知識だけでは意味がない…運用会社の社長が小学生から学んだ「金融教育」の本質

(※写真はイメージです/PIXTA)

給与は一向に増えず、物価上昇は止まらない……政府が国民に「自助」を呼びかけるいま、「お金について学ぶこと」の重要性が高まっています。そのようななか、鎌倉投信の代表取締役社長である鎌田恭幸氏は「金融教育は単に知識を得ることではない」といいます。負担ばかりが増す現代の日本で生きる私たちは、今後どのようにお金と向き合っていけばいいのでしょうか、みていきます。

金融教育が真に目指すもの

2020年度から小、中、高等学校において「金融教育」が順次義務化され、子供のうちから「お金」について学ぶ機会がふえはじめています。また、2024年からはNISA制度の非課税枠が拡大しますので、子供だけではなく、お金の運用や管理について関心を向ける大人もふえることでしょう。

日本では、人前でお金のことを口にすることがタブー視されてきた感がありますが、お金についてきちんと向き合い、学ぶことは本来とても重要なことだと感じています。金融広報中央委員会が作成した「金融教育プログラム」をみると、金融教育とは、

①生活設計・家計管理

②金融や経済の仕組み

③消費生活・金融トラブル防止

④キャリア教育

からなる、4つの分野に分けて教育を施すことを指針とし、その目的を次のように謳っています。

「金融教育は、お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である」

筆者は、お金について考えることは、単なる知識を得ることではなく、人生そのもの、つまり自分の価値観や人生観を深めるためのものであると思ってきましたので、こうした定義に共感しています。

しかし、その一方で、自分の価値観を磨き、よりよい社会づくりに向けた主体性を養う金融教育とは、いわば生きる姿勢、つまりは人間力を高める教育ですので、容易なことではありません。一人ひとりの心に深く問いかけるものでなくてはならず、何よりも、学びの機会を与える側の人間力、経験と思考の深さが問われるからです。

そうした観点に立った実践的教育として、近年、注目されるのが、高等学校のカリキュラムのなかに、起業やアントレプレナーシップ(起業家・企業家精神)を取り入れる学校が出始めたことです。

たとえば、今年4月、IT企業の創業者や様々な起業家が想いと資金を集め、「テクノロジーとデザインの専門性、起業家精神を学び、豊かな未来を創造するために必要な力をまるごと身に着けること」を目指して、徳島県の山間の地域に新設した全寮制の高等専門学校「神山まるごと高専」は、起業家育成の取り組みとして非常に楽しみな挑戦です。

なにか事業を興すには、自分がやりたいことの探求、社会に向けた視座、経済感覚、ファイナンスの知識などが求められますので、あえて金融教育を謳わなくても、自然と身につくでしょう。

「お金について学ぶ」モチベーション

一方、多くの人にとって、「起業」をテーマに金融について学ぶことは、少しハードルが高いかもしれません。

その場合、株式や投資信託などへの投資をきっかけにして、「自分の価値観や生き方をしっかりと持ち、よりよい社会づくりに向けて全力を尽くしている経営者やいい会社」の存在を知ったり、書籍を読んだり、実際に話を聴いたりすることで、自分の価値観や人生観を見つめなおしたり、社会とのつながりなどを意識することは比較的容易です。

筆者は、株式や投資信託などへの投資をきっかけに、金融に関する知識、経験を積み上げながら、それと同時に上記のような機会を通じて自分の思考の枠を広げ、意思をもったお金の遣い方や行動につなげ、人生を豊かに生きる多くの投資家を多数みてきました。

たとえば、社会にとってよりよいお金の遣い方や日々の生活を意識し始めた人、寄付やボランティアなど社会に対して貢献できる小さな一歩を踏み出した人、自分の人生を見つめなおして転職した人、自分が所属する組織の風土改革に挑戦する人、など例を挙げればきりがありません。

筆者は、こうした機会を広く顧客に提供することもまた、金融に関わる人にとって大切な役割のひとつであると感じています。

そのため、筆者が代表を務める資産運用会社では、運用する投資信託の顧客(受益者)である個人投資家との対話や、子供向け、あるいは企業で働く社員向けの金融教育(金融の学びプログラム)をおこなう際、単に知識を教えるだけではなく、投資や資産形成、お金の学びを通じた人の成長に意識を向けるよう心掛けています。

たとえば、昨年協賛した、ある団体が主催する小・中学生向けに2泊3日でおこなった「金融教育キャンプ」は、キャンプの前半で金融や「いい会社」とは何か、今社会が抱える課題は何か、といったことについて子供たちと共に考えた後、最終日は、子供達自らが資金調達を含めて事業を考え、発表するというものでした。

参加した子供たちは、幾分緊張気味のなか、一所懸命に考えた事業アイデアを披露してくれました。たとえば、国民が健康に暮らすための保険会社を考えた小学2年生、自由に出歩くことができない高齢者などの買い物をサポートする事業を考えた小学4年生、子供の発想力を高めるための場をつくる事業を考えた小学6年生など、その豊かな創造力に感心すると同時に、逞しさを実感しました。

この時、「子供たちのなかには、主体的に行動できる態度や生きる力はすでに備わっており、それを大人が教えるというのは、おこがましい。むしろ、その潜在的な力を発揮させる場が必要ではないか」と感じたものです。

金融教育とは、単に、お金の管理、投資や資産運用の知識、テクニックを教えるものではありません。基礎的な知識や運用方法について話しながらも、その本質は、金融を通じて自分自身が大切にする価値観(軸)を醸成するためのものです。

なぜなら、いくら知識やテクニックを学んだとしても、そうした意識を根っこに持たない限り、投資や資産形成に取り組んだとしても成功することは難しいからです。

そして、さらにその先には、自分に関わる人や社会にいかに貢献するか、という自分自身の生き方や働き方に向き合うことにもつながると思っています。

これらは結果的に自分に対する自信につながり、自己概念を高め、他者との関係性も豊かにします。さらには、金融を通じて、社会や経済、異業種を含めたさまざまな会社の取り組みなどを知ることによって、仕事の質も高まり、豊かな人生につながるでしょう。

金融について学ぶことの真の価値は、そうしたことにあると考えます。

鎌田 恭幸

鎌倉投信株式会社

代表取締役社長

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