「働けなくなったときの保険」は必要?不要? “保険ぎらい”の経済ジャーナリストが「検討してもいい」というケースとは

(※写真はイメージです/PIXTA)

病気やケガで「働けなくなったときのための保険」が生保会社・損保会社から販売されています。しかし、それらは本当に必要でしょうか。「保険ぎらい」を自認する経済ジャーナリストの荻原博子氏は、それらの保険の中身を理解したうえで、公的保障の活用も視野に入れて判断すべきとします。荻原氏が著書『5キロ痩せたら100万円 「健康」は最高の節約』(PHP研究所)より、働き方・雇用形態に応じて解説します。

「傷病手当金」と民間の保険、どっちがお得?

一家の大黒柱が病気などで働けなくなると、家計が逼迫(ひっぱく)します。そのため、働けなくなった時の収入を保障してくれる、民間の「就業不能保障保険」や「就業不能保障特約」に加入する人が増えています。最近テレビCMでもよく見かけますね。

生命保険文化センターの「2021年度生命保険に関する全国実態調査」では、生命保険に加入している世帯のうち、「就業不能保障保険」や「就業不能保障特約」に加入している世帯は、29歳以下が26.5%、30歳から34歳が最も高く34.6%、35歳から40歳が30.9%、40歳から54歳が26〜28%、55歳から64歳が15%前後。

働けなくなることへの不安が大きい若い人ほど、「就業不能保障保険」に加入する傾向にあるようです。

ただ、あわてて加入する前に、民間の「就業不能保障保険」と、「公的保険」の「傷病手当金」を比べてみましょう。

受け取り開始日 「公的保険」は、病気で休めば4日目から給付対象

民間の「就業不能保障保険」には様々なタイプがありますが、病気や怪我で働けなくなって2ヶ月ほど経過しても状況が変わらないことが確認できないと、保険金が受け取れないケースが多いです。

また、その間、入院し続けていないと給付金が受け取れない保険もあり、治療が長引く傾向にある精神性の疾患は対象外になることも。

一方、「健康保険」の「傷病手当金」は、通算で最長1年6ヶ月間支給され、対象にならない待機期間も最初の3日間だけ。

給付金は、申請してから半月~1ヶ月、審査に時間がかかると2ヶ月程度かかりますが、2回目以降は最短で振り込まれます。しかも、入院していなくても、仕事に就けない状況なら自宅療養でも対象になります。

新型コロナウイルス感染症では、自覚症状がなくても、PCR検査の結果「陽性」と判断されれば、自宅療養となりました。

コロナに感染してもひどい症状に悩まされない限り、2ヶ月以上療養するケースはあまりないので、「就業不能保障保険」よりも4日目から支給される「傷病手当金」に助けられた人は多かったのではないでしょうか。

受領期間 「傷病手当金」は働きながらでも、通算で最長1年6ヶ月間支給

「傷病手当金」をもらえるのは、同一の病気ではこれまで最長1年6ヶ月間でしたが、2022年1月からは、「通算で」1年6ヶ月間までが対象となり、その間に出勤した日などは除かれることになりました。

たとえば、がんなどは、治療中に良くなったり悪くなったりすることがあり、治療を受けながら休職と復職を繰り返す人も多くいます。

厚生労働省によれば、日本の労働人口の約3人に1人が何らかの病気を抱えながら働いているようです。

働き方改革で様々な両立支援策が行なわれていて、働いている期間は会社から給料をもらい、病気が再発して調子が悪くなったら「傷病手当金」を受け取りながら会社を休ませてもらうという対応も可能です。

つまり、治療を受けながら仕事を続けたい人にとって、働いている間をカウントされないのはありがたい。

また、通算で1年6ヶ月を過ぎても病気や怪我が治らない場合、障害の程度によっては、「障害年金」をもらうという手段もあります。

民間の「医療保険」は、保障金給付期間が2ヶ月など短いものが多いので、約2ヶ月後から給付金が出る「就業不能保障保険」を組み合わせれば、長く保険金を受け取れます。

ただ、そのためには民間の「医療保険」と「就業不能保障保険」の2つに加入しなくてはならず、保険料もそのぶん高くなります。

「傷病手当金」と同額を給付してもらおうと思ったら、年齢にもよりますが、月1万円以上の保険料は覚悟しなくてはなりません。

月1万円の保険料となると、年間12万円、10年間で120万円、20年間で240万円の出費です。それなら民間の医療保険には加入せず、万が一に備えて貯金しておくという方法もあります。

ただし、「傷病手当金」のない自営業などの方は、「就業不能保障保険」や病気や怪我で減った収入を補償する「所得補償保険」(傷害保険)への加入を検討してもいいかもしれません。

■節約ポイント

民間の「就業不能保障保険」は、給付されるまでに時間がかかり、様々な条件もあることを知っておく。

フリーターやアルバイトは「休む権利」を放棄しない

会社員や、社会保険に加入できるようになったパートやアルバイトの方はイザとなれば「傷病手当金」が受け取れるので、民間の「医療保険」や「就業不能保障保険」はそれほど必要ないかもしれません。

しかし、「国民健康保険」だけに加入していて、「傷病手当金」がない、フリーターやアルバイトはどうすればいいでしょうか。

フリーターやアルバイトには、怪我や病気で仕事を休んでも収入の補償がありません。そこで確認しておきたいのが、「有給休暇」と「労災保険」です。

「有給休暇」は、給料をもらいながら取得できる休みです。週に働いている時間が30時間未満のフリーターやアルバイトでも、半年以上継続して働いていれば、有給休暇が取得できます。

[図表1]のように、働いているのが週に4日以下(年間で48日~216日)の場合でも対象となります。

[図表1]継続勤務期間に応じて付与される有給休暇の日数

たとえば、週1日勤務でも、同じ職場で6年半以上働いていれば、年間で3日の「有給休暇」を取得できるということは、あまり知られていないのではないでしょうか。

じつは、有給休暇が年に10日以上取れる労働者には、最低5日以上の「有給休暇」を与えないと、雇い主が罰金を払わなくてはならないという改正労働基準法が2019年4月に施行されています。

それを知らない経営者も多いようですので、まずはこの「有給休暇」の取得を検討してください。

■節約ポイント

フリーターやアルバイトは、現在の蓄えや「有給休暇」をしっかりチェックし、不足ぶんを民間の保険で補うといいでしょう。

※記事内で紹介した情報は2023年1月時点のものです

荻原 博子

経済ジャーナリスト

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