2020年秋から続く、世界的な「半導体不足」が起きた「3つの理由」
2023年06月23日 05時30分THE GOLD ONLINE

2020年秋以降、半導体不足は世界的な課題として顕在化し、その影響は日本国内へも波及、特に自動車業界は大きな打撃を受けました。半導体不足は一体なぜ起きたのでしょうか? わかりやすく解説します。
半導体とは?

経営者「そもそも半導体ってなに? 簡単に教えて」
半導体は、簡単にいえば電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を帯びる、シリコンなどの物質や材料のことです。
専門家「簡単にいえば『半分』導体で『半分』絶縁体の性質を持っている。だから「半導体」と呼ばれるわけですね」
半導体は、マイクロチップとも呼ばれ、電子機器の頭脳として機能しています。スマートフォン、デジタルカメラ、オーディオ、車……。電源、電池によって動くものにはすべて半導体が使われています※。
チップの大きさはさまざまですが、そのなかには何十億ものトランジスタが内蔵されています。トランジスタは小さなゲートのようなもので、電子がそこを通過するかしないかを決定します。半導体の構築には、複数のステップと日数、そして専門家が必要です。 たとえば、IBMの最新チップは2ナノメートルという半導体技術により,指の爪ほどの大きさのなかに500億個のトランジスタを詰め込んでいます。
※正確にはLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路)が使われていますが、LSIには必ずシリコンなどの半導体が使用されています。
半導体の種類

経営者「半導体にはどんな種類があるのかな?」
半導体には以下のような分類方法があります。
・不純物からみた分類方法
それぞれの分類方法により、半導体の種類はさらに細かくわけられます。
構成元素からみた種類
半導体には、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの1つの元素で作られる「単元素半導体」と、アルミニウムガリウムヒ素 (AlGaAs)などの化合物で構成される「化合物半導体」があります。多くの半導体は単元素半導体ではなく、化合物半導体が用いられています。
不純物からみた種類
半導体は構成元素から分類するほか、真性半導体と不純物半導体とに分類する方法があります。真性半導体は、原子の最外殻電子が共有結合をしているのに対し、不純物半導体はp型半導体、n型半導体の2つにさらに分類されます。
専門家「少し難しいと思いますが、まずは大きくわけて2つのわけ方があり、そこからさらに細かく分類されると覚えておくとよいでしょう」
半導体はなにに使われている?

半導体は、現代のほとんどの電子機器に搭載されています。実際、あなたがこの記事を携帯電話やパソコンで読んでいるいま、あなたの携帯電話やパソコンにも半導体は含まれています。
スマートフォン、コンピュータ、インターネット、テレビのない生活を想像できますか? ほとんどの人が「No」と答えるのではないでしょうか。半導体がなければ、私たちの生活は大きく変わっていたでしょう。すべての電子機器は、いくつかの半導体デバイスを使用して作られています。
家庭のなかの半導体
日常生活における半導体の用途は非常に多く、説明しきれないほどですが、代表的なものをまとめてご紹介します。
・3Dプリンター
・エアコンの温度センサー
・炊飯器での温度の制御
・自動運転
ほかにも、銀行のATM、鉄道、インターネット、通信などのほか、高齢者介護のための医療ネットワークなど、社会インフラの運営に中心的な役割を果たしています。
社会のなかの半導体
技術の進歩に伴い、半導体の必要性も日々高まっています。産業界の要求に応じて、半導体材料を使った新しいデバイスが次々と開発されています。トランジスタや集積回路がなければ、私たちの現代生活は非常に困難なものになってしまうでしょう。半導体は現代の電子機器の頭脳であり、経済成長、国家安全保障、国際競争力に不可欠な技術なのです。
半導体は、通信、コンピュータ、ヘルスケア、軍事システム、輸送、クリーンエネルギーなど、数え切れないほどのアプリケーションの進歩をこれまでも牽引してきました。また、バーチャルリアリティ、モノのインターネット、自動化されたデバイス、ロボット、人工知能など、社会をよりよい方向に変化させることが期待される新しい技術を生み出しています。
専門家「このため、半導体がなくなると、あらゆる製品の生産速度が激減してしまいます」
半導体の需要が増している背景

デジタルの世界では、半導体チップは生産の生命線であり、世界的な品不足になると、広範囲に影響をおよぼすのは当然のことです。しかし、一時的な経済的障害は、経済への恒久的な脅威と誤解されるべきではなく、長期的な視点で見れば、むしろ成長のシグナルでもあります。
パンデミックが始まったころ、世界的にリモートライフへの移行が進み、チップの需要が急増しました。このような需要の変化は家電業界から始まりました。家庭では、遠隔地で学習したり、仕事をしたり、交流したりするのに十分な機器が用意されました。
その後、予想を上回る景気の回復に伴い、自動車や家電製品などの耐久消費財の需要が増加しました。消費者の需要が急増する一方で、生産の継続に不可欠な半導体の需要も異常に増加しました。
しかし、半導体の需要が増えるにつれ、供給側の体制が整わないことが明らかになってきました。パンデミックが発生する前、ファブと呼ばれる半導体製造施設、装置はすでにほぼフル稼働状態で、生産を拡大・強化する能力がありませんでした。多くのファブでは、最先端のチップを生産するために生産ラインをシフトしていたため、自動車や家電製品に使われるシンプルでコモディティなチップの需要に対応できていなかったのです。
企業にとっては、この不足がサプライチェーンのボトルネックとなり、多くの企業が生産の減速や停止を余儀なくされています。そのなかでも、半導体への依存度が高まっている自動車業界が最も大きな影響を受けています。ほとんどの半導体メーカーが民生用電子機器に注力していたため、自動車メーカーは新しいチップを手に入れるための列の最後尾にいました。
フォード・モーターやゼネラル・モーターズをはじめとする多くの自動車メーカーは、一時的に工場の閉鎖を余儀なくされ、フォード社とGM社はそれぞれ20億ドル以上の収益削減を見込んでいます(2023年4月時点)。
国内外における半導体シェア
さらに、半導体工場が地理的に分散していないことも、製造上の問題を大きくしました。
半導体チップや半導体チップを使った製品が世界的に求められているにもかかわらず、半導体の87%は台湾、韓国、中国で生産され、世界のチップの54%は台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)。 略して「TSMC社」で製造されています。
限られた半導体チップの供給と偏った市場シェアのため、サプライチェーンの混乱を避けることはできませんでした。
半導体不足が起きた「3つの理由」

半導体チップは現代社会の生命線ですが、そもそもパンデミックの前から需要が供給を上回っていました。半導体チップはアメリカで発明されたものですが、現在、チップを作っているアメリカのメーカーの数は著しく減少しています。
そして、長年にわたって一貫して拡大し続けてきた需要に対して、半導体チップを製造できる工場を建設するには、100億ドルもの費用がかかり、ほとんどの企業にとっては法外な価格となっているのです。
2.対中制裁
3.増産投資の不足
上記3つの理由について詳しく解説しましょう。
1.新たな半導体需要の発生
COVID-19パンデミックの影響で世界が閉鎖され、多くの工場も閉鎖されたため、チップ製造に必要な物資が数ヵ月間入手できませんでした。また、家電製品の需要が増えたことで、サプライチェーンにも変化が起こりました。新たな需要に対応するために十分な量のチップを作るのに苦労し、注文が山積みになっていき、受注残はどんどん増えています。
また、フォードのような自動車メーカーは、自動車を生産するために必要なチップの量を予測し、チップメーカーのいずれかに事前に発注しなければなりませんが、現在は民生用半導体チップの製造がメインとなっているなか、手に入れるには時間を要します。
一般家庭も大きく暮らしが変わり、学校ではノートパソコンやタブレットを使ったバーチャル学習が導入され、家にいる時間が増えたことでテレビやゲーム機などのホームエンターテインメントへの支出も増えました。これらに加えて、5Gの普及やクラウドコンピューティングの継続的な成長により、自動車メーカーが手放した分の生産枠はあっという間に消費されていきました。
現在、半導体チップに対する需要は非常に大きく、半導体のメーカーは現時点では需要を満たすだけのチップを作ることができないため、消費者は近いうちに少なくない半導体チップを使った商品が高い価格で供給されていることを目にすることになるでしょう。
2.対中制裁
問題は半導体チップの製造現場だけではありません。COVID-19がアジアを通過する際には、港が閉鎖され、時には数ヵ月におよぶこともありました。世界の電子機器の約90%が中国の塩田港を経由していますが、塩田港が閉鎖され、数百隻のコンテナ船が停泊していました。
港が再開されると、出荷を待つ商品が積み重なり、やはりスムーズな供給とはなりませんでした。輸送のサプライチェーンの多くの部分では、この蓄積された情報や、発生している労働力の不足を処理する能力がなく、サプライチェーンはさらなる危機に陥っています。
3.増産投資の不足
パンデミックの影響で、デバイスの需要が爆発的に増加し、メーカーが提供できる範囲を超えて半導体の需要も急増しました。また、自動車業界の誤った判断も不足に拍車をかけました。
COVIDがスタートした当時、多くの企業が経済の長期的な打撃を想定して半導体チップの発注をキャンセルしました。特に自動車メーカーが注文をキャンセルしたため、半導体チップメーカーはパンデミックによる爆発的な需要に対応するため、自動車用ではなく民生用の半導体チップを作るように工場を変更しました。そのため、今度は自動車用の半導体チップが不足してしまったのです。
今回のパンデミックでは、いくつかのチップ製造工場が稼働していましたが、不運な天候に見舞われ、製造工程がさらに遅れてしまいました。
世界中の自動車に搭載されているチップの約3分の1を生産している日本のルネサス社の工場は火災で大きな被害を受け、アメリカのテキサス州では冬の嵐の影響で、唯一のチップ工場が生産停止に追い込まれました。また、チップの生産には大量の水が必要ですが、台湾の深刻な干ばつも生産に影響を与えています。
地政学的な問題は、今回の半導体チップ不足の主な原因ではありませんが、台湾と中国の緊張した関係が懸念されています。台湾は世界有数のチップ生産国であり、中国と台湾の間で戦争が起こる可能性があると、アメリカの半導体チップ産業へのアクセスが潜在的に危うくなり、多くの産業に壊滅的な影響を与える可能性があります。
アメリカのチップメーカーであるインテルは、現在、半導体チップの生産規模を拡大する計画を発表しており、台湾のセミコンダクター・マニュファクチャリング社やサムスンは、建設を予定しているアメリカの工場の立地を検討しています。これらの計画は有望ですが、工場が生産レベルを向上させるまでには何年もかかることが予想されます。
まとめ
2021年の第1四半期から始まった世界的な半導体不足により、世界中の組み立てラインが停止するなどの影響が出ました。半導体チップのリードタイムが長いため、スマートフォンや家電製品から運転支援システムに至るまで、あらゆる製品の生産が滞ってしまったのです。
現在の半導体チップ不足は経済的な混乱を引き起こしていますが、忘れてはならないのは、高い需要は有望で、低い生産能力は一時的なものだということです。半導体企業は拡大を続けており、政府も世界で最も急速に成長している産業の1つに投資する機会を捉えています。
メタバースやNFTなどWEB3.0時代とも関わりのある「半導体」には、今後も注目が集まることでしょう。 恐怖を煽るような報道や短期的な生産量の小ささなどの裏には、長期的な経済の拡大の可能性が示されていることがわかるようになるはずです。
株式会社識学
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