「起業した人の約半数」は「日本人の平均年収433万円」よりも稼げないが…稼げる社長になる“斜め上の手段”【税理士が解説】
2023年05月22日 05時15分THE GOLD ONLINE

苦労して起業しても、社長の約半数は年収360万円程度と、日本人の平均年収よりも稼げません。そのようななか、社長になるのには、起業よりも成功しやすい手段があると、相続に詳しい税理士・公認会計士の小形剛央氏はいいます。どのような手段でしょうか? みていきます。
事業承継は「ゼロから起業する」よりもリスクが低い
これは後継者目線でのメリットです。事業承継をすることで、後継者はゼロから会社を立ち上げる必要がなくなり、既存の事業を引き継いでスムーズに社長となることができます。
一国一城の主になることを目指す後継者にとっては、すでに事業や器が準備されているということは、事業をゼロから起こすよりもリスクがはるかに低く、大きな利点となるのです。
起業に関心がある人でも、実際に起業するまでにはさまざまな関門があります。日本政策金融公庫の「起業と起業意識に関する調査」(2017年)によれば、起業関心層に対してまだ起業していない理由を尋ねたところ、1位から順に「自己資金が不足している」(58.6%)、「失敗したときのリスクが大きい」(37.5%)、「ビジネスのアイデアが思いつかない」(34.6%)となりました[図表1]。

リスクをとって起業し、社長になっても…4割は「年収360万円」の実情
読者のみなさんも、かつてはこうした悩みを抱いた経験をお持ちかもしれませんが、起業してからもさまざまな問題が起こります。
別の調査によれば、起業した人の月商(1カ月あたりの売上高)は、「30万円未満」が42.1%、「30万円以上50万円未満」が14.7%と、決して裕福とはいえない実情です[図表2]。

月30万円ということは、年収にすれば360万円ほどですが、経費を考えたら毎月の手取りは20万円代といったところです。
国税庁や厚生労働省の調べでは、日本人の平均年収は約433万円、年収の中央値は約399万円ですから、起業して社長となっても、その半数近くが一般人の平均年収よりも稼げていないというのは、非常に厳しい現実です。
こうした状態は、経営者の収入面だけではなく経営的にも厳しいものがあり、このくらいの売上規模であれば、少し受注が減っただけで経営が一気に傾くことも大いにあり得ます。
データが示す経営者の「過酷な現実」
帝国データバンクの調査によると、2022年上半期の企業倒産件数は3,045件でしたが、そのうち「不況型倒産」が2,379件で、全体の78.1%となりました。「不況型倒産」の内訳は、2,379件のうち2,330件が「販売不振(売上高が減少し利益が出ない)」です[図表3]。

会社経営において、売上を上げて利益を残すことがいかに重要かつ難しいことであるかがわかります。
この倒産企業数でいえば、2021年の倒産企業数は約6,000件と、リーマンショックが起きた2008年(1万3,000件以上)以降、倒産企業数はずっと減少しています。2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい状況を支えるための各種支援策による影響も大きいと予想されますが、この原稿を書いている2022年9月時点では、歴史的な円安による物価高も社会問題となっており、決して楽観できない状況です。
これらのデータは、どんな時代であっても倒産リスクは常に付きまとっていて、なんとか経営が続けられても、経営者が得られる収入は非正規社員と同程度のケースが約半数という、起業の過酷な現実を教えてくれます。
リスクを抑えられる…「事業承継」という選択肢
しかし事業承継であれば、取引先も従業員も存在する状態からスタートできるので、後継者の精神的負担は起業よりもかなり軽減されます。
実際、「ゼロから起業するほどの勇気はないけれど、事業承継なら興味がある」と答える後継者候補にもよくお会いしますが、事業承継は、このような後継者の起業ニーズを満たす新たな選択肢となり得ることを感じています。
もちろん、経営を引き継ぐことは容易ではないですし、相応の覚悟も求められますが、それでも特に後継者不足で悩んでいる中小企業経営者の方々には、後継者候補は意外と存在するという事実をわかってほしいと考えています。
その意味でも、「経営は大変なものだから、誰も引き継がないだろう」と思い込んでしまうのは、やはりもったいないことといえます。
小形 剛央
税理士法人小形会計事務所 所長
株式会社サウンドパートナーズ 代表
税理士・公認会計士
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