もうすぐバブル入社組が「定年」を迎える…肩たたきされず「70歳」まで働き続けるために重要なこと

70歳までの再雇用制度を設ける企業が増えています。一方で、早期退職を募集する企業数は、リーマンショック直後に次ぐ高水準となっていることも事実です。バブル期に大量入社した40代から50代社員の定年が近づくなか、70歳まで働き続けたい場合、いま準備しておくべきことはなんでしょうか? 本記事では、日本総合研究所創発戦略センタースペシャリストの小島明子氏による著書『女性と定年』(金融財政事情研究会)より、長く会社で働くために必要なことについて、データをもとに解説します。

社会全体で増える中高年社員

男性同様に増える定年女性ですが、労働人口の減少に伴い、特に中高年社員は働き手として期待されています。国立社会保障・人口問題研究所(※1)によれば、日本の生産年齢人口(15〜64歳の人口)は、1995年の8,726万人をピークに減少し続け、2015年には7,728万人となっています。

出所:総務省「労働力調査」をもとに日本総合研究所作成
[図表1]年齢階級別就労者の割合の変化 出所:総務省「労働力調査」をもとに日本総合研究所作成

将来の生産年齢人口は、出生中位推計によれば、2029年、2040年、2056年には、それぞれ7,000万人、6,000万人、5,000万人を割り、2065年には、4,529万人になることが指摘されています。労働人口という視点でみれば、人手が不足する傾向というのは今後も続くのです。

出所:「シニア採用に関する業種別企業調査」(マイナビ調べ)をもとに日本総合研究所作成
[図表2]「現在の勤め先で、非正規雇用でシニア層を採用していますか。(単一回答)」 出所:「シニア採用に関する業種別企業調査」(マイナビ調べ)をもとに日本総合研究所作成

マイナビ(※2)によれば、勤め先でシニア層を採用している業種としては、警備・交通誘導(セキュリティー・設備工事等)、介護、接客・販売(コンビニ・スーパー)、清掃(ビル管理・メンテナンス)が約7割を超えています。現状、人手が不足していて、シニア層であっても採用したいと希望する業種は、体力を必要とする業種を中心にニーズが高いことがわかります。

平均寿命という点で考えれば、日本人の平均寿命は延びており、男性で81.47年、女性で87.57年であり(※3)、国際的に比べて、相対的に平均寿命は長いこともわかっています。今後も医療技術が進歩する可能性を踏まえれば、定年というのはキャリアの終点ではなく、中間点になるといえます。

寿命の長さと労働力の不足という観点から、自分が好む仕事に就けるか、という視点を置いておけば、定年を迎えた女性であっても、労働力としては求められる可能性が高いのです(図表1、図表2)。

※1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 平成29年度推計」。

※2 シニア採用に関する業種別企業調査(マイナビ調べ)。

※3 厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」。

年齢を経て働き続けるために必要な「変化への適応力」

現役で働く中高年世代がより良い条件、あるいは今までの仕事のスキルや経験を活かしながら働き続けるためには、携わっている仕事が成長産業ではない場合、成長産業に焦点を当てる、あるいは、今まで携わってきた仕事で得られた経験やスキルの他業界、他職種での再現可能性を考慮し、必要に応じて教育訓練を受ける必要も出てきます。

外部環境の変化に伴い、必要とされるのは、業種や職種を柔軟に選択でき、新しい価値観やスキルを受け入れられる個人としての柔軟性です。副業・兼業での働き方も新たな産業に移る手段ですが、個人としても、物理的、精神的な変化に対応できる人材であることが、男女問わず求められているのです。

野村総合研究所と英国オックスフォード大学のマイケル・A.オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究(※4)によれば、日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能等で代替可能になることが指摘されています。

同研究の中では、芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい傾向があるといいます。

一方、必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い傾向が確認できていると記されています。

定型化される業務そのものが減ることを想定すれば、年齢が上がるほど、条件の良い仕事を得るチャンスそのものが少なくなると考えます。経済産業省が推計したデータ(※5)によれば、主な「職種」ごとの必要となる労働者数の相対的変化をみると、事務や販売の仕事が減少すると予測されています(図表3、4)。

注:全労働者数に占める各職種の割合の変化率(2020年→2050年) 出所:労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計―労働力需給モデル (2018年度版)」、「職務構造に関する研究Ⅱ」(2015年)、World Economic Forum “The Future of Jobs Report 2020”, Hasan Bakhshi et al., “The future of skills:Employment in 2030”、内閣府「産業界と教育機関の人 材の質的・量的需給マッチング状況調査」(2019年)、文部科学省科学技 術・学術政策研究所「第11回科学技術予測調査ST Foresight 2019」等をもとに経済産業省が推計
[図表3]主な「職種」ごとの、必要となる労働者数の相対的変化(高成長シナリオ)①*

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注:全労働者数に占める各職種の割合の変化率(2020年→2050年)


出所:労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計―労働力需給モデル(2018年度版)」、「職務構造に関する研究Ⅱ」(2015年)、World Economic Forum “The Future of Jobs Report 2020”, Hasan Bakhshi et al., “The future of skills: Employment in 2030”、内閣府「産業界と教育機関の人材の質的・量的需給マッチング状況調査」(2019年)、文部科学省科学技術・学術政策研究所「第11回科学技術予測調査ST Foresight 2019」等をもとに経済産業省が推計

これらの職種はAI等で代替される可能性があるため、減少するのだと考えます。一方で、サービス職業従事者といった、代替がしづらい職種や、専門的・技術的職業従事者といった新たな技術開発を担う職種では、雇用が増えることが予想されます。

また、職種構成の内訳は、各産業の雇用の増減に連動しており、今後、高齢化で増えることが予想される医療・福祉は約3割増えることが予想されています。IT化に伴って必要とされる情報通信業や、ネット通販の宅配需要によって増える運輸業などについても、増えることが読み取れます。

注:全労働者数に占める各職種の割合の変化率(2020年→2050年) 出所:労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計―労働力需給モデル (2018年度版)」、「職務構造に関する研究Ⅱ」(2015年)、World Economic Forum “The Future of Jobs Report 2020”, Hasan Bakhshi et al., “The future of skills:Employment in 2030”、内閣府「産業界と教育機関の人 材の質的・量的需給マッチング状況調査」(2019年)、文部科学省科学技 術・学術政策研究所「第11回科学技術予測調査ST Foresight 2019」等をもとに経済産業省が推計
[図表4]主な「産業」ごとの、必要となる労働者数の相対的変化(高成長シナリオ)②**

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注:全労働者数に占める各職種の割合の変化率(2020年→2050年)


出所:労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計―労働力需給モデル(2018年度版)」、「職務構造に関する研究Ⅱ」(2015年)、World Economic Forum “The Future of Jobs Report 2020”, Hasan Bakhshi et al., “The future of skills:Employment in 2030”、内閣府「産業界と教育機関の人材の質的・量的需給マッチング状況調査」(2019年)、文部科学省科学技術・学術政策研究所「第11回科学技術予測調査ST Foresight 2019」等をもとに経済産業省が推計

今後も働き続けることを考える場合、今、ご自身が携わっている業界や職種は将来性があるのか、なければ、必要に応じて学び直し等の軌道修正が必要となってくるといえます。

※4 野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に〜601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算〜」(2015年12月2 日)。

※5 労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計―労働力需給モデル(2018年度版)」、「職務構造に関する研究Ⅱ」(2015年)、World Economic Forum “The Future of Jobs Report 2020”, Hasan Bakhshi et al., “The future of skills:Employment in 2030”、内閣府「産業界と教育機関の人材の質的・量的需給マッチング状況調査」(2019年)、文部科学省科学技術・学術政策研究所「第11回科学技術予測調査ST Foresight 2019」等をもとに経済産業省が推計。

70歳までいまの勤め先で安泰に働けるか?

2021年4月には、法律が改正され、従業員に対する70歳までの雇用確保措置が努力義務となり、70歳までの定年引上げや、70歳までの継続雇用制度の導入、定年廃止などが求められています。自分の今の勤め先は大企業なので70歳まで安泰、と考えている女性もいるかもしれません。

しかし、大企業側はより高い価値を生み出す人材へと入れ替えるための新陳代謝を進めることが予想されます。既に、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)前の段階からもそのような傾向はみられます。

東京商工リサーチによれば(※6)、業績が堅調な大企業で、早期・希望退職者を募っていました。2020年12月7日までに上場企業の早期・希望退職者募集が90社に達していることが明らかになっており、募集社数は、リーマン・ショック直後の2009年(191社)に次ぐ高水準なのです。

この理由としては、バブル期に大量入社した40代から50代社員による年齢構成のアンバランスさの改善や、将来の事業を考慮した上での人材の新陳代謝が理由として挙げられます(※7)。業績が堅調な大企業に勤めていても、自分の経験やスキルが、勤め先の中で価値を認められなければ、そこで働き続けることは難しい時代となっているのです。

また、新型コロナは私たちの働き方を変え、多くの企業がテレワークへの移行を迫られることとなりました。企業によっては、毎日フルタイムでテレワークができるところもありますが、週に数日程度と決めているところもあります。頻度や時間は企業によって多様ではあるものの、今後もテレワークはますます進むと考えられます。

欧州では、複数の国がここ数年、週休3日(週4日勤務)制度の導入や検討を行っています。日本でも、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(※8)の中で、育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用等につながるよう、企業における週休3日制度導入を促し、普及を図ることが明記されています。

私たちの働き方は、時間と場所、いずれにおいても働きやすい環境になることが想像できます。働きやすい職場環境が整備されることは、自分の専門性が明確な方にとっては良いのですが、そうでない場合、成果の創出が難しいという点もあります。

テレワークの増加などを背景に、企業の人事制度設計もジョブ型雇用人事制度へ移行するところが増えてきており、職場で明確な成果を出すことがますます求められるようになります。

さらに、現在は専門性が高いスキルを有していても、専門性以上に(あるいは専門性があることは前提とした上で)、新しいアイデアやイノベーションの創出が求められる時代です。働く時間を柔軟に選択できることは、仕事がしやすくなるというメリットがありますが、時間にとらわれない分、今後は、アイデアの創出等付加価値の高い仕事がますます求められるということなのです。

年齢を経れば、誰でも体力の低下から、生産性の低下は免れません。より厳しい時代になるからこそ、その時代について行くことには大きな努力が伴います。精神的にもつらい努力をしなければならないくらいなら、定年を考えるタイミングで、自分のやりたいことをより追求していける分野で働くという選択肢を考える、あるいは、少しずつそのための準備をしていくことも大切なのではないでしょうか。

※6 東京商工リサーチ「今年の上場企業「早期・希望退職」90社に リーマン・ショック後2番目の高水準」。

※7 東京商工リサーチ「2019年 上場企業「希望・早期退職」実施状況」。

※8 経済財政運営と改革の基本方針2022。

小島 明子

日本総合研究所創発戦略センター

スペシャリスト

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