「車はすべてEV」の時代がやってくる?「新聞の切り抜き」からわかる半導体・自動車産業のゆくえ【投資のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「日経新聞の切り抜き」を25年間継続し、会社四季報を100冊読破した複眼経済塾の渡部清二代表は、これまで切り抜いてきた日経新聞の記事から、半導体・自動車産業の変遷とともに、今後の流れを予想します。

日経切り抜きからみえる「半導体関連株」の現在地

現在、多くの国がインフレに打ち勝つ方法を考えなければならない状況であり、日本の産業・企業も例外ではない。そこでインフレを打破するために、どのようにすれば「稼ぐ力」をものにできるのか。日本経済の柱となる半導体事業、あるいはEV(電気自動車)を主とする自動車産業について、以下のような指標ノートのコメントがある。

■「車載半導体、供給回復続く」(日経新聞切り抜き 2022年2月25日)

この記事は、車載半導体の供給回復が続いていることを報じていて、ルネサスエレクトロニクス(6723)など世界大手5社の2021年末の在庫総額は2020年末比9%増と、第2四半期連続で2020年同期を上回ったという。

しかし、供給制約に好転の兆しが見えるものの、完成車メーカーが挽回生産や在庫水準の引き上げに動いたことによって需要も大きく膨らんだ。需給バランスを取り戻すには、まだ時間がかかりそうだとも書かれている。

次いで、4月12日の「半導体関連株、見えぬ底」と題する記事を見てみると、「株式市場の牽引役だった半導体関連銘柄が崩れている。主要な半導体関連銘柄で構成する米フィラデルフィア半導体株指数(OX)は新型コロナショックを経て2年あまりで3倍になったが、2022年に入り減速トレンドへの転換が鮮明だ」と報じており、需要減や在庫のだぶつきを警戒した投資家の売りが増大していたことがうかがえる。

■「TMC、最先端品を量産」( 日経新聞切り抜き 2022年4月15日)

この記事のリード文は次のように書かれている。

台湾積体電路製造(TMC)が年内に、台湾の新工場で世界最先端の「3ナノ(ナノは10億分の1)メートル品」の半導体の量産を始める。さらに先端の「2ナノ品」の新工場建設も年内に台湾で始めることを決めた。世界の先端半導体の92%の生産を担う台湾で、今後一段と重要な半導体の一極集中化が進む。昨年来、過度な台湾依存の地政学的リスクが盛んに指摘されてきたが、世界は今なお止められずにいる。

TMCは、米アップルのスマートフォン「iPhone13」向けなどに、「5ナノ品」と呼ばれる先端の半導体を供給するなど、技術力で群を抜き、唯一のライバルとも言えた韓国サムスン電子とも、大きな技術差が付いたとしている。

そして3月15日の「半導体、3次元積層で進化」という大見出しを付けた記事では、先端半導体の開発で、複数のチップを積み重ねて性能を高める3次元(3D)技術の重要性が増しているとしている。これは半導体の回路の配線を細くする微細化で面積を小さくし、半導体を小さくする技術は限界を迎えたことを意味している。

さらに面積を小さくできなければ「積層構造」にすることになるが、これは狭小地で面積を広げられない場合、縦に伸ばして複数階建ての家にするというのに似ている。この関連の装置・材料では東京応化工業(4186)、TOWA(6315)など、日本のメーカーも存在感を示していることについて触れている。

自動車産業は「100年に1度」の変革期

■「EV連合『ソフト×量産』」(日経新聞切り抜き 2022年3月5日)

これは、ソニーグループ(6758)とホンダ(7267)がEV(電気自動車)やモビリティー分野で提携し、ソフトと自動車の量産技術を掛け合わせ、新たな事業モデルの構築を目指しているという記事だ。

ソニーは画像センサーや通信技術、エンターテインメントが強みで、ホンダには車体製造のノウハウや世界での販売店網があるとしており、両社が共同出資で設ける新会社はEVの車両の設計、開発、販売までを一貫して手掛けるという。

この記事に関連する形で3月6日に「創業スピリッツ再起へタッグ」という記事がある。

その冒頭、「自動車産業が100年に1度といわれる変革期を迎えるなか、両社が創業時のスピリッツを取り戻せるかが問われる」と書かれているが、ソニーの創業者・井深大(いぶかまさる)氏とホンダの創業者・本田宗一郎(ほんだそういちろう)氏の40年にわたる交友に関する記事を読むと、最後に「人まねせず、失敗を恐れずに新しいことに挑戦する。(これは)ソニー・ホンダの新タッグにとって、色あせないメッセージである」と書かれている。

既存のものを組み合わせることがイノベーションであるならば、この組み合わせから何か新しいものが生まれる予感がする。

■「テスラ時価総額22兆円 トヨタ抜き車トップ」(指標ノート 2020年7月1日)

テスラ社の時価総額が約2,105億ドル(約22兆6,000億円)に達し、トヨタを抜いたというこのニュースはEV(電気自動車)への移行が加速していることを物語っていた。

2020年7月のテスラの株価は216ドル。その後、2021年11月の段階で1,243ドルという高値をつけている。したがって、同社の時価総額は約1年半後に1兆ドル(百何十兆円)以上に達したことになり、テスラの株価が216ドルのときに素直に投資していれば、投資額は約6倍に膨らんでいたことになる。

2019年にトヨタが世界で販売した台数は約1,074万台。一方、同年のテスラの販売台数は約36万7,500台で、まだトヨタの約30分の1でしかなかった。

だが、同社は次世代の自動車業界を担う存在として投資家の注目を集め、その後も株価の急伸が続いた。

株式市場は将来を先読みするため、テスラがトヨタと同様に、EVを年1,000万台販売するところまで織り込んだと考えられる。このような相場は期待だけで上昇する「理想相場」と呼ばれるが、一旦、足元の現状が冷静に見られると株価は元に戻るリスクがあるので注意が必要だ。

実際に2023年1月9日時点で、株価は119ドルまで下落している。ちなみに私はEVの時代はそんなに簡単には来ないのではないかと考えている。

「EVの時代は簡単には来ない」といえるワケ

■「トヨタ米販売 の首位233万台」(指標ノート 2022年1月4日)

2020年7月1日には「テスラ22兆円 トヨタ抜き車トップ」とコメントしており、テスラとトヨタ自動車(7203)の時価総額が逆転したことがわかった。これと似たような感じで2022年1月4日の大発会当日に報じられたのが、2021年のアメリカにおけるトヨタの販売台数がGM(ゼネラル・モーターズ)を抜いて首位になったというニュースである。同日、トヨタ株は史上最高値を更新した。

出典:株探(http://kabutan.jp)
[図表]トヨタ自動車(7203)の日足チャート 出典:株探(http://kabutan.jp)

トヨタが首位になった要因は、半導体不足で大幅な減産を強いられたGMや米フォード・モーターに比べて影響が限定的だったからだと伝わっている。だが、おそらくこれからもトヨタはアメリカで販売台数を続伸させることだろう。

その兆しを感じさせたのが2022年1月25日の「トヨタ22年度世界生産1,100万台」という見出しだ。実際に2022年の12月の日経新聞の記事では、「トヨタ、3年連続世界一へ 22年新車販売台数」の見出しをつけ、世界新車販売が3年連続で世界首位になる見通しであることが報じられた。

この世界生産1,100万台という数字は、自動車販売で世界一になることを意味している。トヨタは今のところ、ガソリン車、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、EVなどフルラインナップでいくことを目指している。その世界一のトヨタの株価が、史上最高値を付けたということは、株式市場はその流れを認めていることになる。

とすると、全てEVになるというストーリーも柔軟性を持って考えた方がよいということになるだろう。

渡部 清二

複眼経済塾

代表取締役塾長

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