「出世したくない…」Z世代の若者に、決定的に足りないスキルが最新調査で発覚【専門家が解説】
2023年05月18日 14時45分THE GOLD ONLINE

株式会社RESが実施したZ世代の「出世感・資産」調査では約23%が「出世したくないし、成功もしたくない」と回答しています。一方で約18%が「会社で働いて出世・成功したい」と回答しており、将来の出世や成功に向けて意欲を燃やす若者は少数派であることが分かります。そのようななか、重要度を高めているのが「会社が提供する金融教育」です。なぜなら、「若者の金融リテラシーと成功への向上心は関係性がある」という見方が近年広がりを見せているからです。全国で金融教育の出張授業を実践している盛永裕介氏が実際の授業内容とともに解説します。
なぜ今、職場における金融教育のニーズが高まっているのか?
政府が「貯蓄から運用へ」を推奨する現代において、会社が金融教育を提供することは重要です。新入社員が正しい知識を身につけ、将来の資産形成に向けた適切な準備を行い、安定した生活やキャリアを築くための基盤づくりを後押しすることができます。
三井住友信託銀行のアンケート調査1)によると、「職場で金融教育を受けたと」答えた方の割合は、約1割程度にとどまっており、職場での金融教育の浸透はまだまだ十分とは言えない状況です。
一方で、若手社員を中心に資産形成への意識が高まっており、つみたてNISA口座数は2022年9月末時点で466万口座と、2021年末の339万口座から37.6%も増加しています2)。
金融知識が不十分なまま資産運用を始めると、損失を被る可能性が高まるだけでなく、詐欺や悪質な投資案件に騙される危険性も増します。そのため、企業は新入社員や若手社員に金融教育の機会を提供し、正しい金融知識を身につけさせることが重要です。
企業が金融教育を実施するメリット
個人が資産形成を推進することは重要ですが、企業が従業員の資産形成をサポートすることで得られるメリットがあります。MUFG資産形成研究所3)の調査によると、企業が金融教育を実施することで、従業員のエンゲージメントが向上し、組織への愛着や貢献意欲が高まるとされています。
また、金融リテラシーが高い若い世代ほど、マネジメント職への意欲があり、ビジネスマンとしてのスキルが向上することが示唆されています。
金融リテラシーの向上は、キャリア発展やリーダーシップ能力育成にもつながります。企業は金融教育の重要性を認識し、従業員向けの研修や教育プログラムを充実させることが望ましいと考えています。
さらに、資産形成に関する福利厚生制度について、求職者の就職先選定に影響するデータ1)もあります。企業が福利厚生制度を充実させることで、ブランド力や採用競争力が向上し、優秀な人材を惹きつけることができるでしょう。
新入社員のための金融教育プログラム「4つの柱」
以下では、金融教育プログラムの例を紹介し、新入社員が金融リテラシーを向上させるために学ぶべき内容について解説します。
(1) 給与明細の読み方と理解
まず、新入社員には給与明細の各項目(勤怠・支給・控除)の読み方や、総支給額と手取り額の違いを理解することが重要です。
給与明細から、社会保険料や税金の控除、さらに会社で加入した保険や労働組合費、財形貯蓄などの天引きがどのように計算されているかを把握することができます。これにより、自分の収入や支出を正確に把握し、自由に使えるお金を明確に理解することができます。
(2) ライフプランの作成とリスク管理
結婚、出産、マイホーム購入、老後など将来の生活設計を立て、それらを実現するために必要な資金や期間を把握することが重要です。たとえば、子どもの教育費や住宅ローンの返済額を考慮し、現在の収入や支出を鑑みて将来の予測を立てることで、貯蓄の目標に目途をつけ、計画を策定できます。
加えて、この段階でリスク管理についても考慮することが望ましいでしょう。たとえば、失業や病気などのリスクに備える方法を学ぶことで、将来の不測の事態に備えることができ、安心して生活設計を実現することができます。
(3)家計管理と収支管理の重要性
資産形成と家計管理は表裏一体です。資産形成と家計管理の両輪を適切に行うためには、収支管理を理解し、家計簿の作成方法や投資・消費・浪費の違いを学ぶことが重要です。
家計簿は、収入と支出をカテゴリ別に記録できるアプリを活用することがおすすめです。家計簿を作成した後、まずは無駄な浪費を見直しましょう。食費や交通費など、生活を維持するための消費に注力することで、家計のバランスを保つことができます。
(4)金融商品の特徴やリスクの理解
金融商品は新入社員にとって馴染みがないため、金融商品の種類や特徴、リスクについて学ぶことが重要です。銀行預金や国債など確実性の高い商品から、株式や投資信託などリスク(不確実性)の高い商品まで、自分に合った商品を選ぶためには、それらの特徴やリスクについて十分に理解する必要があります。
また、投資の目的に応じたリスク管理やポートフォリオ(各金融商品の組み合わせ)の組み方を学ぶことが望ましいでしょう。ライフプランを基に、長期的な視点や分散投資、積立投資などを考慮して、投資先を選定することが重要です。
初心者にとって取り組みやすい方法として、政府が推進する投資制度であるNISA制度やiDeCoを活用することも一つの手段となります。
企業が効果的な金融教育を実施するうえで「重要な3つのポイント」
金融教育を実施する際には、以下の点に注意してプログラムを企画・実施することが重要です。
(1) 外部専門家の活用
多くの企業は、金融教育の研修を取り入れることの重要性を理解しているものの、実際に研修の実施に労力を割くことが難しい場合があります。実際、企業型DCの継続教育を実施していない理由の37.9%は「教育に時間を割けない」と回答しています4)。
そのため、企業はファイナンシャルプランナー(FP)や独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)、金融教育コンテンツを提供している会社と連携し、金融教育プログラムを導入することは検討余地があるでしょう。
(2) 実践的な学びの場
金融教育では、理論だけでなく実践的なスキルやノウハウを学べるプログラムを提供することが重要です。シミュレーションやケーススタディを活用して、従業員が実際の資産運用や家計管理に応用できるスキルを習得できるようにすることが望ましいです。
(3) 継続的な学習のサポート
金融教育は継続的に学ぶことが重要です。企業は、定期的な研修やフォローアップを行い、従業員が着実にスキルを向上させることができる環境を整える必要があります。
たとえば、オンラインコースやセミナーを活用して、従業員が自分のペースで学習できるようにサポートすることが効果的です。また、金融知識やスキルのアップデートに対応した教材の提供や、社内での情報共有の場を設けることも、継続的な学習を促進する方法として考えられます。
企業が認識すべき「金融教育プログラム」の重要性
新入社員の金融教育は、従業員の資産形成や家計管理能力の向上、企業のブランド力や採用競争力の強化に寄与する重要な取り組みです。企業は、従業員のニーズに応じた金融教育プログラムを提供し、継続的な学習のサポートを行うことで、新入社員の金融リテラシー向上に貢献できます。
企業が金融教育の取り組みを行い、従業員が経済的な安定感をもち、より良い働き方ができる環境を整えることが期待されます。
盛永 裕介
(株)Japan Asset Management JAM Academy 塾長
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出典:
1)三井住友トラスト・資産のミライ研究所(2022)「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」
2)日本証券業協会(2022)「NISA口座開設・利用状況調査結果(2022年9月30日現在)について」,pp.1
3) MUFG資産形成研究所(2020)「従業員エンゲージメントと金融リテラシーの関係性について」
4) NPO法人確定拠出年金教育協会「企業型DC担当者調査やiDeCoナビに見るDCの現状と課題について」
国税庁「給与所得の源泉徴収税額表」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2021/data/01-07.pdf
厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/
株式会社RES「出世感・資産」調査
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000107120.html
新入社員って新卒1年目ってことだよね。住民税は2年目からだから給与明細見ても載ってないんじゃないの?