日本政府と陸軍の「悪ノリ」が招いた、第二次世界大戦の惨劇

(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシア・ウクライナ戦争に台湾有事と、世界で地政学リスクが高まるなか、日本でも防衛費の増額がはじまるなど「対岸の火事」では済まされない状況です。こうしたなか、東京大学名誉教授の矢作直樹氏と、世界の金融や国際協議の実務にかかわる宮澤信一氏は、近代の日本人が「ものを考えなくなった」と警告します。それはどういうことか、日露戦争や第二次世界大戦下にあった実例をとおしてみていきましょう。

ものを考えなくなった日本…陸軍の大失態

【矢作】霊性(多次元世界を司る摂理を直感で理解できる感性)というのも一般的にとても誤解の強い分野ですが、「オーバーシャドウ」という言葉がその分野にあります。

神憑り(かみがかり)と訳されることがあるのでそこでまた誤解が生まれたりするのですが、明治維新の時に活動した下級武士たちは、フリーメイソン(※)によって日本が開国させられた時、やはり良い影響を受けて、高次元の意識に持ち上げられていたんですね。

※フリーメイソン:16世紀後半から17世紀初頭に判然としない起源から起きた友愛結社。多様な形で全世界に存在し、会員数は600万人を超える(Wikipediaより)。

ところが、そのあとがもういけない。日露戦争前の1902年に八甲田山雪中行軍遭難事件が起こります。

八甲田山での雪中行軍訓練に参加した第八師団青森歩兵第五連隊210名中、病院死も含めて199名が死亡した事件です。あの時代のあの時点でもはや陸軍は、思考が硬直化しているように思います。もちろん、それ以外にも指揮系統の混乱などの要因はありましたが。

いくら日露戦争を控えているとはいっても、合理的に考えれば、用意周到に準備せず、人間の生理的限界を無視して闇雲に八甲田山には突っ込まないでしょう。

現に同時期に、弘前歩兵第三十一連隊は、3年にわたって準備し、実際に少数精鋭部隊で、案内人を雇い、夜は現地の民家に宿泊して、逆コースを踏破しています。

青森第五連隊は、雪山の夜を越すのに雪濠と呼ばれる窪みを掘って過ごすのですが、十分な窪みを掘る数のスコップを持たず、窪みの上をカバーする発想も持ち合わせていなかった。スコップで身の丈が収まる深さに掘り、上に布でも張れば保温できるわけなのですが、不思議なことに浅い雪濠だけ掘り、風も十分に防げず、外気温のままの状態で体温を奪われて遭難しました。

別に近代登山の知識がなくても、古来となりの秋田県や新潟県を中心に雪洞(かまくら)の文化はありました。大の大人が、そんな思考の柔軟性を欠き、精神論を振りかざして命懸けでやってしまったわけです。

おなじ「日本軍」だが…海軍と陸軍の“決定的な差”

【宮澤】その当時、日本はすでに列強国のひとつに数えられていました。しかし、ほとんどの近代国家の軍隊が近代戦の時代に入っていたにもかかわらず、日本の、特に陸軍は精神論を押し通した。少し過激な言い方かもしれませんが、強いて日露戦争はたまたま勝ったのです。

海軍にはセンスがありました。だから戦後、日本の軍隊が無条件降伏で武装解除されるなか、アメリカは、海軍については持っておけ、としました。駄目な陸軍は悪いけど解体するからな、と。

海軍については当時の海軍大将レベルの人たちと密約を結んで、解体命令はすぐに解除になるように運びました。そういうことがあったのです。

今の保守系の言論人のほとんどは、軍隊を一緒くたにし過ぎです。軍隊がどういう組織立てでどうやって機動するのか、その根本的なことがわかっておらずに、戦前の日本の軍隊を褒めそやします。

例えば、特攻隊です。特攻隊の方たちはすごいです。本当に日本を守っていただいたと感謝しております。ただし戦術としては、近代戦においては絶対に取り入れてはいけない発想です。

先ほどもお話のなかで出した単語で、「停戦終末点」といいますが、軍事における敗戦は、基本的に計算して出るものです。1942年6月のミッドウェー海戦敗北のあと、石油の備蓄量や兵員の規模などから計算して、指数として出てきていたはずです。にもかかわらず、陸軍が1945年までずるずると延ばしました。

山本五十六はじめ、海軍は基本的にはもうやめておいた方がいいと言っていました。政治と陸軍が悪乗りして徹底抗戦を主張した。精神論で押し切ってはいけない近代戦で精神論を言ったわけです。

戦前戦中を美化するのは危険です。常識的に考えることができなくなっている、つまり、どこかで思考がストップしている、ということです。

余談も余談ですが、大事なのは本音です。軍隊はそこそこ強かったし、初めの頃は頑張っていたけれども、上がとにかく馬鹿だった。兵の運用の仕方は間違っていたし、ジリ貧のところで負けを認めればそれでいいのに、そうしなかった。

戦争は喧嘩なのだから、負けたら許してくれるんです。それ以上は絶対にやらない。にもかかわらず、ずるずるやったから、最終兵器を落とされ、徹底的にやられたわけです。そういう本音から考え始めるべきではないですか。

矢作 直樹

東京大学名誉教授

宮澤 信一

国際実務家

※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

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