはハイレベルな国際協調の手腕も求められます。
日本が学ぶべき韓国経済発展
韓国が飛躍的に経済成長を遂げる一方で、日本は停滞が続いています。我々は韓国からなにを学べるでしょうか。技術革新のあり方という視点で、考えてみたいと思います。
これは私個人の考えですが、日本メーカーの目指す品質が高過ぎることが日本の課題ではないかと思います。日本のメーカーが作る製品が高品質であることは疑いようのない事実で、それは非常に大きな付加価値であると言えます。
一方で、高い品質を目指し過ぎると、開発期間が長くなってしまったり、製造コストが高止まりしてしまうという弱点にも繋がってしまいます。
韓国や中国のメーカーは開発スピードを優先して、どんどん新しい技術を投入し、現金化するというサイクルを確立しています。
まだ未熟な段階の製品でも市場に投入し、次の製品を作るための研究開発費を調達する。これを繰り返すことが高品質で低価格な製品をつくることに繋がります。
韓国のようなアジャイル(素早い)開発でサイクルを回し、開発・回収・投資・開発などを短期的に行うことが、結果、長期的な成長に繋がるのではと思っています。
DJ Nobby
経済キャスター、金融コメンテーター、ラジオDJ
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