お金の話をしない日本人…「詰め込み教育」と「清貧思想」がもたらす“この国の末路”

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本が「イノベーション後進国」と言われて久しいなか、『「見えない資産」が利益を生む GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』著者の鈴木健二郎氏は、日本の企業や個人はこれまで革新的な技術やアイデアを生み出している一方、日本独自の「詰め込み教育」と「清貧思想」の弊害が深刻だといいます。変われない日本を待ち受ける恐ろしい未来とは……みていきましょう。

革新的な技術やアイデア“どまり”の日本のイノベーション

フランス、シンガポール、アブダビなどに校地を置くビジネススクールの「欧州経営大学院」(INSEAD)は、各国のイノベーション力を評価する指標「Global InnovationIndex」を毎年発表しています。

この指標は、特許数、科学技術論文数、被引用論文数、労働者1人あたりのGDP成長率、開業数、IT投資額、ISO9001(品質保証の標準)認証件数、ハイテクメーカー数、ロイヤリティ収入、ハイテク製品輸出、対内直接投資、商標数、コンテンツ輸出、新聞有料購読者数、クリエイティブ製品輸出、出版広告事業者数、インターネットのトップレベルドメイン数、Wikipedia編集回数、YouTube動画アップロード数などから総合的に評価するものです。

最新の2021年の指標によると、日本はスイス(1位)、スウェーデン(2位)、アメリカ(3位)から大きく差をつけられ、13位にランクインしています。

今から20年以上前の2000年初頭は、アメリカ(1位)、ドイツ(2位)に続き、日本が3位につけており、かつてはトップクラスであった日本のイノベーション創出環境(エコシステム)に対する国際的な評価は、2000年代、2010年代を経て著しく低下してしまったことが分かります。

出典:欧州経営大学院(INSEAD)より作成
[図表1]Global Innovation Index上位20か国、地域(2021年) 出典:欧州経営大学院(INSEAD)より作成

日本がイノベーション後進国になってしまった理由はどこにあるのでしょうか。

日本が「イノベーション後進国」に陥ったワケ

一般的な書籍や雑誌の記事においては、1990年代以降の「失われた30年」の原因として、バブル経済崩壊後の平成の30年間におけるデフレの進行と、そこから脱却するために打たれた経済政策、産業政策、技術政策などの政府の失策への指摘が多く見られます。

敢えてそこは論じずにイノベーションを生み出せなかった日本の企業や個人の問題にフォーカスしたいと考えています。

日本の企業やクリエイター、研究者は数々の成果をあげてきた

行政サイドの失策で低迷し続けるマクロ経済環境において、企業サイドもただ指をくわえて見ていたわけではありません。真面目で優秀な日本の開発者たちは、戦後から常に高機能・高性能な数多くの技術を生み出してきました。また、発想の豊かなクリエイターやアーティストたちは、ワクワクするような創作物をつくり出してきました。

今、社会に大きなインパクトを与えようとしているエクスポネンシャル・テクノロジー(指数関数的に成長し、社会に大きなインパクトを与えるテクノロジーのこと)には、「人工知能」「拡張現実」「ブロックチェーン」などと並んで、「3Dプリンター」「量子コンピュータの基本原理」「ゲノム編集の基礎研究」などが挙げられます。

実はこれらのテクノロジーの基本原理の発明もしくはその発展において、他国の誰よりも先んじて取り組んだ日本の研究者の卓越した研究成果が貢献していたことはご存知でしょうか。

また、世界でも高く評価されるような音楽や映画、アニメ、ゲーム、ファッションなど数多くのコンテンツを生み出してきたことも踏まえると、日本人は非常に才能豊かであることも分かります。「ゴジラ」「ジブリ」「マリオ」「ポケモン」「エヴァンゲリオン」などの例を挙げればそれは明らかでしょう。

「技術やアイデア」に強く、「仕組みづくり」に弱い日本

しかし、評価されているのは、生み出している技術やアイデアであって、残念ながらそれらを活用したビジネスモデルや、社会・顧客に提供している価値ではありません。実は、ここに大きな問題があります。

つまり日本の企業や個人は、技術やアイデアは革新的ですが、それを今の社会や顧客の課題・ニーズに合わせて提供する“価値”へと変換する仕組みづくりが、ほとんど進歩していないのです。

社会や顧客の課題・ニーズは大きく変わっています。良いものをつくれば売れるという時代は、すでに1980年代の段階で終わっています。それにもかかわらず、商品・サービスの形態や提供のしかたはここ何十年も変わっていません。

革新的な技術やアイデアが、「社会・顧客の価値」に到達しない

より掘り下げて考えてみましょう。日本の企業が、革新的な技術やアイデアを生み出しても、残念ながら「社会・顧客の価値」にまで到達できないケースが後を絶ちません。

経済産業省が平成27年度に実施した「企業・社会システムレベルでのイノベーション創出環境の評価に関する調査研究」で提示した定義によると、イノベーションとは以下の一連の活動を言います。

社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し、

社会・顧客への普及・浸透を通じて、

ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する。

出典:経済産業省「企業・社会システムレベルでのイノベーション創出環境の評価に関する調査研究」より作成
[図表2]イノベーションとは 出典:経済産業省「企業・社会システムレベルでのイノベーション創出環境の評価に関する調査研究」より作成

日本の企業や個人は、①の革新的な手法(技術・アイデア)の創出までは行くのですが、そこでとどまっており、新たな価値(製品・サービス)を創造して、②の社会・顧客に普及・浸透させることで、③のビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得することができていないため、イノベーションが最後まで完成せず、「ジリ貧」のスパイラルに陥っているわけです。

“ジリ貧”の背景にある「詰め込み教育」と「清貧思想」

こうした問題の背後には何があるのでしょうか。私は、与えられた課題を解くだけの「詰め込み教育」の弊害なのか、「課題・ニーズ」を自ら考えるのが苦手であることに、根本的な問題があるように思えてなりません。

また「清貧思想」の弊害なのか、お金を稼ぐための教育が一切なく、したたかにビジネスモデルを構築して、価値のある商品・サービスに対して、胸を張って対価を獲得するのが苦手であることも影響していそうです。

先のイノベーションを完成させるための3つの構成要素が満たされていないことに加えて、「伝統主義」にとらわれて現状維持バイアスが働いてしまい、先輩が敷いた「ルール」「常識」から外れるのが苦手である、「村社会」「排他主義」が邪魔して「共創」するのが苦手である、「安定志向」に陥りリスクを正しく見積もって行動するのが苦手である、といった日本人の傾向も関係があるのではないでしょうか。

顧客の課題・ニーズに寄り添う必要性

いずれにしても、これらの問題を克服して、イノベーションの3つの構成要素を満たせない限り、せっかく素晴らしい技術やアイデアを持っていても、社会・顧客の価値に変換することはできません。社会・顧客の価値として浸透しなければ、ダイナミックに対価を獲得することもできず、「ジリ貧」になっていくことは目に見えています。

良いものをつくるだけでは売れず、顧客の課題・ニーズに寄り添った体験価値が求められるようになった現在、イノベーションが生まれずに、「失われた30年」を過ごすことになった原因はここにあります。

これが、イノベーション後進国としての日本の現状であり、将来が予測しがたいVUCA時代に入った今、このままでは「40年」「50年」と、失い続けることが心配されます。

鈴木 健二郎

株式会社テックコンシリエ代表取締役

知財ビジネスプロデューサー

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