【事業承継税制】後継者にかかる贈与税・相続税が「実質ゼロ円」になる「特別措置」がアツい!利用できる「後継者」の条件とは【中小企業診断士・CFPが解説】
2023年03月27日 18時45分幻冬舎ゴールドオンライン

中小企業の経営者が後継者への事業承継(自社株式の承継)をする場合、後継者の相続税・贈与税等の負担を実質ゼロにできる制度が「事業承継税制」の「納税猶予制度」です。事業承継税制に詳しい中小企業診断士・CFPの平賀均氏が、著書『まだ間に合う! 最新 事業承継税制—特例承継計画と納税猶予の申請 』(ロギカ書房)より、後継者がどのような要件をみたす必要があるか、より便宜な「特例措置」に重点をおき解説します。
事業承継税制を利用できる「後継者」の範囲は「特例措置」により広がった
従来の一般措置では、1人の先代経営者から1人の後継者に株式を譲渡(贈与または相続)する場合にしか事業承継税制は適用されませんでした。いわばマン・ツー・マンであったわけです。
特例措置では、先代経営者以外の複数の株主から、最大3人の後継者に株式を譲渡(贈与又は相続)できるようになりなりました。
なお、一般措置でも2018(平成30)年1月からは、複数の株主から後継者に株式の譲渡ができるようになりましたが、後継者については1人に限られたままです。
また、一般措置では親族しか後継者になれませんが、特例措置では、先代経営者以外の株主および後継者は第三者(親族外)でも可能となりました。
それでは後継者の要件を、贈与と相続のそれぞれについてみていきます。
贈与における「後継者」の要件
株式を生前に後継者に贈与する場合、特例措置の対象となる後継者の要件は以下の通りです。
【株式の贈与の場合に特例措置の対象となる後継者の要件】
1. 贈与時に18歳以上の代表者であり、かつ、贈与の直前において3年以上継続して役員であること
2. 贈与時において、後継者とその同族関係者で総議決権数の過半数を保有していること
3. 一定数以上の株式を受贈すること
4. その会社の株式について、一般措置の適用を受けていないこと
5. 特例承継計画に記載された後継者であること
◆要件1. 贈与時に18歳以上の代表者であり、かつ、贈与の直前において3年以上継続して役員であること
後継者は、贈与の日において18歳以上であり、継続して3年以上その会社の役員である必要があります。したがって、設立後3年未満の会社の役員は、この要件を満たさないことになります。
また、役員であった期間が3年以上あったとしても、贈与の日前3年の間に役員でない期間がある場合には要件を満たしません。継続して役員であったことが必要です。常勤・非常勤は問いません。
役員とは、株式会社の場合は、取締役、会計参与および監査役をいいます。役員であれば、地位は同一でなくてもよく、監査役1年と取締役2年を継続して就任していてもよいとされています。
さらに、贈与時には代表者でなければなりません。したがって、代表権のない後継者は、代表者に就任してから株式の贈与を受けることになります。
代表権を3年以上有している必要はありません。
◆要件2. 贈与時において、後継者とその同族関係者で総議決権数の過半数を保有していること
贈与の時において、後継者(受贈者)とその同族関係者で総議決権数の過半数を保有していることが必要です。
◆要件3. 一定数以上の株式を受贈すること
後継者(受贈者)は、贈与後に、一定数以上の株式を保有していなければなりません。後継者の人数によって異なります。
まず、後継者が1人の場合は、後継者とその同族関係者の中で最も多くの議決権を有している(筆頭株主である)ことが必要です。なお、後継者と同じ割合の議決数を有する株主がいてもよいことになります(同率可)。
次に、後継者が2人または3人の場合は、各後継者が、贈与後において10%以上の議決権数を有し,かつ、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権数をも下回らないことが必要です。
同族関係者の中に、その後継者と同じ割合の議決権を有する株主がいてもよいことになります(同率可)。また、贈与者と後継者が同率であることは不可とされています。
◆要件4. その会社の株式について、一般措置の適用を受けていないこと
後継者が贈与により取得した株式について、既に一般措置の適用を受けている場合には、認定を受けることはできません。
◆要件5. 特例承継計画に記載された後継者であること
特例措置の適用を受けるにあたっては、特例承継計画の作成を求められますので、この計画に記載された後継者でなければ認定を受けることはできません。
「相続」における後継者の要件
株式を後継者に相続によって承継させる場合、特例措置の対象となる後継者の要件は以下の通りです。
【株式の相続の場合に特例措置の対象となる後継者の要件】
1. 相続開始の直前において役員であり、相続開始から5カ月後に代表者であること(例外あり)
2. 相続時において、後継者(相続人)とその同族関係者で総議決権数の過半数を保有していること
3. 一定数以上の株式を相続すること
4. その会社の株式について、一般措置の適用を受けていないこと
5. 特例承継計画に記載された後継者であること
◆要件1. 相続開始の直前において役員であり、相続開始から5カ月後に代表者であること(例外あり)
先代経営者の相続開始(死亡日)の直前において、後継者はその会社の役員であることが必要です。
ただし、例外があります。先代経営者(被相続人)が70歳未満で死亡した場合、または、相続開始の前に、特例承継計画を提出し、都道府県知事の確認を受けていた場合は、後継者は役員である必要はありません。
経営者が若くして急逝したような場合、後継者を選定するにあたっては、他社に勤務中のご子息を急遽後継者としてその会社の役員に据えるケースがあるため、先代経営者が70歳未満で死亡した場合等には、相続開始の直前において役員である必要はないとされています。
この場合でも、相続開始から5カ月以内には、後継者は代表者になっておかなければなりません。
相続開始から5カ月というのは、相続税の納税猶予の申請を都道府県に提出する申請基準日に当たり、この日(死亡日+5カ月)までに代表権を持つ必要があります。したがって、先代経営者が既に代表者を退任して、後継者に代表権を譲っている場合は、この要件を満たしていることになります。
◆要件2. 相続時において、後継者(相続人)とその同族関係者で総議決権数の過半数を保有していること
相続開始の時において、後継者(相続人)とその同族関係者で総議決権数の過半数を保有していることが必要です。
◆要件3. 一定数以上の株式を相続すること
後継者(相続人)は、相続後に、一定数以上の株式を保有していなければなりません。後継者の人数によって異なります。
まず、後継者が1人の場合は、後継者がその同族関係者の中で最も多くの議決権を有している(筆頭株主である)ことが必要です。なお、後継者と同じ割合の議決数を有する株主がいてもよいことになります(同率可)。
次に、後継者が2人または3人の場合は、各後継者が、相続後において10%以上の議決権数を有し,かつ、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権数をも下回らないことが必要です。同族関係者の中に、その後継者と同じ割合の議決権を有する株主がいてもよいことになります(同率可)。
◆要件4. その会社の株式について、一般措置の適用を受けていないこと
後継者が相続により取得した株式について、既に一般措置の適用を受けている場合には、認定を受けることはできません。
◆要件5. 特例承継計画に記載された後継者であること
特例措置の適用を受けるにあたっては、特例承継計画の作成を求められますので、この計画に記載された後継者でなければ認定を受けることはできません。
平賀 均
経済産業大臣認定中小企業診断士・ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)・上級相続診断士・事業承継士・知的財産管理技能士
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