中世ヨーロッパの時代から変わらない…世の中で「値上げ」が発生する“3つ”の要因【投資のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

3月に入り、昨年から続いていたインフレはピークは過ぎたように思えますが、日本国内では食用油やお菓子など、未ださまざまな商品の値上げが続いています。ではそもそも、なぜ値上げ(インフレ)が起こるのでしょうか。今回は、ヨーロッパの歴史をもとに、物価(インフレ率)の変遷と変化の要因について東京海上アセットマネジメント株式会社参与兼チーフストラテジストの平山賢一氏が解説します。

インフレ率に影響をおよぼす「3つ」の要因

出所:筆者作成
[図表1]インフレ率に影響をおよぼす3つの要因 出所:筆者作成

中世末期以降のヨーロッパは、物価の厳しい上昇局面を4回ほど経験しています。小麦価格やエネルギー価格を参考にみると、1回目が13世紀~14世紀にかけて、2回目が16世紀、3回目が18世紀、そして4回目の20世紀が上昇局面にあたります。

物価の上昇にはさまざまな要因が考えられますが、主たるものとして「人口要因」「貨幣要因」「エネルギー要因」が挙げられます。

1.「人口要因」

まず「人口要因」についてです。13世紀から14世紀にかけてなど、人口が増加する時期に物価上昇局面を迎えていることが見て取れます。単純化して考えると、モノの需要が供給を過度に上回るとき、物価上昇は加速します。

人口が増加したり、生活水準が向上したりすれば、モノやサービスの需要が多くなるはずです。そのため、人口増加期や中産階級の人口が増加する時期には、物価が上昇しやすくなります。

反対に、人口が減少する時期には需要が減少し、物価は下落する傾向があります。実際に、14世紀や17世紀といった人口減少期は、物価下落局面(賃金は上昇したものの地代は低下)になっています。14世紀は、疫病であるペストの流行により、ヨーロッパの総人口が大幅に減少した時期としてよく知られています。

しかし、人口増加(減少)と物価上昇(下落)に、一対一の強い相関関係を認めることは難しいようです。

たとえば、19世紀は人口減少期ではなく、人口増加期でしたが、物価水準では下落基調がみられました。この時期は人の移動が活発化しており、農村から都会へ、そしてヨーロッパから新大陸へ向かう移民などの影響が大きかったのかもしれません。

農村から都会への人口移動は、より安い労働賃金での生産が可能になり、製品価格の上昇を抑制することになります。また、そのヨーロッパなどの体制に組み込まれない人々が
、米国をはじめとする新大陸へ移民として流出したことで、生活必需品の需要拡大が抑制されたとみなすこともできます。

2.「貨幣要因」

続いて、2つ目の「貨幣要因」についてです。16世紀など、貨幣が増加する時期においても物価上昇がみられます。単純化すると、カネの供給がカネの需要を過度に上回るとき、物価上昇は加速しやすくなります。

経済活動の規模であるモノの需要に比べて、大量のカネが供給されたら、カネの「ありがたみ」が低下するはずです。一方、カネという物差しでモノを見れば、逆にモノの「ありがたみ」は高まるはずです。これは”カネよりもモノを高く評価する“ということに他ならず、物価は上昇します。

16世紀には、中南米からヨーロッパに銀が大量に流入しました。銀はコインの材料であり、貨幣の鋳造が増え、物価が上昇したのがこの時期です。

そして、1970年代には、米ドルと金との交換が完全に停止される「ニクソン・ショック(1971年)」が発生しました。為替市場が変動相場制へ移行したことで、各国・各地域の金融政策の裁量が増した結果、貨幣の供給量が増加し、物価上昇の要因のひとつになりました。

エネルギー価格の上昇は「製品価格」にも影響

3.「エネルギー要因」

最後に、「エネルギー要因」です。18世紀後半の産業革命以降、あらゆる産業は、動力源として石炭や石油といった化石エネルギーに強く依存するようになりました。これにともない、物価全体の動向を左右するのは、19世紀以降、「人口要因」から「エネルギー要因」にシフトしたといえます。

私たち生活者にとって、エネルギー価格の上昇は、ガソリンや灯油の値上がりといった直接的な影響にとどまらず、さまざまなモノの値上がりにつながるのが厄介な点です。

エネルギー価格が上昇すると、原材料価格が上がります。メーカーにとっては原価の上昇(利益の低下)を意味しますが、顧客や消費者をつなぎとめるため、はじめは企業努力で価格を維持しようとします。しかし、しだいに利益が圧迫され、価格に転嫁せざるを得なくなります。

こうして物価全体、すなわち消費者物価指数(CPI)の上昇が顕著になると、「モノの値段が上がっている」と生活者が実感するようになります。

出所:筆者作成
[図表2]エネルギー価格上昇の影響 出所:筆者作成

インフレ率のピーク時には、エネルギー価格が上昇している

実際に、19世紀以降の英国・米国のインフレ率とエネルギー価格の動向についてみていきましょう。

英国と米国でずれが生じるものの、インフレ率のピークは、1810年前後、1864年前後、1918年前後、1949年前後、1980年前後です。インフレ率のピークから次のピークまでの期間は54年、54年、31年、31年と、数十年単位で循環を繰り返していることがわかります。

注目すべきは、「インフレ率のピーク時にはエネルギー価格が上昇している」という点です。これは、産業の動力源が石炭・木材から石油に変わっても共通してみられる事象です。

出所:「イギリス歴史統計」、「アメリカ歴史統計」、IMFのデータをもとに東京海上アセットマネジメントが作成。 ※上記は過去の情報であり、将来の動向を示唆・保証するものではありません。
[図表3]超長期のインフレ周期(英米インフレ率の10年移動平均) 出所:「イギリス歴史統計」、「アメリカ歴史統計」、IMFのデータをもとに東京海上アセットマネジメントが作成。
※上記は過去の情報であり、将来の動向を示唆・保証するものではありません。

長期投資に欠かせない「地政学リスク」の視点

2021年以降の世界的なエネルギー価格の高騰は、ロシアによるウクライナ侵攻が大きく影響しているため、インフレ率と地政学リスクについてもみていきます。

インフレ率が上昇していく局面では、国際関係を左右するような大きな戦争が起こっています。戦争は、軍事需要が高まることや破壊されたインフラの再構築が必要になることから、モノの需要が飛躍的に拡大します。そのため、インフレ率は急上昇します。

一方、両世界大戦の狭間である戦間期(1920年代)や朝鮮戦争後の1960年代、米ソ対立の冷戦が終結した1980年代後半以降は、インフレ率が低下しました。“平和の配当”と表現されるように、政府予算を軍事費に割くことなく、より効率的な民間企業の活動が支援されるためです。健全な経済成長や金利低下、株価の上昇を謳歌できる時代といえます。

このように、国際関係における戦争と平和が、経済におけるインフレ率上昇とその抑制をもたらすことで、時代の節目が訪れるわけです。

私たちが長期投資をする場合には、国際関係の大きな潮目を予想する必要があります。これは新聞などを見ていれば、それほど難しいことはありません。10年単位で、国際関係が協調路線なのか対立路線なのかという具合に、おおざっぱに捉えていけばよいのです。

※当資料の閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。ページに見当たらない場合は関連記事『中世ヨーロッパの時代から変わらない…世の中で「値上げ」が発生する“3つ”の要因【投資のプロが解説】』をご覧ください。

平山 賢一

東京海上アセットマネジメント株式会社 参与

チーフストラテジスト

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