新型コロナ5類移行後の消費者行動(1)買い物・食事編-シニアほど外食や飲み会、デパートでの買い物に再開の兆し

(写真はイメージです/PIXTA)

ここ数年猛威を振るっていた新型コロナウイルスの感染症法上での位置づけが、23年5月にインフルエンザなどと同じ第5類に移行されました。これを受けて、消費者たちの行動はどのように変化したのでしょうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が、新型コロナ5類移行後の食事や買い物に現れた変化を解説します。

1―はじめに~新型コロナ5類移行で消費マインドは上向き、行動変容の状況は?

今年5月8日以降、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが2類相当からインフルエンザと同じ5類へと引き下げられた。よって、これまでは陽性者や濃厚接触者は外出自粛要請が求められ、入院や治療は限られた医療機関でのみ行われていたが、外出自粛要請はなくなり、幅広い医療機関での対応が可能となった。

今年1月に政府が5類に見直すとの方針を決定してから消費者マインドは上向いている。内閣府「消費動向調査」によると、年明け以降、消費者態度指数(今後半年間の見通しをたずねたもの)は上昇傾向が続いている(図表1)。

また、消費者態度指数を構成する5つの指標を見ると、雇用環境や資産価値、収入の増え方が高水準で推移している。行動制限がなくなることで、旅行やレジャー、外食などの外出関連の消費行動を積極的に行えることや関連産業の雇用環境改善への期待感、また、この春の賃上げ機運の高まりなどを背景に消費者マインドは明るくなっているようだ。

年代別に消費者マインドを見ると、若いほど明るい傾向がある(図表2)。若い世代ほど将来の経済不安が強いと見られる中では意外なようだが、過去の統計を振り返っても、コロナ禍で初めて緊急事態宣言が発出された2020年4・5月を除けば、おおむねいつの時点でも若い消費者ほど目先の見通しは明るい傾向がある。

いつでも社会環境が改善されると動き出すのが早いのはフットワークの軽い若い消費者であり、消費の回復は若者からということなのかもしれない。

さて、コロナ禍で外出が自粛され、非接触志向が高まる中で、外出関連の消費行動が大幅に減る一方、ネットショッピングや動画配信サービスの視聴といった巣ごもり消費が活発化した。

当社ではこの3年余りの間、3ヵ月置きに「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を実施し、コロナ禍における行動変容の状況を報告してきた※1。当調査は5類移行に伴って終了したが、その後の消費者の状況について興味を持つ方も多いだろう。

よって、本稿では別の枠組みで追調査※2をした結果を報告する。なお、2020年6月の調査開始以降、各調査時点におけるコロナ禍前(2020年1月頃)と比べた行動の増減をたずねていた。しかし、コロナ禍が長引くとともに、コロナ禍前との比較が回答者にとって容易ではなくなってきたと考え、2022年6月調査から、行動の増減に加えて、行動の頻度もあわせてたずねるようにしている。

本稿では2022年6月以降の各種行動の頻度の変化について報告する。

※1:ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査(第1回~第12回)」調査結果概要など。

※2:ニッセイ基礎研究所「生活に関する調査」、調査時期は2023年6月12日~15日、調査対象は20~74歳、インターネット調査、有効回答数2,583、株式会社マクロミルのモニターを利用。

2―買い物手段の変化~シニアでデパートなど店舗もネット利用も増加、若者は買い物よりコト消費へ?

1|全体の状況~デパートなど店舗利用がやや増える一方、ネットショッピングの利用頻度はやや低下

まず、20~74歳全体の買い物手段の利用頻度の変化について見ると、「スーパー」については、利用頻度のボリュームゾーンである「週1~2回」はおおむね変わらないが、「週3~4回」以上の高頻度層がわずかに増えている(2022年6月32.6%→2023年6月は34.4%で+1.8%pt)(図表3)。つまり、生活必需品をより頻繁に購入するようになった消費者がわずかに増えているようだ。

また、「デパートやショッピングモール」については、利用頻度のボリュームゾーンである「2ヵ月に1回以下」はおおむね変わらないが、次いで多い「月1~3回」がやや増えることで(同17.5%→同20.1%で+2.6%pt)、利用者(全体から「利用していない」を差し引いた割合)もやや増えている(同83.1%→同85.8%で+2.7%pt)。

一方、コロナ禍で利用が伸びた「ネットショッピング」については、利用頻度のボリュームゾーンである「週1~2回」はおおむね変わらないが、同様に多い「月1~3回」がやや増えることで(同38.0%→同40.8%で+2.8%pt)、「週1~2回」以上の比較的利用頻度の高い層がやや減っている(同13.2%→同10.7%で▲2.5%pt)。ただし、利用者はわずかに増えている(同91.2%→同92.4%で+1.2%pt)。

また、「フリマアプリ」については、コロナ禍でネットショッピング手段の1つとして利用が堅調に伸びてきたが、足元でも引き続き伸長している(同38.8%→同46.2%で+7.4%pt)。ただし、ネットショッピングと同様、比較的利用頻度の高い層はやや減っている(「週1~2回」以上は同14.2%→同12.2%で▲2.0%pt)。

なお、「2ヵ月に1回以下」の低頻度層が大幅に増えているが(同24.6%→同34.0%で+9.4%pt)、「フリマアプリ」は普及途上段階にあるため、店舗の利用控えの反動というよりも、使い始めた利用者が増えている影響と見る方が妥当だろう。

以上より、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、行動制限がなくなったことで、著しい変化ではないにしろ、消費者は1年前と比べて店舗の利用にやや積極的になっている。

一方、その反動で「ネットショッピング」の利用はやや控えられているようだが、消費者全体には十分に普及していないことなどから利用者自体はわずかながら増えている。また、普及途上段階にある「フリマアプリ」については、消費者が外へ向かうようになる中でも、利用が堅調に伸びている様子が見て取れる。

2|年代別の状況~シニアでは店舗もネットショッピングの利用も増加、若者は買い物以外のコト消費へ?

年代別に見ると、「スーパー」については、30歳代や50歳代、60歳代では全体と同様、高頻度層がやや増えている(30歳代は2022年6月25.0%→2023年6月29.7%で+4.7%pt、50歳代は同31.0%→同34.5%で+3.5%pt、60歳代は同41.7%→同44.4%で+2.7%pt)(図表4(a))。

また、「デパートやショッピングモール」については、30歳代以上では利用頻度が上がるとともに(「月1~3回」以上がやや増加)、利用者が増える傾向が見られ、高齢層で顕著である(利用者は60歳代は同83.3%→同89.2%で+5.9%pt、70~74歳は同79.1%→同87.0%で+7.9%pt)(図表4(b))。なお、20歳代では利用者はやや減っているが(同81.1%→同78.8%で▲2.3%pt)、「月1~3回」以上はやや増えている(同28.2%→同31.1%で+2.9%pt)。

一方、「ネットショッピング」については、全体的に利用頻度が下がっており、若者ほど顕著である(「週1~2回」以上が20歳代は同16.1%→同9.5%で▲6.6%pt、30歳代は同16.1%→同12.4%で▲3.7%pt)。なお、20歳代では利用者もやや減っている(同90.1%→同86.6%で▲3.5%pt)。一方、高齢層では利用者は増えている(60歳代は同90.7%→同93.7%で+3.0%pt、70~74歳は同85.4%→同91.3%で+5.9%pt)。

「フリマアプリ」についても、全体的に利用頻度が下がっており、従来から利用者の多い若者ほど、その傾向が強い(「週1~2回」以下が20歳代は同12.1%→同8.8%で▲3.3%pt、30歳代は同9.7%→同7.7%で▲2.0%pt)。

また、「ネットショッピング」と同様、20歳代では利用者もやや減っている(同58.3%→同54.9%で▲3.4%pt)。一方、30歳代以上では利用者が増え、特に40~60歳代で顕著であり、それぞれ約1割増えている(40歳代で同40.7%→同50.4%で+9.7%pt、50歳代で同35.7%→同46.6%で+10.9%pt、60歳代で同26.0%→同37.9%で+11.9%pt)。

つまり、5類変更後、感染による重篤化リスクが高いために、これまで外出控え傾向の強かったシニア層を中心にリアル店舗での買い物に積極的に向かう傾向が見られるとともに、シニアではネットショッピングやフリマアプリの普及が途上段階にあるために、デジタル手段の利用も伸びている。

一方、若者ではデジタル手段の利用はやや控える傾向あるものの、必ずしもリアル店舗を積極的に利用するようになっているわけではない。よって、例えば、レジャーやイベント、ライブ、旅行などの外出を伴うコト消費へ向かっていることなどが考えられる。

3―食事サービス等の変化~シニアで外食・飲み会に再開傾向、ソバ―キュリアスな若者は飲酒増えず

1|全体の状況~外食や飲み会に再開の兆し、一方、デリバリーサービスの利用はやや減少

同様に食事サービス等について見ると、「飲食店の店内での飲食」については、「週1~2回」以上の比較的利用頻度の高い層がやや増え(2022年6月16.3%→2023年6月19.3%で+3.0%pt)、利用者もやや増えている(同84.5%→同88.7%で+4.2%pt)(図表5)。

一方、「食事のデリバリーサービス」については、「月1~3回」以上がやや減る一方(同12.3%→同8.1%で▲4.2%pt)、「2ヵ月に1回以下」の低頻度層がわずかに増え(同27.8%→同29.3%で+1.5%pt)、利用者はやや減っている(同40.1%→同37.4%で▲2.7%pt)。

また、「飲酒機会(外食と自宅合計)」については、外食に再開傾向が見える中で、「2ヵ月に1回以下」の低頻度層がやや増えることで(同22.9%→同27.2%で+4.3%pt)、利用者も増えている(同61.9%→同66.9%で+5.0%pt)。

つまり、5類以降後、消費者は1年前と比べて外食にやや積極的になっていることで、飲酒の機会も増えているようだ。一方、その反動のためか、「食事のデリバリーサービス」の利用はやや控えられている様子がうかがえる。

2|年代別の状況~シニアほど外食や飲み会再開に積極的、ソバ―キュリアスな若者は飲酒層がやや減少

年代別に見ると、「飲食店の店内での飲食」については、全体的に「週1~2回」以上の比較的利用頻度の高い層が増えるとともに、40歳以上では利用者も増えている(図表6(a))。

利用頻度の上昇は比較的若い年代で(20歳代は2022年6月17.6%→2023年6月21.6%で+4.0%pt、30歳代は18.3同%→同24.0%で+5.7%pt)、利用者の増加は高齢層ほど顕著である(60歳代は同86.7%→同92.8%で+6.1%pt、70~74歳は同79.1%→同92.8%で+13.7%pt)。

一方、20・30歳代では利用者は増えていないが、この背景には、感染による重篤化リスクが低い年代であるために、すでに1年前の時点で外食をおおむね再開していたことで、5類移行による大きな変化は見られないとことなどがあげられる。

「食事のデリバリーサービス」については、全体的に「月1~3回」以上が減るとともに、50歳代以下では利用者も減り、若者ほど顕著である(20歳代は同56.1%→同45.4%で▲10.7%pt、30歳代は同52.8%→同45.7%で▲7.1%pt)(図表6(b))。一方、60歳代以上では「2ヵ月に1回以下」の低頻度層が増えることで(60歳代は同23.9%→同28.8%で+4.9%pt、70~74歳は同24.1%→同31.4%で+7.3%pt)、利用者も増えている(60歳代は同31.6%→同33.0%で+1.4%pt、70~74歳は同27.8%→同34.8%で+7.0%pt)。

一方、「飲酒機会(外食と自宅合計)」については、30歳代以上では「2ヵ月に1回以下」の低頻度層が増えることで利用者も増えている(図表6(c))。低頻度層の増加は高齢層ほど(60歳代は同18.8%→同26.0%で+7.2%pt、70~74歳は同15.8%→同26.1%で+10.3%pt)、利用者の増加は60歳代を中心に目立つ(40歳代は同62.3%→同68.4%で+6.1%pt、50歳代は同63.4%→同68.9%で+5.5%pt、60歳代は同63.1%→同70.3%で+7.2%pt、70~74歳は同61.4%→同65.2%で+3.8%pt)。

なお、「週3~4回」以上の高頻度層は60歳代(2023年6月で26.7%)を中心に50歳代以上で2割を超えて多い傾向がある(50歳代で20.1%、70~74歳で23.7%)。

一方、20歳代では「週5~6回以上」の超高頻度層がやや増えているものの(2022年6月3.5%→2023年6月5.6%で+2.1%pt)、他の利用頻度はいずれもやや低下している。また、20歳代では、この超高頻度層がやや増えているとはいえ5%台の少数派であり、他の年代と比べて飲酒をしない層が比較的多く、20歳代の飲酒をする割合(利用者は2023年6月で61.1%)は最も多い60歳代(同70.3%)より約1割(▲9.2%pt)少ない。また、20歳代では1年前(2022年6月で63.5%)と比べてもやや減っている(▲2.4%pt)。

なお、既出レポート等※2で見た通り、若い世代ほどアルコール離れが進行している。また、最近では身体や心の健康や生活の質を重視することで、アルコールをあえて飲まない、飲むとしても少しだけ楽しむことを選択する「ソバ―キュリアス」が増えている。よって、もともとソバ―キュリアスの多い若者では、5類移行後も飲酒の機会が増えるわけではないようだ。

※2:久我尚子「さらに進行するアルコール離れ-若者で増える、あえて飲まない「ソバ―キュリアス」」、ニッセイ基礎研究所、基礎研REPORT(冊子版)(2022/12/7)など。

4―おわりに~今後の消費は実質賃金の改善が鍵、伸び悩めば節約志向が色濃くあらわれる懸念

本稿ではニッセイ基礎研究所の調査を用いて、新型コロナウイルス感染症が5類に引き下げられて以降の消費者行動の変化について捉えた。オミクロン株感染拡大下では、これまでと比べた重症化リスクの低さから、感染予防対策と社会経済活動を両立していく方向へ舵が切られたために、2023年4月以降は緊急事態宣言等が発出されたなかった。

よって、すでに5類移行前から旅行やレジャー、外食などコロナ禍で控えられてきた外出関連の消費行動は徐々に戻り始めていたためか、本稿で見た通り、5類移行によって著しい変化が生じたわけではない。しかし、やはり行動制限が解除されたことで、消費者はコロナ禍で控えられていた行動にやや積極的になる一方、ネットショッピングや食事のデリバリーサービスなど、コロナ禍で需要を伸ばしたサービスの利用をやや控える傾向が見られた。

また、年代別には、感染による重篤化リスクが高く、外出控え傾向の強かった高齢層ほど5類移行後に積極的に行動を再開している傾向があった。

また、高齢層では外出行動が増えながらも、普及途上段階にあるネットショッピングやフリマアプリなどの利用も伸びていた。一方、若者ではネットショッピング等の利用がやや控えられるものの店舗での買い物は必ずしも増えておらず、レジャーやライブなどの何らかのコト消費を目的に外へ出る機会が増えている様子がうかがえた。

また、若者は、コロナ禍前からソバ―キュリアス傾向があるため、5類移行後も飲み会は増えていない様子も見て取れた。

物価高が進行し、家計負担は増しているが、冒頭で見た通り、消費者マインドは改善傾向にある。よって、今後とも外出関連の消費行動が活発化することで個人消費は堅調に推移することが期待される。

一方で、現在のところ、労働者の実質賃金は前年を下回る状況が続いている(厚生労働省「毎月勤労統計」にて現金給与総額の5月速報値は▲1.2%)。今後の改善が期待されるところだが、物価上昇に対して実質賃金の伸びが劣後する状況が続けば、消費者の行動欲求が一旦、満たされた後は節約志向が色濃くあらわれる懸念があるだろう。

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