慣れない土地で“仕事と住居”同時に探すのは不安…「地方移住」のハードルを下げる「住み込み」という選択肢

(※写真はイメージです/PIXTA)

地方への移住を検討するにあたって、「見知らぬ土地で仕事と住居を同時に探すのは大変」という不安は大きいでしょう。地方移住の最初のステップとして、住居の心配がない住み込みの仕事を選んではいかがでしょうか。本記事では、地方移住や2拠点・多拠点生活に関する情報発信メディアを運営する合同会社Stone intechの中嶋遼太代表が、地方で住み込み求人が多い職種や仕事の探し方、人気の移住地域について解説していきます。

住み込み移住で多い6つの仕事

地方にある住み込み移住の仕事は、主にこちらの職種です。

・旅館、ホテル

・農業、牧場

・工場、軽作業

・医療、介護福祉

・飲食、調理

・寮などの管理人

住み込み移住と聞くと観光地でのリゾートバイトのイメージが強いですが、地域の特性によるさまざまな求人があります。契約社員、正社員を募集している会社もあり、その場合は社宅や寮が完備されているケースが多いです。以下でひとつずつ解説していきます。

1.旅館・ホテル

住み込み移住で代表的な仕事がホテルや旅館のスタッフ。全国に求人があり、温泉に入れたり、食事付きで生活費が抑えられたりするのがメリットです。ただし、数時間の休憩をはさむ中抜け勤務や夜勤のシフトがある場合も。不規則な時間の勤務になるので、体力に自信のある人が適しているでしょう。

2.農業・牧場

(※写真はイメージです/PIXTA)
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賃金は高くない傾向にあるものの、農業や酪農に関わりたい人が働きながら学べる環境が整っています。とくに北海道では農業の求人が多いですが、3月から10月までの期間限定の募集が多いので注意が必要です。

牧場の場合、動物のお世話が仕事になりますが、糞尿の臭いがきついこともあり、どうしても合わずに辞めてしまう人もいます。動物に合わせた早朝、深夜の不規則な勤務もあるので、それでもやっていけるか冷静な判断が必要です。

3.工場・軽作業

地方では工場勤務の求人が多い傾向にあります。大手メーカーや企業規模の大きい工場では高時給の求人が多いため、体力を使わない軽作業の仕事でも稼ぎやすいですね。しかし、毎日単調な作業の繰り返しになるので、人によっては辛く感じることもあるでしょう。

4.医療・介護福祉

全国的に人手不足が問題になっている医療・介護福祉の仕事は、地方でもニーズがある職種です。看護師、理学療法士などは資格が必須ですが、医療事務などは資格がなくても応募しやすいでしょう。とりわけ介護士は求人数も多く、未経験からでも挑戦できます。資格取得を支援している事業所もあるので、移住を機にチャレンジするのもおすすめです。

5.飲食・調理

飲食・調理の仕事は常に需要があり、観光地の飲食店、ホテルレストランなど全国各地に一定数の求人が存在します。和食や洋食などのジャンル、もしくはカフェや居酒屋などお店の業態から選ぶとよいでしょう。将来独立して自分のお店を持ちたい人は、個人経営のお店を視野に入れてもいいですね。調理と経営を同時に学べるため、よい経験になるかもしれません。

6.寮などの管理人

社員寮や学生寮、マンションの管理人の仕事です。地方の寮の求人だと調理の仕事が含まれるケースも。夫婦やカップルのように、男女2名での募集が多い傾向ですね。居住者からのクレームやトラブルに対応する必要があるため、社会経験の豊富なシニア世代が歓迎されます。50代から60代の世代が活躍しているのが特徴です。

「住み込み移住」しやすい仕事の条件、3つ

住み込み移住の求人にはアルバイトから正社員まで、さまざまな仕事があります。なかには未経験でもできる仕事、家族がいてもOKな仕事、50代以上でも採用されやすい職種があります。以下、それぞれについて解説します。

未経験OK

未経験可の住み込み仕事は、全国各地に豊富にあります。移住を機に新しい仕事に挑戦するのも選択のひとつです。給与は仕事によって低くなる傾向があるため、家賃補助や水光熱費の補助の有無といった福利厚生の条件を必ずチェックしましょう。

家族・子持ち向け求人

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数は減りますが「家族での入寮OK」という条件で募集している会社もあります。家族寮、家族向け社宅を保有しており、子供がいても安心して仕事を始められるでしょう。特に宿泊業や製造業での募集が多く、託児所を完備している会社もあります。

50代・60代向け

地方では50代、60代の人が活躍できる、シニア向けの住み込み仕事もあります。工場・軽作業の求人が多めですが、タクシードライバーや夫婦でのマンション管理人の仕事などもあります。地方では人手不足が慢性化しており、首都圏よりもシニア世代が採用されやすい特徴が見受けられます。

住み込み移住の仕事が見つかるサイト・窓口

住み込み移住の仕事を探す方法として、インターネット検索と相談窓口での対面相談があります。Web検索は条件を絞って探せるため便利ですが、地方での住み込み移住の求人はサイトに載っていないものもあります。希望の求人が見つからないときは、ネット検索と対面相談を併用してください。

(※写真はイメージです/PIXTA)
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住み込み移住求人サイト

日本全国の住み込み移住の求人が網羅されています。各地の求人を調べられるため、手軽で便利にリサーチできます。移住したい地域や職種を絞って検索すると、欲しい情報が見つかりやすいでしょう。移住したい地域がまだ決まっていない場合でも、どんな職種の求人が多いのか傾向をつかめます。

ハローワーク

ハローワークの求人インターネットサービスは、誰でも利用できます。自宅のパソコン、もしくは住んでいる地域にあるハローワークの求人検索パソコンからアクセスが可能。「地方就職支援センター」のある東京・大阪のハローワークでは、対面で住み込み移住に関する相談ができます。

参考: 地方就職支援コーナー 厚生労働省

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター

東京・有楽町の東京交通会館内にある移住相談センター。施設内には地方移住に関する資料が常設されていて、情報収集するのに便利です。無料相談はWebから予約が可能。どこに移住したいか、自分に合った移住先を見つけるところから相談できます。各都道府県に専属の担当者がいるので、より具体的な話を聞けるでしょう。

参考: 国内唯一!全国の移住相談ができる窓口|ふるさと回帰支援

地方自治体の移住相談窓口

すでに移住候補地を絞っている人は、自治体の移住相談窓口に出向いてみましょう。市町村によっては、首都圏にも相談窓口を設置しているところがあります。専任コーディネーターが対応してくれるので、同時に移住支援金や補助金の相談も可能です。より自分の求める条件に合わせた相談ができるでしょう。「移住したい都道府県名+移住相談」で検索すると、ピンポイントで検索できます。

住み込み移住:3つのメリット

地方希望者が抱える悩みのひとつに、住居の問題があります。結論として、住み込みの仕事を見つければ解決できるでしょう。住み込み移住なら仕事と住居を同時に見つけられるため、新しい生活を送るのもスムーズです。

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家を探す必要がない

「この地域に住みたい」と思っても、土地勘のない地方でいきなり家を探すのは大変です。職場から近い場所を選んだり、住みやすい地域を調べたりするのに時間がかかります。しかし住み込みの仕事なら、面倒な入居手続きも不要。即入寮可の仕事を選べばスピーディに動けるでしょう。

家賃・生活費が抑えられる

地方では首都圏より家賃は低めですが、それでも賃貸で部屋を借りるためには、まとまった初期費用が必要です。住み込みの仕事なら住宅の初期費用を減らせるため、低コストで移住ライフを実行できるでしょう。職場によっては、家賃補助や家具家電付き、食事付きの仕事先もあります。こういった条件があるところを選べば、生活費を抑えて生活できます。

通勤のストレスがない

住み込みの仕事では、職場と住居が近距離にあるケースが多いです。したがって車を持っていなくても通勤に支障がないかもしれません。また職場と住居が同じ建物の場合もあります。首都圏のように、通勤に伴うストレスを感じなくなるでしょう。

住み込み移住:4つのデメリット

(※写真はイメージです/PIXTA)
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住み込み移住には、地方ならではの不便さや、住み込み仕事特有の煩わしさがあります。知らない土地で生活するには、慣れるまで時間がかかりがち。移住してから後悔しないようにデメリットも把握しておきましょう。

仕事の選択肢が少ない

地方では首都圏より雇用が少なく、希望の職種を選べない場合も想定されます。以前の仕事と同じ職種の求人がない場合もあるでしょう。まずは移住したい地域で、どんな職種の雇用が多いのかざっくりと調べてみてください。自分に合いそうな求人はあるのか、未経験の分野でも挑戦したい職種はありそうか、探してみましょう。

住む家を選べない

社員寮や家族寮の場合、住む部屋を選べない可能性が想定されます。建物が想像以上に老朽化して古かったり、部屋の間取りが狭かったりするかもしれません。事前に住居を見せてもらったり、内装の写真を送ってもらったりすると移住後のミスマッチを防げるでしょう。

給料が下がる

総務省が2019年に公表した家計構造調査によると、総世帯の年間収入が最も高い都道府県は、東京都で629万円、最も低いのは沖縄県で423万円になります。地方では首都圏よりも最低賃金が低く、給料は下がる傾向にあるのは否めません。移住前に首都圏で働いていた人は、確実に給料が下がると考えられます。

しかし地方では生活コストが下がる傾向にあり、むしろ首都圏より暮らしやすいかもしれません。金銭面で不安がある人は、副業で稼ぐスキルを身につけましょう。

仕事のオンオフがあいまい

住み込みの仕事だと、仕事とプライベートの区別があやふやになる場合も想定されます。同じ寮に職場の同僚や先輩が住んでいたら、飲み会や交流会の誘いは断りにくいでしょう。勤務時間外でも仕事先のメンバーと付き合わなくてはいけない雰囲気だと、人によってはストレスを感じるかもしれません。

住み込み移住を成功させるために必要な準備

1.住み込み移住の目的を明確にする

たとえば以下のように、移住の目的を明確にしましょう。

・どんな環境で働きたいか

・休日はどう過ごしたいか

・地域の人と交流したいか

これらのイメージがあいまいだと、移住が失敗するリスクが高まります。「こんなはずじゃなかった」と後悔するかもしれません。自分にとって外せない重要な要素はなんなのか、しっかり考えましょう。

2.移住コーディネーターに相談する

(※写真はイメージです/PIXTA)
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「自然が多い場所で働きたい」と考えていても、「実際に仕事をしてみたら想像以上に何もない地域で不便だった」ということや、反対に「職場のある街が発展しすぎていてちょっとイメージと違う」といった事態も考えられます。

理想と現実のギャップを埋めるためにも、現地の情報に精通しているコーディネーターに相談するのが安心です。最近ではオンラインでの相談を受け付けている窓口も多く、住まいや仕事に関する疑問を解消するのに役立ちます。

3.住む前に現地を下見する

移住希望地が決まったら、実際に住む前に現地の雰囲気を肌で感じましょう。気候や街の治安など、実際に行ってみないとわからないことは沢山あります。現地に足を運んでみることで、ネットにはない情報を入手したり、新たな発見をしたりすることがあるでしょう。

4.自動車運転免許を取得する

地方の中心的な都市では電車やバス等の公共交通機関を利用できますが、都市から離れると車は必需品です。田舎にいくほど電車やバスの本数が極端に少なく、自家用車がないと生活に困ることもあるでしょう。住み込み移住の場合、運転免許の所持が採用条件に入っている求人もあるので、持っているとできる仕事の幅が広がり、安心です。

また農業の仕事に就く場合、軽四輪トラック(通称:軽トラ)を運転する機会もあります。軽トラはAT仕様の車も出回っていますが、あまり多くはありません。ほとんどの軽トラはマニュアル車のため注意してください。

人気の移住先、厳選5県

(※写真はイメージです/PIXTA)
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ここでは、NPO法人ふるさと回帰支援センターによる2021年「移住希望地ランキング」をもとに、上位の都道府県を紹介します。

静岡県

静岡県の人口は70万人で、人口の多さは全国で10番目に入っています。静岡市などの都市では買い物や生活をするには困らないでしょう。首都圏へのアクセスがスムーズで、東海道新幹線で東京まで約60分で行ける距離にあります。自然に囲まれており、海・山・湖でのアクティビティを満喫できます。

静岡県では「静岡県移住・就業支援金制度」を実施しており、移住して就業・起業した人を対象に最大100万円が支給されます。静岡県公式移住サイト「ゆとりすと静岡」は仕事・住まい・暮らしに関する情報を紹介しています。各地域に住む先輩居住者の声も豊富で移住地を決めるヒントになるでしょう。

静岡県公式移住・定住情報サイト ゆとりすと静岡

福岡県

福岡県は、年間平均気温が17.7度と温暖な気候で、1年中過ごしやすい地域です。名物が多く、食べ物が美味しいと移住者に人気で博多ラーメン、もつ鍋、水炊きなどがあります。福岡市はコンパクトな街で交通アクセスがよく、博多駅から天神のメインエリアまでは徒歩10分、福岡空港は地下鉄空港線と直結しています。

現在、福岡市では「天神ビックバン」プロジェクトが進行しており、新しい商業施設が増えています。これからますます天神エリアが便利になっていくでしょう。「福岡県移住・定住ポータルサイト福がお〜かくらし」は、おすすめの移住地はもちろん、8つの離島の情報も紹介しています。こちらでは、Zoomを使ったオンラインの移住相談が可能です。

福岡県 移住・定住ポータルサイト 福がお~かくらし

山梨県

山梨県は富士山・南アルプス・八ヶ岳など標高の高い山に囲まれているため盆地になっており、夏は暑く冬は寒いという特徴が見られます。東京都に隣接しているため交通の利便性は抜群。JR中央本線山梨市駅から特急電車「あずさ号」や「かいじ号」に乗れば、約90分で東京に行けます。

県庁所在地の甲府市は商業施設が多く、ある程度便利な街に移住したい人におすすめ。甲州市はぶどうなどの果樹栽培が盛んな地域で、ワイナリーもある人気観光地として知られています。

山梨県は移住者へのサポートが手厚く、移住支援制度が充実しています。「やまなし暮らし支援センター」ではオンラインでの移住セミナーを開催しており、移住に役立つ情報を入手可能です。

ホーム/やまなし暮らし支援センター

広島県

県庁がある広島市は、コンパクトな街で交通の便も良く、大型ショッピングモールが点在していて便利な街になっています。また県内には世界遺産で有名な原爆ドームや尾道市などの観光地もあり、年間を通して観光客が多い地域です。

お好み焼き・牡蠣・もみじ饅頭は全国的に有名で、広島に行った際にはぜひ堪能したいところ。県南部に瀬戸内海があり、日帰りでのレジャーや、しまなみ海道でのサイクリングを楽しめます。観光客が多いため、移住者に対しても寛容な地域ですね。

2023年現在、広島県では「片道交通費支援制度」を実施しています。広島県を訪問する際の片道の交通費が支給されるため、現地に行く際にご利用ください。以下「ひろびろ-ひろしま移住サポートメディア」で詳しく紹介されています。

ひろびろ-ひろしま移住サポートメディア – 広島市 – HIROBIRO

愛媛県

四国最大の都市、愛媛県の中央にある松山市には50万人が暮らしています。年間平均気温は16.5度と温暖で、さらに気候が穏やかなため暮らしやすいでしょう。松山市以外にも、移住者に人気の地域があります。

宝島社『田舎暮らしの本』に掲載された「2023年版住みたい田舎ベストランキング」では、今治市が全部門を通じて1位、西条市が2位という結果でした。西条市は「うちぬき」と呼ばれる湧水が有名で、一部エリアでは上水道代が無料です。豊富な地下水がある地域ならではのメリットですね。

ちなみに日本最古の温泉街として知られる道後温泉は、夏目漱石の小説「坊ちゃん」にも登場する有名な観光地。県内外から多数の観光客が訪れる場所です。下記のポータルサイトでは、愛媛在住のコンシェルジュが相談に乗ってくれます。

えひめ移住ネット:【愛媛県公式】移住ポータルサイト

仕事つきの移住で理想の暮らしを実現しよう

(※写真はイメージです/PIXTA)
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移住と仕事はセットであり、収入源を確保できないと経済的基盤が安定しません。住み込みの仕事つきで移住する場合は、その点において安心できるでしょう。メリットだけでなくデメリットもあるため、いずれも把握したうえで移住を実行してください。この記事を参考に、住み込みでの移住を検討してみてはいかがでしょうか。

仕事と住まいを見つけられれば、地方で新生活を始めるハードルが下がります。自分に合う求人を見つけるのは大変かもしれませんが、Webサイトや相談窓口でじっくり探してみましょう。

合同会社Stone intech

中嶋遼太

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