トップが絶対の「中国企業」と意思決定できない「日本企業」…それぞれが直面する“課題”
2023年07月25日 09時27分THE GOLD ONLINE

トップが絶対に正しいという観念の「中国企業」と、大胆な意思決定ができない「日本企業」。それぞれが直面する課題とは一体なんでしょうか? NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏が、日中企業の比較分析から紐解いていきます。
中国的経営・日本的経営…それぞれの本質と強さ/弱さ
本記事では、中国的経営と日本的経営との比較分析を整理する。日本企業がポジショニングと地域戦略の策定およびその実行において拠って立つべき経営の原理を明らかにする。
企業の成り立ちと組織構造

■中国企業:「権力格差」を受け入れる
中国企業は、経営トップと創業コアメンバーの何らかの「目的達成」のために、プロジェクト型の性格を持つ組織として設立される傾向がある。その組織構造は「経営トップ+コアメンバー」から成るエリート層が方針を示し、社員が人海戦術的に実行する「二層構造」を特徴とする。
社員がエリート層との間で「権力格差」の存在を受け入れる度合いが大きく、絶対的な権限を持つ経営トップ(リーダー)のトップダウンによる意思決定・統制のもとで、メンバーの強い目標達成意欲を糾合することを特徴とする「権威主義的なマネジメント」が行われる。
企業外に広がる「圏子」(運命共同体的グループ)の影響を受けて、短期の成果を求められる傾向も見られる。企業の成り立ちと組織構造から、企業としての継続性が弱い、または重きを置かれない傾向がある。
国家と企業との関係において、企業は国家戦略の担い手としての役割を期待される。これは中国企業に機会と脅威の両面のインパクトを及ぼす。また、企業が努力した結果得られた成果の帰属に関するルールに不透明感があることは、中国企業の構造的なリスクとなっている。
■日本企業:「権力格差」が小さな階層構造
一方、日本企業は、経営者と社員との共同体として、企業そのものの維持繁栄を目標として設立・運営される傾向がある。
社員と企業との一体性が特徴であり、社員の企業への帰属意識は比較的高く、会社も社員を守ろうとする志向が強い。その組織構造は、「権力格差」が小さな階層構造と社員のネットワークとを特徴とし、顧客、パートナーとの長期的リレーションシップを重視する傾向が強い。
企業の成り立ちと組織構造に関する中国企業と日本企業との比較分析を図表1にまとめる。

組織運営と事業戦略
■中国企業:権威主義的マネジメントとプラットフォーム志向
中国企業の「権威主義的マネジメント」の特徴として、トップダウンによる意思決定が、大胆な変革や痛みを伴う改革の実行力の源泉となり得る。
一方で、チェック機能が働きづらいため、経営トップの能力や謙虚さ・柔軟性が欠ける場合には、一気に経営が悪化するリスクを抱えている。トップが絶対的な権限を持っているがゆえに、「トップの無謬性」(トップは絶対に正しいという観念)が、状況に応じた軌道修正をできない硬直性の要因にもなり得る。
すでに述べたように、中国企業人はプラットフォーム(平台)という言葉に、「優れたリソースを集めて、価値創造できる場・仕組みをつくる」という戦略的な意思を込めている。プラットフォーム志向によって組織運営と事業戦略には次の特徴が見られる。
組織運営

組織体制は、その時点の優先度に応じて柔軟に組み替えられるようプロジェクト型を志向する。人材は、今必要な能力を持つ人材を採用し、業績に基づいて報酬を支払う契約的性格が強い。時間をかけて社員を育成するよりも、優秀な人材を連れて来て能力を発揮させる場づくりと、目標管理・ルール化に力点を置く。
プラットフォーム志向に基づく即戦力を集めた柔軟な組織づくりは、中国人の個人主義的な気質と相まって、組織ナレッジが蓄積できない、現場の改善力が弱いといった課題を抱えてきた。これに対する中国先進企業の対策も、プラットフォーム志向がベースとなっている。
アリババは事業を通じて獲得する業務ノウハウのベストプラクティスを標準化、データを統合・最適化して、全社で活用する仕組みであるミドルプラットフォーム(中台)を構築した。ミドルプラットフォームは、プラットフォーマー、さらには伝統的企業の組織マネジメントにおける最重要戦略となっている。
ファーウェイは、マネジメント・プラットフォームがナレッジマネジメントを司り、本部機構が提供する専門知識を顧客フロントの「鉄の三角形」(権限とリソースを付与されたプロジェクト型組織)が活用することで、組織をコンパクトに保って顧客ニーズにスピーディ・柔軟に対応する仕組みを整えている。
事業戦略
トップダウンによるスピード、集中的な投資・リソースの投入が活きるビジネスモデルを志向する。「スピーディに参入する、ダメならためらわずに撤退する」というメリハリある戦況判断が得意である。したがって、プラットフォームの規模を確保してネットワーク効果を働かせる事業創出との相性が良い。
2000年代からのBATやTMDなどプラットフォーマーの急速な成長は、プラットフォーム志向をエッセンスとする中国的経営と中国経済の成長ステージとが、消費者を集客して規模の経済を働かせながら社会の困りごとを解決するという好循環をつくり出すことで達成できた。
中国企業は、技術の進化などの市場の「変化点」を活かした事業化に貪欲である。オリジナルの製品を開発する、中長期視点で研究開発に投資をするよりも、ありものの技術や製品を集めビジネスモデルを模倣して市場にあわせてビジネスモデル化する志向が強い。
EV、太陽光発電、風力発電は、グリーンという新たなトレンドを機会として、世界の一流人材を集め、技術を導入していち早く商品化を行い、中国国内市場の“規模の経済”で価格競争力を獲得している。
そして、中国市場の熾烈な競争を勝ち抜いた戦闘力ある企業が、世界各国の産業政策・規制に応じてスピーディに参入して競争優位を確立する、という勝ちパターンをつくっている。トップダウンによる集中投資、スピードが活かされており、中国政府もルール化、需要創出で後押ししている。
組織運営、事業戦略のいずれにおいても、「不確実性」が高い中で推進することへの耐性が強い。外部環境が変化するリスクを前提として、組織づくり、事業開発のいずれにおいても、短期の成果を求める傾向が強い。
■日本企業:経営者と社員との共同体
日本企業は、経営者と社員との共同体として、長期志向で人材育成や研究開発投資を積み上げることで、企業そのものの維持・繁栄をはかろうとする傾向が強い。
意思決定は合意形成型で、リスク管理を重視する。安定した意思決定と、実行において社員の参画を得やすいというメリットがある半面で、調整フローが長い、変革を進める大胆な意思決定ができないなどの「弱さ」がデジタル化時代において顕在化している。
組織運営においては、継続性やメンバーのロイヤリティを活かした組織ナレッジの蓄積や現場の改善力を強みとする。社員も共同体の一員として、仕事に責任感を持ち、企業の維持・繁栄に資する行動をとろうとする。
中国企業人からは企業が「社員を守ろうとする」こと、「横のコミュニケーション力」について、自分たちに足りないものとして評価する声が聞かれる。現場力、組織の継続性やパートナーとの長期的な信頼関係を活かした品質のつくり込みによって、摺り合わせ型製品・サービスの開発で競争優位を発揮しやすい。
一方で、既存事業の「深掘り」(exploitation)への注力が偏重し、イノベーションが生まれづらいという根本課題に日本企業は直面している。新規事業の「探索」(exploration)をバランスよく両立させて、産業構造の転換に応じて大胆な経営変革を実行できる、「両利きの経営」が日本企業に求められている。
中国的経営と日本的経営の「強さ」と「弱さ」の比較分析を図表2、3にまとめる。


岡野 寿彦
NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター
シニアスペシャリスト
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