昭和29年の「密約」からはじまった…日本とアメリカの“異様な関係”

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本とアメリカは、世界のなかでも良好な関係を築けている2国です。ただ、こうした関係性を構築できた背景には、ある「密約」の存在があると、東京大学名誉教授の矢作直樹氏と、世界の金融や国際協議の実務にかかわる宮澤信一氏はいいます。第二次世界大戦で最もひどい喧嘩をした国家同士の“異様な関係”について、詳しくみていきましょう。

「日米同盟」の裏にある“真のキーポイント”

【宮澤】アメリカと日本の経済関係は相互に依存する関係です。そして、MSA協定とは、大枠で言えば、日本がアメリカから武器を買い、その手数料を積立金としてアメリカに積んでおく、という話です。

日本としては、国防費つまり防衛装備品を買う費用という目的以外の目的で資金をつくりたい、お金を刷りたいわけですが、お金を刷る場合には、防衛装備品を買うという目的があって初めてお金をつくることができるということになっています。その条件をクリアして初めて日銀はお金を刷ることができます。

一般の人がいくら調べたところで、MSA協定の詳細についてはほとんどわかりません。密約の部分があるから、わかるわけがありません。

MSA協定作成の実務にあたった人たちは、日米地位協定や国際通貨基金協定といったものをすべて絡め、国対国の正式な条約にほぼほぼ近いようなかたちで協定をつくりました。

限りなく条約に近いのですが、そこには密約による条件がつけられています。協定によって流れる金を、お互いの国、例えば日本で言えば財務省や国税庁、アメリカで言えばIRS(Internal Revenue Service、内国歳入庁)に申告しなくてもいいという条件です。

官房機密費のような扱いで、日本から出たお金をアメリカのドルに換えてもいいし、日本円にしてもいい。そして、その条件のために、防衛装備品の購入という条件がセットされているのです。

最近は国によっては広報されてクリアになっていたりする場合もありますが、防衛装備品に関する情報、つまり、どういう武器をどれだけ持っているかなどという情報は基本的にグレーです。

防衛装備品をいくらでいくつ買ったかなどという話は、基本的に口に出すような性質のものではなく、その費用については売り上げた側においても申告義務がないというのが国際常識です。

MSA協定はそこに目を付けました。ここにMSA協定の基本があり、日米安保の基本があります。

東日本大震災時の“トモダチ作戦”に隠された思惑

【矢作】ひとつの例が、東日本大震災の時のトモダチ作戦ですね。メディアは、アメリカ側が作戦の予算として8,000万ドル(約68億円)を計上したことと、実際には何百億円を支払うことになるだろう、などということを報道していましたが、実際にはそんなわずかな額ではありませんね。トモダチ作戦はMSA協定におけるいい領収書になりました。

トモダチという関係ではあるけれど、残念ながら日本は金を払うという役目を負っています。役割分担があるから、文句を言ってもしょうがない。アメリカが負っている、血を流す、というのは大変な役目ですからね。

なぜ第二次世界大戦で最もひどい喧嘩をした国家同士がかくも手を握り合っているのかと言えば、はめられたという意味では格好悪いにせよ、やはり、われわれの先祖が、少なくとも戦術レベルでは立派に戦い、アメリカに尊敬されたからですね。

【宮澤】天晴の一言に尽きます。

【矢作】そういう意味で、われわれの先祖に対する感謝はきっちり押さえておかないといけないでしょう。犬死になどという言葉はまったくふさわしくありません。

相撲で勝って勝負に負ける、ではありませんが、単純に明らかなことで言えばアジアの民族の独立と解放を成功させました。人類として見た場合、勝敗よりもこちらの方が大きいと私は思っています。

戦後、日本が同盟関係を結ぶ相手としては、第一次大戦後覇権をアメリカに譲ったイギリスではやはりちょっと違うんですね。アメリカという人工国家と、日本という世界最古の自然国家が手を握り合うことに意味があります。

例えば中華人民共和国との間で、すべてを水に流して、本気で、心の底から同盟を組むということなどできるわけがなく、日米だからこそですね。

矢作 直樹

東京大学名誉教授

宮澤 信一

国際実務家

※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

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