DX人材の「社内育成」が上手くいかない2つの根本原因
2023年05月25日 18時00分THE GOLD ONLINE

デジタル化が進み、DXの需要はますます高まる一方で、DX人材の不足が深刻化しています。多くの企業がDX人材の確保に悩み、つい外部から調達したいとエージェント等を覗いてしまいがちですが、「焦ってDX人材を確保するのはキケン」だと、株式会社GeNEE代表取締役社長の日向野卓也氏はいいます。その根本的な原因と、DX人材を育成する際のポイントについてみていきましょう。
DX人材に求められる「5つ」のスキル
いま多くの企業で求められている「DX人材」とは、どのような人物のことを指すのでしょうか。
DXを進めるうえでは、それぞれの役割を持った人が相互作用することで高いパフォーマンスを発揮することができます。以下のように、「プロデューサー」「DXマネージャー」などのポジションによって、求められる役割も異なります。

DX人材を採用する際は、企業側がどのポジションに置きたいかを明確にしたうえで、これらの役割をしっかりと理解しておく必要があります。
また、DX人材に求められるスキルは大きく分けて5つあります。
1.マネジメントスキル
DXは1つの製品・サービスを導入して終わりではありません。そこから業務プロセスや会社の風土を「変革」していくことが求められます。したがって、他の部署を含めてマネジメントをしなければならないこともあるため、どのポジションでもマネジメントは必須スキルといえます。
2.新規事業の企画力・構築力
加えて、戦略に基づいた具体的な企画を立て、構築していくことも重要なことです。DXは新しい企画を繰り返し実行し、ビジネスプロセスを1つひとつ改善していくことですから、企画力・構築力も欠かせないスキルです。
3.データサイエンスの知識
DXを進めるにあたっては、データの取り扱い方法は必ず検討しなければならないテーマです。そのためには、データサイエンスの知識が必要になります。
4.AI、ブロックチェーンなど「最先進技術」の知識
DXではAIやブロックチェーンなどの最新技術の活用を検討されることもしばしばあります。そのため、これらの最新技術も把握しておく必要があります。
5.UI/UXの知識
UIとは「User Interface(ユーザーインターフェース)」の略で、システムを使うユーザーの目に触れるものすべてを指します。一方、UXは「User Experience(ユーザーエクスペリエンス)」の略で、ユーザーがそのシステムやサービスを利用することで得られる体験のことです。
DXでは、ビジネスプロセスを改善したあと最終的に業務ユーザーや一般ユーザーに価値を提供することがゴールですから、UI/UXの活用方法を抑えておくことが重要です。
ただし、これら以外にも自社のシステムやDXプロジェクト、企業戦略によって必要なスキルは変わってきます。
焦りは禁物…DX人材を「育成」すべき理由
企業がDX人材を育成すべき理由としては以下の3点が挙げられます。
1.そもそも市場全体でDX人材が不足している
近年DXが急速に広がりをみせたことにより、DX人材のニーズは急速に高まっている一方で、どこの会社でも不足しているのが現状です。こうしたなか、外部からDX人材を調達しようとしても、なかなか確保できませんし、確保できたとしてもその人物が先述したような十分なスキルを持っているとも限りません。
現状、すぐに確保できる保証がないのであればリスキリング※などを行い、自社で育成をした方が効率的です。
※ リスキリング……「新しい職業に就くために、あるいは、いまの職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」。(経済産業省「リスキリングとは―DX人材戦略と世界の潮流」より)
2.DX人材の確保にコストがかかる
DX人材が不足しているということは、人材を獲得するために多くのコストをかける必要があるということです。エージェントに募集をかけたとしても多くの手数料を支払わなければならなかったり、場合によっては自社の他の社員よりも給料を多く払わなければならないケースもあります。
その点、内部で育成をしたほうが、コストの観点からもメリットが大きいといえます。
3.自社の文化・風土に合わせた特化スキルを身に着けられる
DX人材といっても、先述のようにその役割やスキルはさまざまです。よって、焦って外部から獲得したDX人材が、必ずしも自社のニーズとマッチしているとは限りません。また、外部からの人材の場合、いくら面接を重ねてもその人物のスキルを正確に把握することは困難です。
一方、内部で育成すれば自社のニーズや文化をよく理解した、自社に対して専門性の高い人材を確保することができます。
DX人材育成に「失敗」してしまう原因
ここまで、DX人材を育成するメリットを述べてきました。しかし、育成に失敗してしまうケースも存在します。ここでは、失敗してしまうケースでありがちな2つの条件をみていきましょう。
1.企業が目指すDXビジョンが不明確
「DX人材を育成せよ」といわれても、ビジョンが不明確な状態ではどのような人材を確保すればいいのかわかりません。
このように、あいまいなまま人材確保・人材育成を進めてしまうと、教育体制の検討なども不十分で、失敗してしまう可能性が高まります。
2.人材投資が不十分
日本国内では、DXを進めている約半数の企業が人材不足に悩まされています。これだけ多くの企業が人材不足に悩まされている要因として考えられるのは、「人材投資が不十分であること」です。
令和3年版情報通信白書によると、「DX人材の不足に悩まされているものの、教育や人員の確保などについてはなにもしていない」と回答している企業も多く、人材投資の少なさを伺わせます。
そもそも人材投資が不十分であれば、専門的な能力をもった人材を確保することは難しくなるでしょう。
DX人材育成時の「3つ」のポイント
自社でDX人材を育成する際には、適宜コストをかけてサポートしていくことが大切です。ここでは、DX人材の育成ポイントを3つ紹介します。
1.OJT教育制度を充実させる
自社独自の文化や社風、業務をしっかりと理解してもらうためには、「OJT教育制度」の充実が欠かせません。「OJT」とは“On the Job Traning”の略称で、職場の上司や先輩社員が、実務を通じて指導することで、知識や業務ノウハウなどを伝授する方法です。
OJTはアメリカで生まれた教育制度ですが、国内でも大企業を中心によく取り入れられています。DX人材を育てる際にもこのOJTを繰り返し実践することで、徐々に実力が身に着き、会社の文化や風土の理解を踏まえて業務が遂行できるようになるでしょう。
2.学習支援
しかし、OJTだけで社員のスキルを底上げするのは難しいはずです。自社のシステムや業務のやり方がわかっても、DX人材として他部署を巻き込む存在になるためには、継続的な学習努力が欠かせません。
特に必要になってくるのはAIやブロックチェーン、クラウドサービス、ChatGPTといったテクノロジー、データサイエンスやマーケティング関連の知識やノウハウです。
企業(経営者)は、これらの学習を促進しサポートする必要があります。教材を提供したり、研修やセミナーといった学習機会を設定することで、効率的にDX人材を育成できるでしょう。
3.ITリテラシーの全社的底上げ
DX人材の育成と聞くと、「ある個人を育てる」と思いがちですが、実は全社的にITリテラシーを底上げする必要があります。
DXは全社をあげてビジネスを効率化していくためにさまざまな部署と協力し、一丸となってプロジェクトを推進することが肝要ですから、すべての従業員が均一的なITリテラシーを保持していない場合、プロジェクトを進める意味を理解してもらえず、進行が遅くなったり、場合によっては頓挫してしまう可能性もあります。
最低限、DXを進める意義や基本となる用語などをレクチャーしておくといいでしょう。
◆まとめ
今回は、自社でDX人材を育成するメリットやよくある失敗パターン、育成のポイントなどを解説しました。
DXは、会社をより効率的に成長させるために必要不可欠なテーマです。しかし、DX人材は市場全体で不足傾向にあり、外部から調達することは今後より一層難しくなることが予想されます。
自社でDX人材を育成する場合、OJTと学習機会を提供しつつ、社内メンバー全員のITリテラシーの底上げを目指すことが成功の近道です。
日向野 卓也
株式会社GeNEE
代表取締役社長
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