腰痛がなかなか治らない人は「うつ病」になりやすい!?…「慢性的な腰痛持ち」の共通点【専門医が解説】
2023年09月11日 05時30分THE GOLD ONLINE

腰痛は「国民病」ともいわれるほど、多くの人が悩まされている症状です。しかし、「どれだけ治療しても治らない」という人も少なくありません。そんななか、「実は腰痛が治るかどうかは、“本人のパーソナリティ”が大きく影響している可能性がある」と、横浜町田関節脊椎病院の越宗幸一郎院長はいいます。いったいどういうことか、詳しくみていきましょう。
腰痛が治りにくい人の「意外な原因」
厚生労働省の「国民生活基礎調査(令和元年)」によると、有訴者率(自覚症状がある人の率)が高い症状の男性第1位、女性第2位が「腰痛」となっています。このように、多くの人にとって腰痛は「身近な悩み」といえます。
筆者の診察室にも日々多くの患者さんが訪れますが、腰痛を訴えて来院される人も非常に多いです。しかし、そのうち原因が特定できるのはわずか15%程度※1。残りの約85%は、原因が特定できないとされています。
一般的に8割~9割の腰痛は発症から5週間ほどで自然治癒するといわれており※1、多くの人が医療機関を受診することなく、自然と腰痛から解放されていますが、なかにはどれだけ医療機関に通院し、治療を継続してもほとんど改善しない人もいます。
この「なかなか治らない腰痛」の原因を考えるなかで、これまで長く専門医を続けてきた筆者は、ある考えにたどり着きました。
それは、「腰痛が治るかどうかは、年齢や生活環境、既往などだけでなく、「患者本人のパーソナリティも深く関与している可能性がある」ということです。
以下では、臨床現場から推察する、「腰痛が治りにくい人の特徴」をみていきましょう。
臨床現場から考える「腰痛が治りにくい人」の3つの特徴

神経質な性格の人
神経質な性格の人の場合、わずかなことにも過敏に反応し、自分を「病気だ」「治っていない」と思い込もうとします。
そのため、たとえ痛みが改善されたとしても、本人が満足する改善具合に至らないケースが多く、「右腰は痛みがなくなったけれど、まだ左腰の上部が痛い」といったように、痛みが残っている箇所を執拗に探そうとするのです。
また、このような方はたいがいまじめで几帳面な人が多く、うつ病を発症する重要な危険因子にもなります。
実際、慢性腰痛とうつ病の関係性については多くの研究が進められており、うつや不安、落胆などが腰痛と深く関連していることが判明しています。また、疼痛(とうつう)を緩和するために抗うつ薬が用いられるケースもあり、整形外科と心療内科が連携して治療にあたることも少なくありません※2。
なぜまだ治らないんだ!…「気が短い人」も要注意
物事を大げさにとらえる人
私は診察の際、「痛みを10段階で評価するとしたら、いまはいくつくらいですか?」と尋ねることがあります。「10段階のうちの10」というと、のたうち回るくらいの痛みであり、まったく動けないほどのひどい痛みだろうというのが大方の考えです。
しかし、なんでも大げさに考える人は、必ずといっていいほど「痛みのレベルは10です!」と答えます。本人は大げさに言っているつもりはないのでしょうが、とにかく「自分の痛みを理解してほしい」という思いが強いからか、あるいは心配性で精神的な余裕がないためか、どうしても過大評価をしてしまうのです。
このような人も、たとえ10の痛みのうち8が取れたとしても、残っている2の痛みを大げさに考えてしまうため、結果として「いつまでも腰痛が治らない」という状態に陥ってしまいます。
気短な人
診察室で問診をするとき、早口で「腰痛の原因は」「治るのか治らないのか」「治療法は?」と矢継ぎ早に質問する人がいます。このような気短な性格の人も腰痛が治りづらく、慢性化しやすいタイプといえます。
イライラしている精神状態では、たとえ痛みが改善されてきても、「まだ痛みが残っている」というマイナス思考になりがちなので、「なぜ、早く痛みがなくならないのか」と怒る人もいます。
また、そのような人の場合、問診中に「睡眠不足だ」「仕事が忙しい」「家庭内が不仲」などとプライベートな悩みを漏らす人も少なくありません。
慢性化した腰痛は「メンタルアプローチ」が有効かも
どれだけ治療を続けても腰痛が治らないのは、本人にとっては相当な苦痛のはずです。治療にかかる時間も費用もかさみますし、QOLも大きく低下してしまいます。その場合には、整形外科だけではなく、別方面からのアプローチを加えてみるといいかもしれません。
上記にあげたように、パーソナリティなど性格的な要因が治療に影響を与えていることが予想される場合には、整形外科単独で効果を出すことは難しいので、心療内科やペインクリニック、薬剤師、ソーシャルワーカーなどと協働するケースが望ましいとされています。
心療内科による治療で心理的な問題をコントロールしつつ、整形外科でのリハビリに認知行動療法を取り入れ、少しずつ改善のステップを踏むのが理想的です。
リハビリでは、「いまの痛み」のみに目を向けず、「以前の自分」と「いまの自分」を比較してみて、「どれくらい痛みが改善されたか」に着目します。比較を容易にするために、ご自身で痛みや症状をノートに記録するのもいいでしょう。
また、治療前に「できないこと」を列記しておき、1ヵ月後や2ヵ月後などに「どれくらいできることが増えたか」を書き出すことで、客観的に進歩をたしかめることができます。
「SDSテスト」で“治りにくさ”を客観的に判断
2021年発刊の慢性疼痛診療ガイドラインでも、「認知行動療法および患者教育を組み合わせた運動療法が強く推奨される」と記されています。
その際、しばしば用いられるのが「自己評価式抑うつ尺度(SDS:Self-rating Depression Scale)」※3です。これはそもそも心療内科で用いられるテストであり、患者に20の質問に答えてもらい、合計得点を「正常」「神経症」「うつ病」の3群に分けて評価することでうつ状態の程度を簡便に把握します。
もし、なかなか治らない腰痛に悩まされており、上記のSDSの合計得点が「神経症」あるいは「うつ病」に当てはまる場合には、かかりつけの整形外科の先生に心療内科を紹介してもらうといいのではないかと思います。
腰痛には「心因」も大きく影響する
腰痛の発症にはストレスをはじめ心因的な要素も多く関わっており、認知行動療法のメソッドを利用し、自分の「考え方」を修正することで症状が緩和されるケースも少なくありません。
興味がある人は、まずかかりつけ医に相談してみましょう。
<参考>
※1 東邦大学メディカルレポート「さまざまな腰痛とその治療について~痛みが慢性化する前に適切な治療を~」
(https://www.toho-u.ac.jp/press/2018_index/20181031-930.html)
※2 日本腰痛学会雑誌Vol.10-1 Nov.2004
(https://www.jslsd.jp/img/journal/pdf/vol10.pdf)
※3 大谷明、佐藤学「SDS(Zungの自己評価式抑うつ尺度)」の質問文の表現に関連した応答バイアスの検証
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbhmk1974/26/1/26_1_34/_pdf)
越宗 幸一郎
横浜町田関節脊椎病院
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