マクドナルドが「ポケモンGO」に多額のスポンサー料を支払ったワケ
2023年03月20日 10時37分幻冬舎ゴールドオンライン

2016年7月のリリース直後から世界中で大ブームを巻き起こした「ポケモンGO」。日本を代表する一大コンテンツとなっている「ポケットモンスター」をベースにしたスマートフォンゲームですが、マクドナルドをはじめとする多くの企業がスポンサーとなり、大きな経済効果をもたらしているといいます。なぜ、企業は多額のスポンサー料をポケモンGOを開発したナイアンテック社に支払ったのでしょうか? 34LLCコンサルティング代表の石光正彦氏が解説します。
「ポケモンGO」からみえてくる、ARのビジネス活用
CG(デジタル情報)と実際にある画像や映像(現実世界)を組み合わせて、現実の世界に仮想空間を作り出す技術「AR」。ARはビジネスでの活用に注目が集まっていることをご存じでしょうか? では、どのようにARテクノロジーをビジネスに発展させているのでしょうか。
一般的なゲームビジネスと大きく異なる「ポケモンGO」
ARはビジネスにおいて、具体的にどのように活用されているのか、一番面白い例は、「ポケモンGO」ではないでしょうか。「ポケモンGO」は、わたしたちにとって身近なARのビジネス活用例といえます。常に220万人以上のユーザーがログインしているといわれています。おそらく多くの方は単なるゲームという印象が強いかと思いますが、一歩掘り下げてビジネスモデルの観点からみると、ポケモンGOは普通のゲームビジネスとは大きく違います。

従来のゲームビジネスは、ゲーム会社の開発したゲームのユーザーからの利用料課金の収益で成り立っている、いわゆるBtoCのビジネスです。ところが、ポケモンGOのメインの収益は、一般ユーザーからの課金ではなく、スポンサー企業からの収益で成り立っているBtoBのビジネスなのです。
ポケモンGOは、アメリカのナイアンテック社が開発したゲームです。簡単にいうと、ポケモンGOはポケモンのキャラクターをARコンテンツ化し、ロケーションベースでAR化されたポケモンをユーザーにスマホで提供するという仕組みのビジネスです。ユーザーは特定の場所に行くことで、ポケモンのさまざまなキャラクターを取得、収集して楽しみます。
しかし、ナイアンテック社の主な収入は、一般ユーザーからではなく、一般のスポンサー企業からです。では、なぜ一般の企業はそこまでして多額のお金をナイアンテック社へ支払うのでしょうか? もう少し深掘りした説明をします。
ポケモンGO収益化の仕組み
ARの特徴は、ユーザーを没頭させる交流型のメディアであるという点です。ナイアンテック社はこれに目をつけて、世界中で有名なポケモンをARコンテンツ化し、特定の場所にいるユーザーに、AR化されたさまざまなキャラクターを提供するゲームを開発しました。
ユーザーは、ポケモン欲しさにナイアンテックが指定するロケーションへ誘導され、そこで夢中になってポケモンをゲットするというわけです。テレビなどでも、多くのゲームユーザーが特定の場所に集まって混雑している光景が紹介されているところを見られたことと思います。
おわかりでしょうか? このゲームは、ARの特徴である、人を特定の場所に誘導することに非常に優れたゲームなのです。多くのスポンサー企業はここに魅力を感じて、ナイアンテック社とスポンサー契約をしています。たとえば、自社の店舗などへ多くの人を誘導することで、売り上げが上がるという魅力があります。
しかし、多額の支払いに見合うメリットは本当にスポンサー企業にあるのでしょうか?
ポケモンGOのスポンサー「マクドナルド」
たとえばマクドナルドです。マクドナルドは、2016年にナイアンテックとスポンサー契約を締結しました。ポケモンGOの国内における1日のアクティブユーザーは常に220万人以上とされ、多いときには250万人にものぼるとされています。
もしもこのうち10%のユーザーがマクドナルドの店舗へ誘導されると、22万人になります。マクドナルドの平均の客単価は570円とされていますが、仮に一番安い150円の飲み物をユーザーが買ったとしても、1日の売り上げは3,300万円になり、年間では約1,200億円の売り上げになるという計算になります。
もちろん、これらの数字は机上の計算ではありますが、企業にとっては売り上げアップにつながる、非常に魅力的なものであることが理解できます。テレビや雑誌といったメディア媒体に高いお金をかけるより費用対効果がよく、企業にとってナイアンテックへの支払いは決して高くはないわけです。
つまり、ARの人を誘導する力とポケモンの高い認知度を掛け合わせ、一般のユーザーを特定の場所へ誘導してお金を落としてもらう仕組みが、このポケモンGOなのです。
「人手不足解消」の手段にもなるAR
ARはさまざまな活用方法があります。日本の場合、特に注目すべきは人材不足の問題ですが、ARはこの人手不足を解消する有効な手段となり得ます。
たとえば、CGモデルで複雑な機械や設備を再現し、アニメーションを使って設備や機械のメンテナンスのトレーニングを行うことができます。また、倉庫における在庫のピッキングでは、作業員はARグラスをかけ、グラスに投影される製品置き場への案内やピッキングする在庫品の情報などを見ることで、効率のいい作業ができます。
ウェディング業界でビジネスを28年間展開している、株式会社ファーストページの小池社長は、“ウェディング業界では人手不足の問題を抱えており、ARの可能性について、ウェディングドレス試着などへのARの活用は確実にドレスの試着の短縮や人手不足の解消に貢献する”と述べています。
ARはマーケティングのみならずトレーニングやメンテナンス作業、インストラクションの分野においても非常に有効なツールなのです。
今後さらに整えられるARの利用環境
AR普及の鍵となる日本のスマホの普及率は、令和3年の総務省の情報通信白書の調査によると、90%弱に達しています。またマイクロソフトは、ARのホロレンズをすでに開発・販売し、ビジネスの世界で実際に利用されるようになりました。アップルもARアップルグラスを開発しており、近々販売されることが予測されています。
総務省によると、2023年には5Gの人口カバー率が90%を超えると予測しており、ARを利用する環境は今後ますます進化すると考えられます。

それにより、ARは一般ユーザーにとって、より一層手軽に利用できるテクノロジーになり、企業にとっては、ビジネスの規模に関係なく、インフラとして今後なくてはならないツールになるでしょう。
石光 正彦
34LLCコンサルティング
代表 米国公認会計士
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