年収760万円の50歳・会社員、わが子の教育費で「老後の蓄えは雀の涙」だが…年金受給までの15年で貯められる“驚きの貯蓄額”【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

年収760万円の会社員のKさん(50歳)は、一人息子への教育費や仕送りで出費がかさみ、老後の蓄えをほとんど準備できていませんでした。そこで夫婦で自作の試算表を作ったところ、「老後破綻しかねない」と気づき焦っています。牧野FP事務所の牧野CFPは、2人にどのような助言をしたのでしょうか。みていきましょう。

わが子の大学費用で「老後の蓄えゼロ」の夫婦

年収760万円の会社員のKさん(50歳)は、年収約100万円でパート勤めの妻(48歳)と社会人の1人息子の3人家族です。

息子はこの春まで都内に一人暮らしをしながら私立大学に通っていましたが、晴れて就職が決まり、会社の社員寮で暮らしはじめました。

K夫妻は子育てが終わったことで精神的にもほっと一安心。また、負担の大きい学費や仕送りの支払いが終わったことも、大きな安心材料です。

これまで特段贅沢な生活をすることもなく、住宅ローン以外に借入金はありません。貯蓄や退職金で、老後の生活も大丈夫だろうと思っていました。

しかし、念のため今後の家計収支を試算してみたところ、年金生活に入ったあと70代後半に貯蓄が枯渇し、「老後破綻」しかねないことがわかりました。心配になった夫婦は、自作の「試算表」を持って筆者のFP事務所を訪れました。

K夫妻の「試算表」では80歳で赤字だが…

筆者は早速、K夫妻が作成した試算表を拝見。Kさんが80歳のとき、「貯蓄額」が404万円赤字になっていることを確認しました。そして、2人が不安に思っている老後破綻危機のポイントはこの「貯蓄額」にあると考えました。

なお、K家の住宅ローン返済額は、1ヵ月あたり10万5,000円。Kさんが65歳のときに支給される退職金は1,500万円の予定です。

出所:K夫妻の話をもとに筆者編集
[図表1]K夫妻が作成した「試算表」 出所:K夫妻の話をもとに筆者編集

※1 家計収入……給与や退職金、年金収入のこと。

※2 家計支出……「消費支出(食料費、住居費、光熱費、被服費、教育費、教養娯楽費、交通通信費、保健医療費などといった、いわゆる生活費)と「非消費支出(税金、社会保険料など)」の合計。

※3 1,780万円=Kさんの年金280万円(加給年金込み)+退職金1,500万円
※4 321万円=Kさんの年金240万円+妻の年金81万円(なお、年金受給額は年度ごとに決定される)。

K夫妻から話を聞いたところ、図中の「貯蓄額」とは、収入から支出を差し引いた「銀行口座の預金残高」を指していることがわかりました。そして、筆者は2つの助言を思いついたのです。

FPがK夫妻に行った「2つの助言」

筆者がK夫妻に行った提案は、「保険の見直し」と「金融商品への積み立て」の2つです。

1.保険の見直し

K夫妻が加入している保険のうち一番見直したいのは、Kさんが入っている「死亡保険」です。確認したところ、必要以上の保障に保険料を支払っていることがわかりました。

息子が大学を卒業したいま、死亡保険に加入する目的は、「万が一Kさんが先に亡くなり、妻が1人残されたとき」のための生活保障です。

もしKさんが平均余命どおり82歳で亡くなり、妻が88歳まで生きるとすると、妻はKさんが亡くなったあと、8年間単身で生活する可能性があります。

※ 厚生労働省「令和3年簡易生命表」によると、50歳男性の平均余命は約32年、48歳女性は約40年

ただし、Kさんが亡くなったら、妻は遺族厚生年金などを受給することができます。したがって、この受給額を補える分だけ保障してくれるような、終身保障の生命保険に加入しておけばいいのです。

出所:筆者が作成。なお、遺族厚生年金や中高齢寡婦加算の詳細については日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」を参照のこと。
[図表2]Kさんが65歳まで働いた場合の、妻の遺族年金受給見込額 出所:筆者が作成。なお、遺族厚生年金や中高齢寡婦加算の詳細については日本年金機構HP「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」を参照のこと。

具体的には、現在Kさんが加入している生命保険を「払い済み終身生命保険」にすれば、年間約30万円の保険料の支払いはなくなり、死亡保険金約900万円が終身保障されます。

※払い済み終身生命保険:保険を解約せずに、以後の保険料の払い込みを中止する方法。保険金額は減額となるが、一生涯の保障を継続できる。

2.金融商品への積み立て

K夫妻はこれまで、計画的にお金を貯えてこなかったようです。そこで、家計支出を見直し、毎月定期的に金融商品に積み立てて、資産形成を行う提案をしました。

積み立てる期間は、Kさんの収入が安定している50歳から60歳までの10年間として、毎月一定額ずつ、[図表3]気に入ったプランに投資をします。こうすることで、給与が振り込まれる口座から直接金融商品に積立資金を振り替えるため、安易に引き出すことができなくなります。

この提案を受けて、K夫妻はどのプランを選ぶかはいったん保留として、積み立てる金額については息子へ仕送りをしていた金額や保険を見直した分などを鑑み、「毎月10万円」と決めました。

出所:筆者が作成
[図表3]毎月10万円ずつ積立てた場合の資産推移 出所:筆者が作成

※ 退職金1,500万円を含む

K夫婦の試算では、[前掲図表1]のように、収入から支出を引いた給与振込口座の残高を「貯蓄額」としているので、支出が収入より多い状態が続き、口座残高がゼロになれば家計は破産します。

しかし、[図表3]のように、「貯蓄額」とは別に金融商品で形成した資産を「金融資産残高」として確保すれば、図中のどのプランを選んだとしても安心です。「貯蓄額」がゼロになっても、老後の生活で必要な資金は「金融資産残高」から取り崩せば、夫婦が100歳になるまで破産の心配はありません。

なお、株式や投資信託への投資については「怖い」という声も耳にします。

筆者は、これから金融商品で投資を始めるのであれば、2024年から新制度になり使い勝手がよくなる「NISA(少額投資非課税制度)」をまず利用して、投資の勉強をしながら金融資産を形成していくのもひとつの手だと考えます。

※ <参照>金融庁HP「新しいNISA」

K夫妻も、投資については漠然と怖いと思っていたようですが、計画的に自分たちに合った金融商品に投資すれば、柔軟に金融資産を形成できることが理解できたようです。

「若いときから始めていればもっとお金が貯まっていたかも」「家に帰ってもっと詳しく調べてみよう」2人はこれからの暮らしに前向きなようです。

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

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