米中対立は“必然”か…中国が“100年以上”抱える欧米列強への「強烈な恨み」【投資のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

昨年10月、中国共産党の党大会が開かれました。指導部は習近平政権の数々の"輝かしい功績”を発表しましたが、「日経新聞の切り抜き」を25年間継続し、会社四季報を100冊読破した複眼経済塾の渡部清二代表は、複数の切り抜きから「習近平体制崩壊の“予兆”がみられる」といいます。いったいどういうことか、習近平体制の危うさと、19世紀以降、中国が抱えている欧米列強への「恨み」について、みていきましょう。

党大会で発表された習近平の“功績”

5年に1度開かれる中国共産党の第20回党大会が2022年10月16日に開幕し、習近平(しゅうきんぺい)総書記(国家主席)が登場する姿を多くの人がテレビの報道で見たことだろう。にこやかに手を振りながら自席に着き、党の運営方針をまとめた中央委員会報告(活動報告)を発表する様子は、自信に満ちているようだった。

過去5年を振り返りながら報告された内容の要旨を箇条書きにすると、以下のようになる。

①小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的完成を推進した。

②中国共産党の創立100年と中華人民共和国の建国70年を盛大に祝い、第3の「歴史決議」を決定した。

③「ゼロコロナ」を堅持し、新型コロナウイルス感染症対策と経済・社会発展の両立で成果を収めた。

④台湾問題については武力の行使を放棄することなく、必要なあらゆる措置を取るという選択肢を保留する。

①では脱貧困などの成果を挙げ、「我々は団結して人民を率い、長きにわたって解決できなかった難題を解決した」と強調した。

②では、この第20回党大会に先立って12日に閉幕していた中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第7回全体会議(7中全会)において、毛沢東(もうたくとう)、鄧小平(とうしょうへい)の時代に続く第3の「歴史決議」が採択され、習近平が引き続き絶対的な地位に就くことが確認された。

④では平和統一に最大限努力するが、米国など台湾支持を表明している各国を念頭に、台湾統一の強い意思に変わりがないことを訴えた。

習氏の絶対的地位の確認は7中全会で判明していたことで、その際、建国の父・毛沢東が務めた最高位「党主席」の復活には触れなかったものの、中国共産党創立100年の式典(2021年7月1日)において、かつて毛沢東が着ていた人民服と同様の薄いグレーの人民服で会場に現れた姿は印象的だった。

記事の切り抜きが示す習近平政権の「危うさ」

習近平指導部は、この党大会を経て異例の3期目に入ったが、振り返ってみれば同指導部が誕生した2012年の中国の名目GDP(国内総生産)は米国の5割を上回った程度だった。同指導部は、この数値を米国の8割まで拡大することを目標にしてきたものの、現在は、目標値5.5%はおろか3%の達成も危ういとみられている。

したがって、中国経済の構造改革は待ったなしの状況と思えるし、人口減少と高齢化、不動産バブルの崩壊、国内の格差拡大、失業率の拡大、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の問題等々を考えると、中国が初めて新疆ウイグル自治区で原子力爆弾の実験に成功した記念日に第20回共産党大会が開幕されたことに、まず違和感を覚える

そしてそれと同時に、習近平氏への過度の権力集中、同指導部の政治姿勢と現実の乖離(かいり)に危うさを感じる。また、以下に挙げたこれまでの指標ノートのコメント、日経新聞の切り抜きからも同様の印象を受ける。

■「中国国勢調査人口14億1177万人」(指標ノート 2021年5月11日)

このコメントを書き写した日経新聞には「20年出生2割減」という見出しが続いていて、要は人口が減っているということだ。一人っ子政策を進めていた国が、一転して「人口×生産性=国力」という方針で、同月31日に「中国共産党第3子容認」と発表していることに、中国政府の少子高齢化問題への対応の遅さがうかがえる。

東京五輪が「米中対立」構造を鮮明にした

■「東京五輪開幕 中国共産党大会100周年」(指標ノート 2021年7月23日)

東京オリンピック・パラリンピックは当初、2020年に開催される予定だった。それが新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大するなか、2020年3月に1年程度の延期が決定し、結局、翌2021年夏に開催されることになった。しかし、コロナ禍の影響で2021年の開催も危ぶまれ、開催の延期や中止を主張する声もあった。

こうした状況下、私は開催1年前から東京オリンピック・パラリンピックは2021年7月23日に必ず開催されると信じて疑わなかった。

その根拠は「7月23日」という日付で、この日は中国共産党第一次全国代表大会が開催された1921年7月23日からぴったり100周年に当たる日だからであり、それに先立ち7月1日に「中国共産党大会100周年」の記念式典が開催された。

もしコロナ禍の影響で、同日開催の東京オリンピック・パラリンピックが中止になれば、コロナ禍に打ち勝った中国とコロナ禍に負けた欧米勢という構図が世界に見えてしまうからだ。東京オリンピック・パラリンピックは平和の祭典ではなく、米中対立の構造をさらに鮮明にしたと思っている。

「高所得国」と謳う陰で貧困にあえぐ国民

■「中国冬季スポーツ『3億人計画』」(日経新聞切り抜き 2022年2月17日)

北京冬季五輪(2022年2月4日〜2月20日)を契機に、中国政府が国内の冬季スポーツ人口を3億人にする計画を打ち出し、2025年までに観光を含め、1兆元(約18兆円)規模の市場に発展させる目標を掲げたというのが、この記事だ。

ただし、冬季スポーツの普及に躍起(やっき)になっているとはいえ、スキーやスノーボードなどの道具代が高いため、この計画の狙いにある五輪後に冬季スポーツのブームを作るということは遠のくとも報じていた。

一方で、3月1日の「中国『高所得国』入り目前」という記事を見てみると、中国の1人当たりのGNI(名目国民総所得)は1万2438ドル(約143万円)となっており、世界銀行が定めている高所得国の基準(1万2695ドル超)に迫っているという。

この2つの記事を併せて考えると、中国は全体でみれば高所得国になったとはいえ、まだ一般的には、冬季スポーツができるほど豊かになっていないということだ。

それを裏付けているのが4月1日の「中国離婚件数43%減」という見出しの記事である。離婚件数が大幅に減った主因は、衝動的な離婚をなくすために「冷静期間」を設け、2021年1月に施行した民法典に基づき、離婚手続きの申請後、30日以内は取り下げられるようにしたからだとしている。

だが記事の続きを読むと、「離婚後の暮らしや子どもの将来への不安が、離婚をためらう要因とみられる。都市部の新規雇用は今なお新型コロナの感染が広がる前の水準を下回る。生活コストが高騰し夫婦共働きが一般的ななか、離婚後も同じ生活水準を保つのが難しい人は少なくない」とも報じており、一般的に豊かさが実感できていないことを示している。

中国がもつ欧米列強への「積年の恨み」

次の記事を読むと、すでにニクソン訪中から50年が経過していることと、先頃(2022年10月16日)に開かれた中国共産党の第20回党大会で習近平が絶対的地位を確立したこと、ロシア・ウクライナ戦争が勃発(2022年2月25日)していることは、50年というサイクルに符合(ふごう)していて、不思議に思うと同時に歴史の重みを感じる。

「ニクソン訪中50年 米は自省」(日経新聞切り抜き 2022年2月18日)

これは、ニクソン大統領(当時)が中国を訪問してから21日でちょうど50年になるという記事である。「中国は米国が期待していた民主化を顧みず、巨大な経済力と軍事力を背景に発言力を高める『唯一の競争相手』になっており、ゆえに米国は自省している」と書かれている。

中国政府は、このニクソン訪中をお膳立てしたキッシンジャー氏を今なお、協調と共存のビジョンを持つ賢明な政治家と讃(たた)えているという。しかし、キッシンジャー氏は1971年に米中関係がいずれ悪化するとの見方を側近に示していたそうだ。

中国は2008年の世界金融危機で米国が力を落としたと判断し、2016年ごろから「100年に1度の大変革期」が訪れたと主張するようになった。それは、19世紀末、欧州列強に主権を明け渡すよう強いられた中国の指導者たちの「(世界は)3000年間、見られなかったほどの大変革期」にあるという嘆きが、主張の下敷きになっているという。

キッシンジャー氏は回顧録のなかで、長年米中対立の争点となってきた台湾問題は周恩来(しゅうおんらい)との会談の冒頭、少し話題になった程度だったと書いているそうだ。だが、機密解除となった記録によれば、周恩来は冒頭からキッシンジャー氏に対し、台湾への関与をやめるよう強く迫り、台湾問題がまとまらなければ、米国との関係正常化はできないとまで言い切ったという。

こうした記事を読むと、単純に米中のどちらが悪いということではなく、歴史を振り返れば、中国は19世紀から欧米列強の脅威(きょうい)に晒され、その恨みが沸々(ふつふつ)といまだに出てきているというのが実態ではないだろうか。

そして、2月13日の「米、37年ぶりフィジー訪問」という記事を見てみると、ブリンケン米国務長官が人口約90万人のフィジーに足を運んだ背景には、ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が急速に高まるなかで、南太平洋地域で台頭する中国への警戒感があるとしている。

この記事もまた、中国の台頭によって従来のアメリカ一強の枠組みが大きく変わることを示唆しているように感じた。

渡部 清二

複眼経済塾

代表取締役塾長

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?