“よき相談相手”の母親に「役員報酬186万円」は許される!? 追徴課税を受けやすい「誤った節税」5選【税理士が警告】

(※写真はイメージです/PIXTA)

経営者や個人事業主、一定以上の給与をもらうサラリーマンのなかには、所得を増やす努力と同時に「節税」に力を入れている人も多いでしょう。しかし、誤った対策により「脱税」と判断され、節税のつもりが「多額の追徴課税」を受けてしまう人も少なくないと、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士・公認会計士の黒瀧泰介氏はいいます。今回、多くの人が勘違いしている「誤った節税」について、黒滝氏が解説します。

やってはいけない「5つ」の税金対策

――昨年12月、『元・中小企業庁長官が、交際費の使い込みを理由に社長職を解任された』というニュースが話題になりました

※ 参考:J-CASTニュース(2022年12月16日)『経費でコンパニオンと混浴三昧...拒否騒ぎ後も業者変更で継続 TOKAI HD前社長「非常識接待」常態化の背景』

今回は内部通報がきっかけで判明したそうなんですが、こういう怪しい「節税」ってやっぱりあるんですね。

黒瀧氏(以下、黒)「誤った節税をすると、かえって経営や評判にマイナスの影響が出たり、追徴課税が課されたり、場合によっては逮捕ということにもなりかねません。今回は、『絶対にしてはいけない税金対策』を具体的にみていきましょう」

1.公私混同

黒「『公私混同』はその名のとおり、事業と関係のない私的な費用を経費として計上することです。

たとえば、社長が家族と行った海外旅行を『出張』として計上したり、社長個人の高級時計を『会社名義』で購入して計上したりするケースが挙げられます。これらは税務調査が入ると厳しくチェックされますし、発覚すると特に大きな問題になりやすいです」

――発覚するとどうなるんでしょうか?

黒「“プライベートな支出”ということで経費否認され、社長への給与と認定されます。そのため法人税、源泉税、重加算税などが上乗せされますし、なんといっても社員のモチベーションも低下してしまいます」

――会社のお金と個人のお金の区別はきっちりつけておかないと、痛いペナルティが待っているということですね。

2.家族への不相応な給与・報酬

黒「『法人税を減らすために社長の役員報酬を引き上げる』という方法は、社長であれば誰しも考えるかと思いますが、この方法をとると社長個人の所得税や住民税の負担が増えてしまいます。

“それならば……”とやってしまいがちなのが、勤務実態がほとんどない『社長の家族』に高額な役員報酬を支払っているというケースです。なかでも、勤務実態のない社長の妻への高額な役員報酬が否認されるケースが多くみられます」

――いくらまでならOKなのでしょうか。

黒「“よき相談相手”という曖昧な役割しか果たしていない母親に対する適正な役員報酬が、年額186万円とされたケースがあります。このくらいであれば問題はないと考えられます」

――では、家族を役員ではなく「従業員」にしておけば、好きに給料を上げても大丈夫でしょうか?

黒「いや、それも危険でしょう。その家族が『採用担当』などなんらかの形で経営に従事している場合、『みなし役員』とされる可能性が高いです」

――「みなし役員」とはなんですか?

黒「平たく言うと、“役員ではないが役員と同じように取り扱われる”ということです。

従業員への給与と役員への役員報酬では性質が異なり、役員報酬には『期首から3ヵ月を超えて特に理由なく報酬額を変更した場合、差額分は経費にできない』というルールがあるため、みなし役員にもこのルールが適用されます」

――つまり、奥さんが形式上従業員だったとしても「予想以上に利益が出たので妻の給料を上げよう!」と考えるのは危ないということですね。

やりがちな「無申告」による脱税もハイリスク

3.不透明な利益移転

黒「『不透明な利益移転』とは、代表者が複数の会社を持っている場合に、そのなかで不自然な受発注をして利益を移転するような事例です。同じ会社間の受発注であっても、一般的な相場とかけ離れた価格でのやり取りは違法です」

――身内の会社と、なあなあなやり取りをしてはいけないということですね。

黒「はい。むしろ、同じ会社間の受発注は価格に合理性がないとみなされることがあるため、第三者からも見積もりをとったり、成果物の証拠を残すなどの対応が必要です」

4.高額すぎる退職金

黒「退職金においては、節税しようと不自然に高額な退職金を設定すると税務調査で否認されます」

――実際に、退職金が高額だったために否認されたケースはありますか?

黒「形式上ありうるのは、株価対策のために退職金をドンと払って会社の利益を圧縮させ、株価を下げるといったケースです。きちんと規定を定め、『功績倍率法』などで計算した適正な金額にする必要があります。

また、代表者が退職後も実質的に経営上主要な地位を占めている場合も、“名目的な退職”とみなされ、退職金は否認されるため注意が必要です。この場合、代表者に対する賞与と認定され、課税対象となります」

5.無申告

黒「してはいけない税金対策のなかでもっともシンプルでやりがちなのが、税金を申告しないこと。つまり『無申告』です」

――無申告だとどうなってしまうのでしょうか。

黒「税務調査は、申告した内容に虚偽やミスがないかを確認する目的で実施されることが多いため、『申告自体をしていなければ税務調査は来ないだろう』と考える人がいるかもしれません。

しかし、収入を得た取引先や顧客が申告をしていたり、税務調査を受けたりした場合、そこから無申告がバレることがあります」

――結構、バレるんですか?

黒「バレます。芸能人の脱税に関するニュースもときどき取り上げられていますよね。いったんは納税せずに済むかもしれませんが、発覚すれば納税額にプラスして延滞税や無申告加算税が課税されますし、社会的な制裁もあります」

――知らなかったでは済まないということですね。明らかに悪意のある行為をしないというのはもちろんですが、節税のつもりで“うっかり脱税”をしてしまわないよう気をつけましょう。

「投資の前倒し」で効果的に節税可能

――では反対に、「やってもいい税金対策」にはどのようなものがありますか?

黒「会社を大きくするためには、投資→回収→投資を繰り返していく必要があります。ただし、この回収分の利益に対しては税金が課せられます。

そこで可能な税金対策は、『投資を早めること』です。翌期以降の売上や利益を伸ばすための投資を前倒しで行うことができれば、結果として会社は大きくなります。節税はこうした観点で行っていくのがおすすめです」

――具体的にはどのような費用にこの「投資の前倒し」が使えるのでしょうか。

黒「人材採用費・広告費・設備投資費・交際費・福利厚生費などが挙げられます。

たとえば広告宣伝費は、来期に予定しているプロモーションを前倒しで行うことで節税効果が期待できますし、設備投資費については、来年度以降に設備投資や修繕等の予定がある場合、その予定を少し前倒しして年度内に行うことも効果的です」

――節税をするにも、法的に正しいやり方できちんと設計していくことが必要ということ
ですね。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

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