ワークマンは「4,000億円規模の市場」発見で急成長…1日「約18社」倒産する〈売れない日本〉で見落とされている“穴場市場”
2023年05月25日 08時58分THE GOLD ONLINE

国税庁「令和2年度分 会社標本調査結果について」によると、現在、企業の62.3%、約174万社が赤字を抱え、苦境に立たされています。要因はさまざまですが、ダントツで多いのは「販売不振」。ところが、同じ「売れない日本」にありながら、ケタ違いの急成長を続けている会社も存在します。両者の違いはどこにあるのでしょうか? SDGsジャーナル 深井宣光氏の著書『SDGsビジネスモデル図鑑 社会課題はビジネスチャンス』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
多くのビジネスがもがき苦しむ理由
誰もが成功を目指してビジネスを始めるなか、思い描いていた理想に到達できず志半ばで事業をたたむ起業家が後を絶ちません。
中小企業庁によると、2022年の全倒産件数は6,428件。1日あたり約18社もの企業が倒産しています。そして、倒産理由の第1位は「販売不振」で4,525件(図表1)。続いて第2位が、経営悪化を改善できずに倒産してしまう「既往のしわよせ」(757件)となっており、その他の理由と比較しても「販売不振」は突出しています。また過去6年にわたり企業が倒産する理由の第1位は、そもそも売上が立たない「販売不振」であることからも、いかに「売れない」ことが致命的な問題であるかがわかります。

■なぜうまくいかないのか?
図表2のような、様々な問題が彼らの成功を阻んでいます。

では、そもそもなぜこれらのような問題を抱えてしまうのでしょうか。その原因は「アイデア追求思考」にあります。
Googleやユニクロさえ失敗…アイデア追求型が陥る罠
アイデア追求思考の「アイデア追求型」は、
・新しい仕組み
・流行りのトレンド
・これから来るトレンド
・イケてるビジネスモデル
・凄い技術
・上手くいくノウハウ
・まだ誰も扱っていない商品
・画期的なサービス
といったあらゆる情報、まだ誰も知らない(と思い込んでいる)情報を収集して、ビジネスがうまくいくアイデアばかりを追い求めてしまいます。なぜなら、成功者が成功しているのは、きっと自分たちがまだ知らないアイデアのおかげであり、新しいアイデアや誰もやっていないアイデアさえあればうまくいくと信じ込んでしまっているからです。
このように、アイデア追求型の起点は、いつも「アイデア」です。
そして、社会のニーズや欲求よりも、「このビジネスモデルなら!」「この仕組みなら!」と思いついたアイデアや、発見した(と思い込んでいる)アイデアがうまくいくことを証明したいという感情が強い傾向にあります。その結果、いくらビジネスに情熱や意欲があっても、アイデア追求型は需要と供給のバランスを冷静に見られなくなっていたり、無視したりしてしまいます。そして、そのままアイデア優先でビジネスを始めてしまうので、苦境に立たされています。
米国の調査・分析会社CBInsightsやその他複数の調査でも「スタートアップの失敗理由」の第1位は「市場に需要がなかった」となっており、いかに多くのビジネスが需要を疎かにした結果、失敗に終わっているかがわかります。
■市場参入パターン:需給バランスを無視して苦しむアイデア追求型の典型例
このように、需要と供給のバランスを無視して苦しむ、典型的な市場参入パターンが次の3つです。
まずは、①「需要あり、新規性なし」です(図表3)。これは例えば、あなたがこれからコンビニビジネスに参入するようなパターン。大手競合がいる市場に分け入り、店舗数を増やしてビジネスを拡大できるほどの需要は市場にありそうでしょうか。

街の至る所にコンビニが溢れ、コンビニの向かいにはまた別のコンビニ。ちょっと歩いたら、また別のコンビニ。買い物には便利だけれど、数が多すぎる…そんなことを思ったことがある方も多いでしょう。日本国内のコンビニ数はすでに飽和状態にあり、2017年に5万5千店舗に達して以降、2023年1月時点まで店舗数がほぼ増えることなく停滞しています(図表4)。

そして、それだけではありません。年間売上高は、2015年に5万3千店舗に達した際に10兆円の大台に到達したものの、以降7年の長期にわたって停滞を続けています。コンビニは、私たちの生活インフラともいえるような需要があるビジネスです。しかし、このように十分に需要が満たされていて、すでに供給過剰ともいえる市場では、競合と奪い合いの過当競争をするしかありません。
次に、②「需要過少」です(図表5)。これは、例えばデジタルカメラのように、かつては大きな需要があっても、現在は需要が大幅に縮小しているパターンです。スマートフォンの登場によって、デジタルカメラの需要は10年間で約90%も縮小(図表6)。このような過少市場は商品・サービスに新規性があってもなくても、厳しい市場です。


最後に、③「需要なし、新規性あり」です(図表7)。これは、Googleが2014年に一般向けに発売したスマートグラス「Google Glass」や、ユニクロのファーストリテイリングが2年を待たずに撤退した野菜事業「SKIP」のパターンです。

「Google Glass」は発売当時、近未来的で斬新なウェアラブルデバイスに世界の注目が集まりました。しかし、プライバシーの問題や高価格であることなど、消費者が求めるものとのズレから伸び悩み、日本に上陸することなく2015年に販売終了となりました。
「SKIP」は2002年11月に事業を開始。「ユニクロの野菜」としてこちらもその新規性から注目を集めました。しかし、ユニクロの仕組みを使って安くていい野菜を届ければうまくいくと考えられていた「SKIP」は、利用者が求めるものとサービスのズレによって、販売開始から2年に満たない2004年4月、24億円の特別損失を出して撤退しています。(参照:日経BP『世界「失敗」製品図鑑』/2021年10月)
そして、需要よりも、商品・サービスや仕組みのアイデアが優先された結果失敗に終わっている、Googleやユニクロのような大企業でもうまくいかないこの3つ目のパターンこそが、実は最もアイデア追求型の陥りがちなパターンなのです。
■市場参入パターン:アイデア追求型と対照的な「成功例」
しかし、その一方で、アイデア追求型とは対照的に、「需要」と「新規性」がある巨大な市場で成功しているのが、④アイデア追求型と対照的な「需要過剰、新規性あり」の場合(図表8)。例としては、ワークマンのようなパターンです。ワークマンは2018年、需要があるのに供給が満たされていなかった、4,000億円規模の巨大な「空白市場」=「高機能・低価格なアウトドアウェア市場」を発見。参入に成功して急成長し、店舗数はユニクロを超え、47都道府県944店舗と増加しています(2022年3月時点、図表9)。


ワークマンが発見したこの巨大市場について、ソフトバンクの孫正義氏は「よく国内で4,000億円の空白市場をみつけた」とコメント。ユニクロの柳井正氏は「『常々私は、その市場をやったらいいんじゃないか』と社内で言っていた。ところが『ワークマンにやられた』」とコメントしていた事を、ワークマン専務取締役土屋哲雄氏自身が話されています。(参照:ダイヤモンドオンライン/土屋哲雄『ワークマン大躍進の秘密は「しない経営」と「エクセル経営」』/2021年1月20日)
巨大な空白市場に誰よりも先んじたワークマンは、アパレル大手の存在を物ともせず、競合なしの独走状態で成長し続けています。このようなビジネスチャンスに溢れる巨大な空白市場をあなたも見つけ、ビジネスを急成長させることができたらいいなとは思いませんか。
実は、このような需要があるのに供給がまったく足りていない巨大な市場はいくつもあります。そして、そんな空白市場で起業に成功し活躍しているのが、「社会課題解決思考」の「社会課題解決型」です。
「社会課題解決思考」の「社会課題解決型」とは?
「社会課題解決思考」の「社会課題解決型」とは、社会が今すぐ解決を求めるほどの需要があるにもかかわらず、「供給が足りていない社会課題」「そもそも供給が一切されていない社会課題」を、ビジネスの力で解決していく起業家です。
社会課題解決型は、社会から共感によって拡散され、メディアの注目を集め、熱狂的な応援を獲得するだけでなく、「開発に必要な技術」「最高峰の知識」「最適なノウハウ」「ビジネスに必要な資金」「専門家からのアドバイス」「志を同じくする優秀な人材」「官公庁・行政・自治体からの支援」など、あらゆるリソースが集まり成功していきます。
では、なぜ「社会課題解決型」には、このような好循環が次々に起こっていくのでしょうか。
それは今、巨大な需要によって拡大し続けている「急成長市場」=「社会課題解決市場」が、日本のみならず世界で複雑化する「社会課題」の数だけ誕生しているからです。
■「需要過剰>供給過少」の「社会課題解決市場」
社会課題解決市場は、例えるならば、砂漠でカラカラに喉が渇ききって水を渇望している人たちのもとに、誰よりも早く水を届け、殺到して求められるほどに「需要」が過熱している市場です。
今すぐ課題解決を求められるほどの「需要」と「欲求」が世界規模で社会に溢れているにもかかわらず、巨大な市場ほど「供給」がまったく足りていません。つまり右肩上がりに急成長している市場の規模は、解決を求める人たちの規模そのものであると共に、ビジネスの成長可能性を表しています。
そして今、その市場の規模と数が飛躍的に拡大し続けているのです。
急拡大する「社会課題解決市場」の秘密
では、なぜ今「社会課題解決市場」は、急拡大しているのか? それは、社会課題解決市場は「メガトレンド」によって生まれているからです。
一般的な市場のトレンドは、短期的な流行によって一時的に拡大することはあるものの、あくまで「流行」にすぎません。長くても数年ほどで流行が過ぎれば終わりを迎えます。そして、その多くが興味関心レベルの欲求によって拡大するケースです。そのため、つい昨日まであった市場が明日にはなくなる…というようなリスクがあります。例えば、「タピオカブーム」「レトロブーム」などなど…「ブーム」と呼ばれるものが短期的な流行で盛り上がるものの、いつの間にか「そんなのも流行っていたね」というレベルで終わるようにです。
しかし、「社会課題解決市場」を生み出している「メガトレンド」は違います。社会課題によって起こる、社会の構造変化そのものからトレンドが発生しているので、長期にわたって急拡大を続けるだけでなく、これまでの世界の大前提そのものを変えてしまうほどのトレンドです(図表10)。

例えば、次のような「メガトレンド」が次々に「社会課題解決市場」を生み出し続けています。
●急激な「人口増加」
●止まらない「人口減少」
●高まり続ける「高齢化」
●避けては通れない「インフラ老朽化」
●生物そのものの危機「気候変動・環境破壊」
上記の市場はあくまでも存在している市場の一部にすぎません。まだまだ「社会課題解決市場」があらゆる分野で溢れています。
SDGsジャーナル 深井 宣光
一般社団法人SDGs支援機構事務局長。SDGs/社会課題解決専門ビジネスメディア「SDGsジャーナル」を運営。社会課題解決型のスタートアップ専門ビジネスメディア「Startup-Japan」代表。SDGsを専門知識ゼロでもわかるやさしい言葉で伝え続け、わかりやすいだけでなく行動を喚起する解説者として注目を集めている。経済産業省関東経済産業局のベンチャー支援事業のサポーターや、各種メディア、企業でのSDGs/サステナブル企画の企画・監修のほか、講演、執筆など多岐にわたって活動。著書に『小学生からのSDGs』(KADOKAWA)がある。
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