「事業承継」で後継者の贈与税・相続税が「実質ゼロ」に!「納付猶予制度」の適用条件と「最初の5年間」が重要である理由【中小企業診断士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「事業承継」を考える中小企業経営者がとりわけ頭を悩ますのが、後継者の相続税・贈与税等の負担が重くなるおそれがあることです。そこでぜひ活用したいのが「事業承継税制」における「納税猶予制度」です。数多くの中小企業の事業承継税制の認定業務を担当してきた中小企業診断士・CFPの平賀均氏が、著書『まだ間に合う! 最新 事業承継税制—特例承継計画と納税猶予の申請 』(ロギカ書房)より、わかりやすく解説します。

「贈与税の納税猶予制度」がもたらすメリット

「贈与」とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思表示をし、相手方がこれを受諾することによって成立する契約です。贈与は、「贈与者」(贈る人)と「受贈者」(もらう人)双方の意思表示が必要になります。実務上は、贈与契約書を作成し、双方が一通ずつ所持することになります。

贈与税の納税猶予制度を利用すると、後継者が贈与により取得した自社株式(非上場株式)に係る贈与税の100%が猶予されます。この制度の適用を受けるためには、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受け、原則として贈与税の申告期限から5年間は、所定の適用要件を満たす必要があります。

この5年間を「特例経営贈与承継期間」といいますが、簡略化し、「事業継続期間」としましょう。

事業継続期間は、贈与の場合は贈与税の申告期限(3月15日)の翌日から5年間になります。

この5年間は、原則として後継者は代表者を辞任できませんし、株式を譲渡することもできません。最低でも5年間は事業を継続し、代表取締役として株式を持ち続けなければなりません。

5年以内に後継者が退任するなど、適用要件に該当しなくなった場合は、猶予されていた贈与税と申告期限からの利子税を併せて納付することが求められます。

5年経過後は、適用要件が緩和されます。後継者が代表者を退任した場合、同族で過半数の議決権を有しないこととなった場合、後継者が同族内で筆頭株主でなくなった場合などは納税を求められません。

ただし、特定資産の保有割合が帳簿価額の総額の70%以上である「資産保有型会社等」に該当した場合などは、猶予されていた贈与税と利子税を併せて納付することになります。5年経過後に取消事由に該当した場合は、5年間の利子税は課されず、5年目以降の利子税が課税されることになります。

[図表1]贈与税の納税猶予制度

贈与税の納税猶予中に、後継者が死亡した場合には、猶予されていた贈与税は免除されます。また、贈与者(先代経営者)が死亡した場合は、猶予されていた贈与税は免除された上で、贈与を受けた株式を贈与者から相続により取得したものとみなして相続税が課税されます(贈与時の価額で計算)。

その際には、都道府県知事の確認(切替確認)を受けることで、相続税の納税猶予を受けることができます。

「相続税の納税猶予制度」によって得られるメリット

相続とは、民法で規定する法定相続人が遺産を取得することであり、遺贈(イゾウ)とは、遺言によって、相続人やその他の人(他人を含む)が財産を取得することです。

相続は法律的に自動的に決まるものであり、遺贈つまり遺言は一方的にする行為であり、相手方(遺産をもらう方)の意思は関係ありません。当事者としては、「被相続人」(亡くなった人)と「相続人」(財産を引き継ぐ人)があります。

相続と遺贈を合わせて「相続等」といいますが、以下、単に「相続」と表記します。

後継者が相続により取得した自社株式(非上場株式)に係る相続税の100%が猶予されます。この制度の適用を受けるためには、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受け、原則として相続税の申告期限から5年間は、所定の適用要件を満たす必要があります。

この5年間を「特例経営承継期間」といいますが、簡略化し、「事業継続期間」としましょう。

事業継続期間は、相続の場合は相続税の申告期限(死亡日から10ヵ月後)の翌日から5年間になります。

この5年間は、原則として後継者は代表者を辞任できませんし、株式を譲渡することもできません。最低でも5年間は事業を継続し、代表取締役として株式を持ち続けなければなりません。

5年以内に後継者が退任するなど、適用要件に該当しなくなった場合は、猶予されていた相続税と申告期限からの利子税を併せて納付することが求められます。

[図表2]相続税の納税猶予制度

5年経過後は、適用要件が緩和されます。後継者が代表者を退任した場合、同族で過半数の議決権を有しないこととなった場合、後継者が同族内で筆頭株主でなくなった場合などは納税を求められません。

ただし、資産保有型会社等(第4章参照)に該当した場合などは、猶予されていた相続税と利子税を併せて納付することになります。5年経過後に取消事由に該当した場合は、5年間の利子税は課されず、5年目以降の利子税が課税されることになります。

相続税の納税猶予中に、後継者が死亡した場合には、猶予されていた相続税は免除されます。

平賀 均

経済産業大臣認定中小企業診断士・ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)・上級相続診断士・事業承継士・知的財産管理技能士

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