有料老人ホームの「入居一時金」…入居検討者に「納得がいく説明があるまで、決して契約はしないように」と弁護士が助言したワケ
2023年07月17日 17時15分THE GOLD ONLINE

親の介護が始まった。突然のことなのでどこへ行けばいいのか分からない…。介護保険の手続きは? 親が施設への入居を拒んだら? 親が施設で虐待を受けてしまったら…。など、介護を受けている本人とその介護をする家族のための「介護で困ったときの解決法」を、弁護士で介護ヘルパーの資格を持つ、外岡潤氏の著書『弁護士 外岡潤が教える親の介護で困った時の介護トラブル解決法』(本の泉社)から一部抜粋転載して紹介します。
「民間運営だから高いサービスを受けられる」という保証はない
特別養護老人ホーム(特養)は、国などの公的機関が運営する施設なので、予算という面では優位性があります。特養のような安い施設へ入れるのは、親に申し訳ないと思うことはまったくありません。
「サービスの質はスタッフの質」という意味では、社会福祉法人で働く人たちは準公務員なので安定しているし、教育も一定しています。ただし、その安定が「毎年同じことを繰り返すマンネリ化」を生んでいる面は否めないでしょう。それがスタッフのやる気を下げているかどうかはケースバイケースです。
本書の第1章「かしこい地域包括センターの利用法」の項目でも書きましたが、誰がどのようにやってもそれが給与に反映されないシステムが未だに主流なので、やる気度の高い低いはその人次第ということになります。
介護職のキャリアアップ支援と給与改善策
厚生労働省は、2017年10月に「介護人材に求められる機能の明確化とキャリアパスの実現に向けて」というガイドラインを発表しました。
これにより、介護職の処遇改善のため、また利用者の多様なニーズに対応できるように、現場でのリーダー職を養成するなど、介護職の人たちがその意欲・能力に応じてキャリアアップを図ることを目指しています。
介護職員のキャリアパスとして一般的な例を紹介しますと、まず「初任者研修※」を一定期間受け、介護施設で働く資格を得ます。
次に「介護福祉士実務研修」を受け、「介護福祉士」の受験資格を取得します。国家資格である介護福祉士になるには、定められた学びや経験を習得し、さらに試験に合格しなければなりません。
このコースでキャリアアップすれば、それによって資格手当てがつき、給料もアップするということです。
さらに2019年10月には、「介護職員特定処遇改善加算」の取り組みが始まり、介護職員の賃金を、全産業の平均年収440万円に引き上げることを目指しています。
以上のようなことから、介護施設に関してだから「安かろう、悪かろう」ということは決してありませんし、逆に「民間だから高いサービスを受けられるだろう」という保証もないのです。
<注釈>
※「初任者研修」とは……在宅や施設を問わず介護職として働く上で、基本となる知識と技術を習得する研修。
グレーなシステム…?老人施設の「入居一時金」
ここで、有料老人ホームへの入居を検討しているKさんの事例を紹介します。
Kさんは15歳で経営していた会社を甥に継がせてリタイアしました。独身だったこともあり、それを機に民間の有料老人ホームへの入居を検討することにしました。どうしても気になるのは「入居一時金」のことだと言います。
「施設を何ヵ所か見学に行ったところ、いくつか候補が上がりました。しかし、入居一時金というのが、あるところでは200万円が必要と言われ、別のところでは1,500万円、調べてみればその一方で0円というところもあるのです。このシステムはどういう性質のものなんでしょうか?」という質問を受けました。
有料老人ホームには、入居一時金という特有の制度があります。
これについては、老人ホームに入ることを、不動産契約に置き換えるとわかりやすいかと思います。
たとえば、賃貸物件に入居するときは部屋を汚したり傷つけたりしたときや、家賃の支払いが滞ったときに備えて、あらかじめ「家賃1~2ヵ月相当額の前払い金」を敷金として支払う通例があります。敷金は払うべき経費が発生しない限り退去時に全額が戻ってきます。
有料老人ホームの場合、月額の利用料や共益費などをもとに算出した入居一時金をとる施設がありますが、理由なく償却(天引き)されるという特徴があります。
入居一時金については、一定の期間は設けられていますが、何らかの理由で途中で退去することになった場合は基本的に償却されていない分の金額のみ返却される仕組みとなっています。
もうひとつ、不動産の取得契約でローンを組むときの「頭金」という性質もあります。一時金が高ければ、毎月の利用料の支払いは少なくて済み、逆に一時金が0円の場合にはその分毎月の支払いが高くなります。
いずれにせよ、賃貸不動産の「敷金」にまつわるトラブルが絶えないのと同様に、老人施設での「入居一時金」に関してもグレーな部分が多いことは否めません。
こうした前払金の算定根拠の明示は、老人福祉法※上では定められていますが、たとえば初期償却の数値についての具体的な基準までは存在しないのです。
私はKさんに「納得がいく説明があるまで、決して契約はしないように」とアドバイスしました。さらに、「入居した後も、3ヵ月をエックスデーと見なし、そのときまでに永続的に入居するかを判断してください」とも言いました。
これは2012年から導入されたクーリングオフ制度で、通称「90日ルール」と呼ばれます。入居後3ヵ月以内であれば利用者側から解約し退去した場合、施設は前払い金から家賃など入居中の実費を差し引き、残りが無条件で全額返還されます。
これにより、理不尽な「初期償却」をされずに済むのです。
具体的に何月何日が期限日(エックスデー)となるかは間違いがあってはならないので、契約時に施設側に確認し認識を共有しておくと安心です。
<注釈>
※「老人福祉法」とは……高齢者福祉を管轄する施設機関や事業について定められた法律。都道府県や市区町村において、老人居宅生活支援事業、老人福祉施設に関して規定している。
外岡 潤
「弁護士法人おかげさま」代表
弁護士
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