銀行員「税金対策していますか?」→社長「はい」と素直に答えてはいけないワケ【元メガバンク支店長が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

経営者であれば、できる限り「節税」したいと考える人は多いでしょう。しかし、税法上は問題ないとしても、銀行をはじめとした金融機関と付き合ううえではリスクがあると、メガバンクに32年勤務し、独立後は融資・補助金に強い専門家として資金調達支援を行う川居宗則氏はいいます。それはなぜか、詳しくみていきましょう。

節税をしないと損だと思っている社長は要注意

経営者のなかには節税をしたがる人が結構いて、法人の利益を役員報酬として経営者一族の個人の所得に換えるなどの手法が見受けられます。

これは法人税の節税方法として正当なやり方なので税法上の問題はありませんが、「融資」という観点で見るとマイナスに働くことがあります。法人の利益が少ないということは、融資をした場合の返済能力が低いということだからです。

会社の利益が1000万円の現預金として残っていれば、2000万円の融資でも1000万円はすぐに返せます。銀行としてはその会社に何かあったときに半分は返してもらえる当てがあるので安心できるのです。

しかし、現預金がゼロの場合は2000万円がまるまる返ってこない恐れもあります。どちらの会社に融資したいかは述べるまでもありません。

銀行としては「あまり節税はしてほしくない」「会社の利益は適度に残してほしい」というのが本音です。ですから、融資を受けたいと考えている場合は過度な節税を避けるべきです。

【対策】適度な節税の目安は「自己資本比率20%以上」

「適度な節税」と「過度な節税」のラインは自己資本比率20%が一つの目安になります。

自己資本比率というのは「返済不要の自己資本が資本全体の何%を占めるか」を示した数値のことです。会社の財務面における安全性を見る指標として使われます。業種によっても違いがありますが、一般的にこの値が30~40%以上が安定的な経営には望ましく、20%を下回ると安全性に欠けると見なします。

決算上は利益が十分出ているのに役員報酬などで利益を外部に放出した結果、20%を切っているという場合は、銀行側は「節税し過ぎではないか」と判断します。経営上、法人税を節約することは決して悪いことではないのですが、その頃合いが大事だということです。

税理士によっては法人税の節税をアドバイスする人や、ギリギリまで節税することが依頼者の利益を守ることで自分の腕の見せ所だと考えている人がいます。

そういう場合は税理士任せにしないで、「融資を受けたいので節税について話し合いたい」とはっきり伝えることです。もしくは、融資に強い税理士を探すことです。明確な意思表示をしないと税理士のペースで進んでしまい、後悔することになりかねません。

時代に合ったビジネス感覚をもっているか

バブルの頃に創業した高齢社長に多いのですが、「昔の良かった時代」のイメージをひきずってアップデートできていないことがあります。

昭和の時代は大量生産、大量消費、大量廃棄の世の中だったのでモノがどんどん消費され、作れば作っただけ売れました。特に経営の工夫や戦略などがなくても誠実に仕事をしていれば、ほとんどの会社が右肩上がりで成長して来られたのです。

その時代の成功体験があるゆえに今までのやり方を信じてしまい、「自分の経営は正しい」「誠実に仕事をしていれば報われる」「今は経済環境が良くない」と思ってしまいがちです。

しかし残念ながらもう大量生産、大量消費、大量廃棄の時代ではなくなってしまいました。今はモノが売れなくなり、代わりに情報や体験により価値が置かれるようになっています。人々の価値観が有形(モノ)を手に入れることから無形(こころ)の充足に変わってきたのです。

消費行動も昔は「みんなと同じものを持ちたい(自分も標準レベルの生活がしたい)」でしたが、今は「自分に合ったものを持ちたい(ライフスタイルの多様化、個性)」へと変化しています。

また地球環境や資源の問題から、使い捨てよりも長く使えるものやリサイクルできるものを選択する時代になってきました。

それに、かつて日本のものづくりは世界一を誇っていましたが、今では中国や韓国に追い抜かれている製品があります。同じ製品を作るなら中国のほうが単価が安くでき、半導体ビジネスでは韓国のほうが最先端の技術力があるというのが世界共通認識となっています。

つまり昭和のビジネス感覚ではもはや通用しなくなっているのです。それに気がつかないと、前時代的な仕事しかできず世の中から後れを取ってしまう、いわゆるガラパゴス化に陥ってしまいます。

【対策】販路開拓や新事業へのチャレンジを忘れない

対策としては「今の時代に合わせたビジネス」にチューンアップをしていくことです。

今までと同じことをやり続けるのではなく、自社の良いところは残して古くなった部分や弱くなった部分を改良していくのです。そうすれば自社らしさは守りつつ新しく強く変わっていけます。いわゆる事業の再構築にチャレンジすることです。

分かりやすい例でいえば、老舗のカメラメーカーである富士フイルムは日本での写真フィルムではトップシェアをもちます。しかしデジタルカメラの台頭でフィルムが売れなくなり、2006年から化粧品産業に本格参入しました。

写真フィルムで培った精密化学のテクノロジーや研究力を活かして、アンチエイジングの肌ケアに効果の高い化粧品やサプリメントを生み出しています。今は化粧品コーナーに行くと有名ブランドと並んで富士フイルムの化粧品が置いてあり、業界で一定の地位を確立していることが分かります。

こんなふうに本業の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を活かして自社が勝負できる分野を開拓していくというのが会社が成長し続けるための秘訣です。

経営資源が限られる中小企業や小規模事業者では大手企業のように大々的なチャレンジはできにくいかもしれませんが、自社でできるレベルで新しい挑戦や改革をしていくことは可能なはずです。

ピカピカの技術がなくても、多額の投資をしなくても、それぞれの会社の強みを活かしたチャレンジは必ずあるのです。それを見つけて実行していくことで銀行の見方や評価が変わってきます。

川居 宗則

中小企業診断士

1級ファイナンシャル・プランニング技能士

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