年収450万円の40歳事務職、大腸がん治療後にまさかの「がん保険契約解除」の悲劇…ネット加入でトラブル頻発!「告知義務違反」の恐怖【CFPが解説】
2023年09月25日 05時30分THE GOLD ONLINE

がん保険加入時、決してやってはいけないこと……それが「告知義務違反」です。「たいしたことない」という自己判断が、いざがんに罹患したときに『契約解除』という最悪の事態を引き起こします。いまはネットで気軽にがん保険に加入できますが、その手続きには細心の注意が必要なのです。本記事では、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が、松下ゆかりさん(仮名・40歳)の事例とともに、がん保険の告知義務違反について解説します。
大腸がんと診断、がん保険に加入していたから安心かと思いきや…
東京都墨田区在住、都内の証券会社に勤務、事務職として年収450万円で働く40歳、松下ゆかりさん(仮名)。松下さんは約1ヵ月前、入院して大腸がんの手術を受けました。
3ヵ月前の健康診断結果にあった『便潜血』の指摘。実は前年の健康診断でも同じ指摘があったのですが、そのときは「事務職で座りっぱなし、仕事が忙しくて運動する暇がない、腸活が足りないからだ」と、再検査をスルーしてしまいました。2年連続で同じ指摘を受け、さすがに気になって今回は精密検査を受診。前年もそうだったのですが、大腸の内視鏡検査に対してどうしても嫌なイメージがあったものの、40代になったということもあり「健康に気をつかおう」と検査を受けました。
検査から10日後、結果を聞きに行ったのですが「残念ながら大腸がんが見つかりました」と、目の前の医師から告げられました。正直なところ便潜血といってもたまたまそのときの微妙な体調の変化によって出たものだと軽く見ていました。そのため、実際大腸がん告知を受けた瞬間は頭の中が真っ白になり、医師の話もろくに耳に入らず、ただただ聞き流す状態に。細かいことはほとんど覚えていませんが、入院・手術の予約を入れて帰宅しました。
幸い手術は無事に終わり、今後は抗がん剤治療を通院で行っていく予定です。医師からは体調が悪くなければ仕事も日常生活もいままでどおり続けていけることを伝えられ、多少安心感を得ることができました。
不安に思っていたお金の面ですが、手術のための入院で約15万円の出費、そしてこれからの通院治療でも月に数万円お金がかかるとのこと。ただ、約10ヵ月前にがん保険に加入していたので、その点は不幸中の幸い。ちなみに松下さんが加入したがん保険は以下の内容です。
②がん診断給付金 1年に1度100万円(回数無制限)
③がん入院給付金 入院1日当たり1万円(日数無制限)
④がん通院給付金 通院1回当たり5,000円(日数無制限)
すでに終わった入院・手術に関して①~③の保障が支払い対象、松下さんは今後通院で抗がん剤治療を行っていく予定なので、それについては①と④が該当します。そして万が一治療が長引いても②で、再び100万円を受け取れる内容です。特にがんが心配だったわけでもなく、昨年の健康診断で初めて「便潜血」の指摘を受けたことで、なんとなくがん保険に入っておこうというきっかけになったのかもしれません。お金の心配がある程度消えたので、これからの治療も前向きに頑張ろうという気持ちになれました。
そのがん保険ですが、事前に請求手続き書類を取り寄せ、入院中に必要な診断書の作成を病院で依頼、2週間前に受け取った診断書とともにがん保険の請求書類を送りました。
そして本日、用事を終えて帰宅するとポストに保険会社からの郵便物が入っていました。封筒に赤で『重要』と書かれているので、がん保険のお金の支払いが完了したという連絡だと松下さんは思いました。部屋に戻り落ち着いたところでその郵便物の封を開けた松下さん、そこにはまさかの通告が。
「告知義務違反と判断されたため契約は解除されました」
一方的な契約解除の通告
「がん保険に入っていてよかった」そう思っていた松下さん。ところが保険会社からの届いた書類には『契約解除』の文字が。なぜそのようなことが起こってしまったのでしょうか。
その書類には『告知義務違反と判断されたため』ということが書かれていました。がん保険の申し込みの際には、診査があります。その診査に使う書類が『告知書』です。告知書は、病院での問診票のようなもので、5~10個の過去の病歴、健康診断の結果などに関する質問が書かれていて、それに回答をする形になっています。保険会社は書かれた内容に対して診査を行い、申し込んだがん保険に加入できるかどうかが決定します。
その告知書の記入ですが、診査に使うものであるため正確な記入が求められます。たとえばその告知書の中にはたいていの場合
「いままでにがん(悪性新生物)にかかったことがありますか?」
という質問事項があります。これに対して『はい』という回答になると診査にとおらず加入できないことが一般的です。しかし告知書の記入は自己申告ベースのため、『いいえ』と虚偽の申告をすれば加入できてしまう場合があります。
軽く捉えていた『便潜血』の指摘
なにが起きたのかわからなかった松下さん。書類に記載されていた問い合せ先のフリーダイヤルへ電話しました。保険会社からは、告知書という書類のこと、その中に虚偽の申告が確認された場合には、契約が解除される場合がある旨の案内を受けました。
つまり松下さんが10ヵ月前にがん保険に加入する際、松下さんの記入に虚偽の申告があったということになります。松下さんはネットでがん保険に加入しました。手続きがすべてオンライン上で済んでしまい便利であったことを覚えています。
松下さんは契約当時の告知書の控えを見てみました。上から下まで見返してみましたが、この数年は今回の大腸がんの入院・手術以外、ほぼ医者にかかっていません。ですから虚偽の申告として唯一ありえるのは、
「過去2年以内の健康診断で異常の指摘をうけたことがありますか?」
という質問に対して『いいえ』と回答したところです。前年の健康診断で初めて指摘された『便潜血』ですが、当時は特に体調不良もなく医師の診察や治療を受けた訳ではないので大した問題ではないと思い、わざわざ申告する必要はないと判断しました。
支払った保険料も戻ってこない
保険会社からの通知文書には、契約解除と合わせていままで毎月支払ってきた金額(保険料)も返還されない旨が記載されていました。
「がんになってもお金を払ってくれないならば、契約が有効とは言えないのだから、支払ったお金は返してくれてもいいのでは?」と松下さんは保険会社のコールセンターで訴えました。
しかしオペレーターからは「あらかじめ契約時の重要事項で、告知義務違反の場合には保険料はお返ししない旨ご案内しております」と、きっぱり返答されてしまい、松下さんはなにも言えなくなってしまい、電話を切りました。
がんになったときにお金を払ってもらうために加入し、そのために毎月費用を負担してきたにもかかわらず、いざがんになってしまったときに1円もお金を受け取れずに契約が解除、しかもいままで支払った金額すべてが『払い損』という結果になってしまい、松下さんは深い落胆の気持ちになってしまいました。
告知義務違反と契約解除権
がん保険契約の際には申込手続きをする前に、重要事項の説明があります。保険も金融商品のひとつで、一般の消費者にとっては複雑でわかりづらい、そして実際に契約においてさまざまなトラブルが発生しているので、金融庁の監督のもと保険会社や保険商品の案内をする者(保険募集人)に対しては、説明義務が課されています。
保険会社を問わず保険を契約する人(保険契約者)に対して必ず説明すべき重要事項のひとつに『告知義務』があります。がん保険の場合、一般的には健康状態などに対する質問事項に対して、保険契約者はありのままを申告(告知)する義務を負います。
そして万が一その告知に、
・故意または重大な過失により事実でないことを回答した場合
保険契約が解除される場合がある旨が明記されています。契約上保険会社には契約の解除権があり、告知義務違反の事実が確認された場合には、一定の要件のもと一方的に契約を解除することができるようになっています。
便潜血は大腸がんの疑い
今回の事例において松下さんは、1年前の健康診断で『便潜血』の指摘を受けていましたが、体調に異常がなかったことや医師の診察を受けたわけではなかったという理由から「大したことではない」と思いその事実を申告(告知)しませんでした。
松下さんは便潜血を大したことではないと認識していたのですが、実は『便潜血』の指摘は「大腸がんの疑いあり」という意味合いです。ですから1年前の指摘を正直に告知していた場合、がん保険の診査が通らず加入できなかった可能性があります。反対に言えば、うその告知をすればがん保険に加入はできてしまう可能性があるということです。
ただ、がん保険は加入することが目的ではありません。今回の事例のように、大腸がんが発覚して手術を受け、術後に抗がん剤治療でお金がかかってしまったときにそのお金を肩代わりしてもらう、そのためにがん保険に加入するのです。
すべて自己責任のネット経由の保険加入
10ヵ月前松下さんはネット経由で手続きできる保険会社のがん保険に加入しました。しつこい勧誘もなく、ネット上でさまざまなプランや毎月の費用負担(保険料)のシミュレーションを行って、自分なりに満足したうえで決めることができました。
そして保障内容や重要事項の説明なども画面上で確認し、理解したうえで申し込んだつもりでした。便潜血の指摘についても隠すことが目的ではなく、そこまで大事な情報なのかどうかがわからないということから「大したことではない」という判断に至り、告知をせずに手続きを完了してしまいました。
当然ですが保険担当者が対応してがん保険に申し込む場合には、必ずありのまま告知することを伝えられるはずです。本来告知書には、自己判断が入る余地はなく、あくまで医師から伝えられたこと、健康診断結果に書かれていることをそのまま転記しなければなりません。
ネット経由の保険契約には実はこういったリスクがあります。もちろんネット経由でも、この告知義務違反による契約解除の説明は必ずされています。ただし、文章で羅列されているだけであること、そして説明事項がほかにもたくさんあることから、流し読みで終わってしまう可能性はあるかもしれません。
がん保険の契約で私が最も起こってはならないと考えていることが、今回の事例のような「がんの宣告を受け、がん治療を受けたにもかかわらず、がん保険が支払い対象外となる」ことです。そして告知義務違反の場合、支払対象外だけではなく合わせて『契約解除』というとても厳しい結果も待っています。
ですからネット経由でのがん保険契約は、すべて自分で内容を正しく理解できるということを前提に選択肢とするべき手段であるといえます。
がん保険加入、少しでも不安・疑問があれば相談を
がん保険は本当にがんになってみないとその真価がわかりません。そのため加入時には念には念を入れて適切な対応をしておく必要があります。今回の事例でいえばネット経由であったので、告知に際し疑問が出たとき、保険会社のコールセンター等に問合せ、確認することが必須であったといえます。
もし自分ひとりでは理解することに不安がある場合には、ネットだけで完結するのではなく、事前に専門家などへ相談するなど慎重に対応することをお勧めいたします。
谷藤 淳一
株式会社ライフヴィジョン
代表取締役
告知義務違反よりも、この女性の(検診に対する)無知のほうに呆れた。周りでだれか早期に助言してやらなかったのか。
そもそも♪持病が有っても入れますって言っても実際告知事項見ると入れませんから♪これも世の中うまい話は無いって事ですかね♪