親・祖父母からの入学祝いやお小遣いが塵積もって「年間110万円超」に…「贈与税」は課税か、否か【税理士が解説】
2023年06月15日 05時30分THE GOLD ONLINE

贈与税は、1年間の贈与額が110万円未満の場合は非課税とされています。では、親や祖父母からの入学祝いやお小遣いなどの総額が年間110万円を超えた場合には、課税されるのでしょうか? 税理士法人レガシィ『「生前贈与」そのやり方では損をする 』(青春出版社)より、贈与税についてわかりやすく解説します。
期間が延長された「教育資金」「結婚・子育て資金」の贈与
暦年贈与の年間110万円までの基礎控除以外にも、特例として次のような目的の贈与については贈与税がかからないことになっています。暦年贈与と並んで、こうした非課税の特例も相続税対策としてよく活用されています[図表]。

扶養義務者間での生活費や冠婚葬祭での祝い金等には
制限なし(その都度、必要な金額を社会通念上妥当な範囲で)。
教育資金一括贈与(2026年3月末まで)
30歳未満の子が、親や祖父母、曾祖父母から教育資金を受けた場合、最大1500万円まで贈与税が非課税になるという特例です。医学部進学や海外留学となると、これくらいの金額はかかることでしょう。受けた側の子どもにとってもうれしいですし、贈与した側にとっても資産が減ることで相続税が減るという効果があります。
ただし、金融機関に専用の口座をつくり、そこに一括して入金するという条件があります。そして、その金融機関を通して税務署に申告書を提出して、はじめて非課税が認められます。
この「一括して銀行口座に入金」というのが曲者で、贈与する側は1回きりの行為となり、贈与を受けた側はちょくちょく引き出すことができるという仕組みです。
「子どもや孫が喜ぶ顔が見たくて教育資金を贈与したけれど、何か味気ない。最初は喜んでくれたけれど……。やはり、こまめに渡して何度も喜ぶ顔を見たい」
こう考える人が多かったのか、結局、暦年贈与で教育資金を支援することにした人も多いようです。暦年贈与ならば、毎年子どもや孫の喜ぶ顔が見られます。そのためか、使いにくさもあわせて、この教育資金一括贈与を活用する人は、徐々に減ってきました。この非課税制度は2026年3月末までの期限付きで継続されましたが、その後は再延長されない可能性は大です。
では、教育資金の非課税制度がなくなったら、子どもや孫への教育費はすべて贈与税がかかってしまうのでしょうか。いや、ご心配なく。もともと教育費については、社会的通念の範囲内ならば、課税されないことになっています。詳しいことはのちほど説明しますが、常識的な範囲ならば贈与税を心配することはありません。
結婚・子育て資金一括贈与(2025年3月末まで)
18歳以上50歳未満の人が、親や祖父母、曾祖父母からウェディング費用、妊娠・出産費用、保育園入園料などの資金の贈与を受けた場合、最大1000万円まで贈与税が非課税になるという特例です。
妊娠から子育てにかかわるさまざまな費用が含まれ、不妊治療や分娩費、入院費から保育園の費用まで幅広く認められています。この非課税制度も、教育資金と同じく期限付きで延長され、2025年3月末までとされています。もし、延長されなかったとしても、こうした出費はあとで述べる生活費の援助に含まれますので、特に多額でなければ贈与税を心配する必要は少ないと思います。
住宅取得等資金贈与(2023年12月末まで)
18歳以上の子が、親や祖父母からマイホームの購入やリフォームのための資金を贈与された場合、最大1000万円まで贈与税が非課税になるという特例です。非課税の限度額は、住宅の品質やリフォームの内容によって変わります。
ただし、贈与を受ける人の所得が2000万円以下という条件があります。あくまでも住宅資金の援助という前提なので、子どもに資金力がある場合には適用されないのです。2021年の年末までという期限が設定されていましたが、この制度は人気があるので、2023年12月まで延長されています。
個人的な意見ですが、延長の背景には景気を浮揚させたいという判断もあるのかもしれません。住宅を建てたりリフォームをしたりすると、それをきっかけに電化製品、家具、室内用品なども新しく購入することが多いので、住宅業界にとどまらず、幅広い業界に経済効果をもたらすことにつながります。単に制度自体に人気があるだけでなく、そんなことが背景にあるのではないでしょうか。
夫婦間での居住用不動産の贈与
結婚して20年以上の夫婦の間で、居住用の不動産を贈与する場合、2000万円まで贈与税が非課税になるという特例です。「おしどり贈与」とも呼ばれています。
もっとも、配偶者に先立たれた場合は、相続財産の法定相続分もしくは1億6000万円のうち多いほうの金額までは課税されないという配偶者の税額軽減の制度があります。また、亡くなった方の自宅の土地については「小規模宅地の評価減」という制度もあります。通常はそうした制度で十分なのであまり活用されていません。
「どうしても生きているうちに贈与してほしい!」と配偶者に迫られたときに活用する制度といえるでしょう。
使用貸借──親の土地に子どもがタダで住んでいる場合
親の土地に子どもが家を建てるという話はよくあります。その場合、地代も権利金も払わないでいる状態を使用貸借といいます。この場合は贈与にならず、贈与税はかかりません。
相手が他人の場合はタダで貸すことはないので、国税庁はちょっと甘いのではないかという意見もあります。しかし、使用貸借の場合、親が亡くなって相続財産を計算する際に、土地評価額が100%計上されるというデメリットがあります。もし、子どもが地代や権利金を払って借りていれば、借地権価格が控除されて評価額が安くなるのですが、使用貸借では全額が算入されてしまうのです。
つまり、贈与税はかからないけれども、その分は相続税で埋め合わせするという発想です。いわば、贈与税と相続税が一体化されているわけであり、将来の税制改正の先取りといえるかもしれません。
子や孫への「プチ贈与」…税金はかかるのか?
ここまでは、相続税対策にもなる非課税制度について紹介しました。こうした多額の贈与以外にも、子どもや孫を援助する気持ちで、生活費やお小遣いなどのお金を渡していることもあるでしょう。
いやむしろ、世の中ではそうした「プチ贈与」のほうが一般的だと思います。もちろん、年間110万円の基礎控除は今回の改正でも存続しましたので、その範囲内ならば贈与税を払う必要はありません。しかし、入学祝いや家賃の援助、お小遣いなど、あちこちからもらったプチ贈与の総額が年間110万円を超えてしまったらどうなるでしょうか。
そこで、国税庁の見解をもとにして、プチ贈与と贈与税の関係について確認していきましょう。
まず大前提として、生活費や教育費といったお金は贈与になりません。非課税です。生活費というのは、その人にとって「通常の日常生活に必要な費用」をいい、食費や身のまわりで必要なものを買うときの費用はもちろん、医者にかかったときの治療費、養育費などの子育てに関する費用などを含みます。教育費とは、学費、教材費、文具費などをいいます。こうしたお金を、必要なときにその都度出すのは非課税とされています。
もっとも、「通常の日常生活に必要な費用」というのが、どういう生活レベルを想定しているのかは示されていません。お金持ちにとっての「通常」なのか、生活に追われている人の「通常」なのか、それとも税務当局の調査官にとっての「通常」なのか、はっきりしていません。
実は、私たち税理士が贈与税を学ぶときには、グレーゾーンのものには贈与税がかかると覚えます。ところが、実際に税理士の仕事を始めてみると、よほどめちゃくちゃでなければ問題ないというのが一般的な認識です。
たとえば、子どもや孫の生活のためにかなりのお金を出しても、生活費と教育費ならばセーフというのが原則です。スイスの学校に留学する費用を出してもセーフ。家賃が払えないから、家賃を払ってあげるのも問題ありませんし、自分の家にタダで住ませるのももちろんセーフです。
けれども、マンションの購入に親がお金を出し、それをもとに取得し、名義を子のものにしたとなると、相続税対策と見られてアウトになる可能性があります。先ほど紹介した非課税措置を利用するなら別ですが、そうでなければ贈与税がかかります。
「お年玉」、「入学金」などのお祝い金も贈与なのか?
生活費や教育費以外はどうでしょうか。
「孫の入学祝いを奮発したけれど、贈与として申告しなくちゃいけないの?」
「子どもたちにあげたお年玉は贈与になるの?」
そうした疑問が湧いてくるでしょう。お小遣いは生活費の一部と考えられるので贈与にはなりません。入学祝いも贈与にはなりません。ですから、原則として申告する必要はありません。
孫が私立に入るので、祖父母が入学祝いに20万円、30万円をあげたという話もあります。それくらいのレベルならば、孫に向けた教育費として考えることができるのでセーフです。
ただし、ものには限度があって、入学祝いが100万円となってくるとグレーゾーンです。入学祝いに名を借りた資産の移動ではないかと、税務署に目をつけられる恐れがあります。
再び国税庁の見解をチェックしてみると、「個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの」は非課税とあります。「社会通念上」という条件がついていますが、冠婚葬祭に伴う出費は非課税と考えてよいでしょう。年末年始の贈答ともあるので、お歳暮、お中元、お年玉、入学祝い、卒業祝い、お見舞いなどはここに含まれます。
もっとも、何が社会通念なのかは人によって解釈が違ってきます。80歳の親が50歳の子どもに対して、多額のお年玉をあげるとどうなるのか? なかなか難しい問題です。これは半分冗談ですが、いっそのこと、「お年玉は1人いくらまで非課税。40歳以上になったらお年玉は禁止」という法律ができればわかりやすいのですが、さすがにそうはならないでしょう。
車の購入費、免許取得費用も贈与になる?
子どもや孫に車を買ってあげたり、車の免許を取る費用を負担したりというのは、おそらく贈与になると思います。ただ、地方では車が生活に欠かせないという事情もあるので、場合によっては贈与税がかからないかもしれません。
おじいちゃんが病院通いをする送迎のために、孫に車を買ってあげたり、免許取得の費用を負担するのは認められる可能性があります。その場合、使用割合も関係すると思います。たとえば、祖父の送迎に使用するのが、全体の半分ほどになるならばセーフかもしれませんが、送迎が1割で遊びに行くのが9割では認められないでしょう。それならタクシーを使ってください、といわれるかもしれません。購入が認められるにしても、高価な車ではなく実用の範囲内でなくてはなりません。
先ほどの教育費にしてもいえることですが、「通常の日常生活に必要な費用」という国税庁の見解については、その贈与を実行できる人が国民の半分くらいいればオーケーだと私たちは思っています。それを贈与できる資力を持つ人が国民の1割ほどのケースでは、贈与税がかかりやすいと見たほうがいいと思います。
明らかに課税対象になる3つのケース
明らかに課税対象になるケースも押さえておきましょう。
①借金の肩代わり
子どもの借金の肩代わりは課税対象になります。子どもがギャンブルで借金をつくったり、会社のお金を使い込んだりして、見かねた親が代わりに払ってあげるというのはよく耳にします。
これらは生活費でもありませんし、教育資金でもありませんから、贈与と見なされます。同情の余地はありますが、親がお金をあげて、子どもがそのお金で返したというだけの話だからです。その場合、厳密にいえば子どもが贈与税を納めなくてはいけません。
同じように、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、実際には借金の返済や遊興費に使ってしまったら贈与になります。ただし、子どもが借金で自己破産寸前まで追い込まれてしまった場合など資力喪失状態で、親がしたその借金の肩代わりは、非課税となります。
②もらったお金を貯め込む
意外に知られていないのが、住宅のために援助してもらったお金を預金したり、株式や不動産などの買い入れ資金にあてたりしている場合にも贈与となります。使うべきお金をきちんと使わないといけないという話です。もらったお金を貯め込んだり、運用に使ったりすると贈与税の課税対象となるのです。
③保険料を負担していない保険の生命保険金
保険については、国税庁のホームページに規定が示されています。保険料を負担していない人が、満期や解約によって生命保険金を受け取った場合には、保険料を負担した人から生命保険金の贈与があったものと扱われます。ただし、けがや病気などによるものは除かれます。
また、被保険者の死亡によって受け取った生命保険金のうち、被保険者が保険料の負担者となっていたものについては、贈与税ではなく相続税の対象となります。
天野隆
税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士、宅地建物取引士、CFP
天野大輔
税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士
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