【事例あり】「どうするネット炎上?」 企業がダメージを最小限に抑えイメージダウンを回避できた「2つの事例」【専門家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

インターネットの普及に伴い情報が正誤に関係なく急速に拡散する現在では、どの企業にも「炎上」のリスクがあります。本記事では、スタートアップから多国籍企業までさまざまな企業のPR・マーケティングを支援してきた株式会社ビーコミの代表取締役・加藤恭子氏が、著書『話題にしてもらう技術~90.5%の会社が知らないPRのコツ』(技術評論社)から、炎上への備えと、炎上が起きてしまった場合の対応について解説します。

炎上は、メディアに出なくても、SNSをやらなくても起きる

すべての企業がSNSでの発信やメディア露出が元となって炎上するわけではありません。以下のように、さまざまなものが火種となります。

【炎上の火種となる可能性があるもの】

・バイトテロ

・社員を騙る匿名の人によるSNSの書き込み

・CM放映による男女差別と受け取られる可能性のあるメッセージ

・デジタルサイネージの刺激的な文言

・男性のみの講演者がずらっと並んだセミナーの案内

受け手の勘違いや、嘘の投稿で炎上するケースもあります。

2017年9月2日、著名なチケット販売サイトに絡む炎上が起きました。発端は、「入金後にミュージカルのチケットが突然キャンセルされ、カスタマーセンターからは真相究明に2週間程度かかると言われた」という趣旨のツイートでした。

このツイートには、証拠として領収書やメールのスクリーンショットなどが添えられており、ツイッター上には「ひどい会社だ」「ひどい対応だ」などの投稿が飛び交いました。

販売サイト側は、9月4日、「キャンセルやカスタマーセンターへの問い合わせ記録を確認できず、SNS投稿と弊社の理解に相違があるのでさらに調査をおこなう」と公式サイトで発表。

そして9月6日、「ツイートの発信者と連絡がつき、入金はされておらず、したがって入金後のキャンセルもなかったことが確認された。皆様にご心配をおかけしたが当社のシステムには問題がないことを確認した」と発表しました。

同日、発信者もツイートを削除し、お詫びをしてこの件は収束しました。これは、企業側には落ち度のない炎上でした。

今までの企業イメージの蓄積や、時代背景も炎上には大きく影響します。数年前のことですが、ある飲食店が安価でフォアグラ丼を出すと発表しました。高級食材を安価に提供するということで、好意的に受け止められました。

この飲食店は、リーズナブルな価格で食事を提供することで以前から多くの人に支持されてきました。一方、同じタイミングで別の企業がフカヒレ丼の提供を始めたのですが、こちらは「動物虐待だ」と大炎上しました。

どちらも、今のタイミングなら、炎上する可能性が大きいでしょう。

昔の企業ページや雑誌インタビューが、別の話題で注目されたことで、ほり返され、炎上の引き金になることがあります。

炎上しやすい企業には一定の特徴があります。それらはいずれも、だれもが知る有名企業なのです。そして、それらの多くが「BtoB」ではなく「BtoC」(実際に使ったり、食べたりできる身近な商品やサービスを提供する企業)です。

というのも、知らない企業を非難しても共感されにくいので、非難もされにくいのです。あなたの会社は当てはまるでしょうか?

炎上は、何がきっかけで起きるかはわかりません。自社の発信するメッセージ全般に意識を向けると同時に、炎上してしまった場合に備えて、最低限の対策をしておきましょう。

それによって不安は軽減しますし、何か起きた時にパニックになって火に油を注ぐような行為も避けられます。

炎上対応のマニュアルと体制を用意しておく

実際に炎上すると、パニックになって、冷静な判断ができなくなった結果、火に油を注ぐことになりかねません。詫びたつもりが「お詫びになっていない」などとさらに叩かれるケースもよくあります。

知識のない企業がやりがちなのは、問題となった内容を何の説明もせずに削除することです。削除すれば解決しそうに思えるかもしれませんが、これは一番やってはいけない方法です。

たとえば消したツイートは閲覧者によってすでに保存されていて、「こんなツイートを説明もなく消している、信頼のおけない企業である」と、消したはずのツイート画面とともに投稿されることになりかねません。

消す場合も、消す理由などの公式な説明が必要です。

まずは平時の「冷静」な時に、炎上したらどう対応するかを決めておくことが大事です。具体的には、次のようなことです。

・他社の炎上例を収集し、公開情報を参考に鎮火までのプロセスを整理しておく

・整理した情報を利用し、社内研修を実施しておく

・炎上した会社の業種や業態、規模など、自社との類似度をチェックする

・炎上例をふまえて、「どうすれば炎上しなかったと思うか」「自分だったらどのように対応するか」についてディスカッションする

・炎上の兆しを見つける仕組みを用意しておく(後述するソーシャルリスニングツールを利用する)

・社員が炎上の兆しを見つけたら担当者に連絡する体制を決めておく

・すぐに説明やお詫びを公開できるよう、更新が容易な公式サイトを用意しておく(公式Twitterでは短文しか載せられず、説明が不十分になります。公式サイトの新着情報ページは、通常は外部の協力会社に任せていたとしても、担当者レベルでも更新可能な仕組みを取り入れておくと急な対応が可能となります)

・避難訓練などのように「社長の不適切発言で炎上した」などの想定で一連のリハーサルをおこなっておく(年次で、社内研修でおこなうなど)

・お詫びのプレスリリースを書いてひな型を用意しておく

炎上対策として、炎上対策やリスク管理に強いPR代理店と契約を結んでいるところも多くあります。過去にいくつかの炎上を乗り越えてきた企業のPR担当を採用するケースも多く聞きます。

社長がTwitterをやらなくてもいい

インターネットがPRに役立つからといって、ネットに不慣れな社長が無理にTwitterを頑張る必要はありません。経営スキルとインターネットコミュニケーションスキルは別です。だれもが孫正義さんや前澤友作さんのような情報発信ができるわけではないのです。

社長がTwitterで情報発信をする場合は、PR担当が書いていいこと、悪いことをレクチャーしたり、内容が客観的にどう見えるかを伝えるような仕組みが必要です。

話題になることを狙って炎上スレスレの内容を発信するケースもあるようですが、上級テクニックで非常に危険です。これからPR活動を始める初心者なら避けたいところです。

もちろん、皆が同じ意見を書いても当たり前すぎて読んでもつまらず、刺激もないわけで、少し過激な意見は多く読まれるわけですが、リスクもあることを事前に知っておきたいところです。

特に、企業の看板を背負っての発信は注意が必要です。

ソーシャルリスニングツールで炎上の兆しを察知する

何かネガティブな出来事が起きるきっかけとして、ネットの声が大きな原因となることが増えました。そのため、企業はネット上で自社の製品やサービスに関して「炎上」と言われるような問題の兆しがないかどうか見ておく必要があります。

早めに問題の兆候がわかれば、誤解であれば誤解を解き、企業側に問題があれば調査をして改善するなどの対策が取りやすくなります。

しかし、実際にずっとネットを見張っていることはできません。そこで、注目されているのが、ソーシャルリスニングツールです。ソーシャルリスニングとは、ネットの評判を集めてきて、それに耳を傾ける行為を指します

ソーシャルリスニングツールの例として、「自社名/製品名やネガティブワードが一定数ネットに出たら、アラートが飛んでくるよう設定できるものがあります。有償のものが多いですが、無料のGoogleアラートを利用し、モニタリングしておく方法もあります。

炎上の影響を最小限にとどめた2つの事例

最後に、炎上の影響を最小限にとどめたといえる事例を見てみましょう。

◆早い段階でお詫びと対策を発表

2022年6月23日に日本国内で発売された海外企業のモバイルバッテリーに関し、発売2日後の6月25日、製品をレビューした人による「製品に問題があり、危険」という趣旨のレビュー記事が公開されました。

人気のある商品だったため、ネット上には「信頼していたのに」「もう買わない」「危険だ」などの趣旨の投稿が見られました。

その会社は、7月5日、実際には特殊な状況でないとその現象は起きず、通常利用では問題ないが仕様を変更すること、懸念のある人には返金することを、公式に自社ホームページで発表。

追って、日本の公式Twitter(フォロワー数約19万人)でも発表しました。それを翌日メディアが報じたことで、炎上は収まりました。公式発表まで7営業日でした。ブランドイメージは毀損しませんでした。

このケースでは、次の要因で比較的早く炎上が収まったといえます。

・比較的早く公式発表でお詫びと対策の説明がおこなえた

・公式Twitterのフォロワーが多かった

・当該レビューサイトでもメーカーの対応について追記された

・複数のネットメディアがすぐに記事で取り上げた

◆社長自らによる的確な説明が好評価に

2022年7月2日未明から、KDDIの通信障害が発生しました。通話ができないばかりか、使えないサービスが出るなど、社会インフラが止まる重大な問題に発展。完全に解決するまで86時間もかかりました。

しかしながら、同社の緊急記者会見は障害が発生した翌日でした。何もわかっていない社長が紙を見ながら読み上げるのではなく、社長自身が内容を理解して説明していることが伝わりました。

その後も複数回の会見がおこなわれ、情報がアップデートされました。復旧するまで、復旧した後、そして今後起こさないための対策までを含め適切に発表し、企業の真摯な姿勢が伝わってきました。

インターネット上でも、「これからもauを使う」「頑張れ」「社長がすごい」「社長をやめさせないで」などとポジティブなメッセージも多く、株価は少し下がったもののすぐに元に戻り、大幅な下落や継続的なネット炎上は起きませんでした。

一度起きてしまったことは、決して「なかったこと」にはなりません。しかし、その出来事にどう向き合うか、どう説明/発表するかは、企業の今後のイメージ、話題のなり方、そして今後のビジネスに、大きく影響してくるのです。

加藤 恭子

株式会社ビーコミ

代表取締役

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?