調査官「今回はハズレだった」…税務調査を“あっという間に終わらせた”相続人のひと言【元国税専門官が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)著者の小林義崇氏は、国税専門官時代に相続税調査を担当していた際、富裕層にある共通点を発見したそうです。今回は小林氏が感じた富裕層の共通点と、国税専門官時代に遭遇した「例外的な富裕層」の税務調査エピソードを解説します。

富裕層が決してギャンブルに手を出さないワケ

ギャンブルよりも投資でお金を増やす

私は相続税調査で富裕層の預金などの動きをチェックしていましたが、多額のお金をギャンブルに突っ込んで損をしているケースを見たことがありませんでした。また、ギャンブルで財を成したという人も、やはり1人もいませんでした。

「宝くじが当たって大金を得ても、結局は残らない」といわれることがありますが、それは本当なのかもしれません。

富裕層の大半は、堅実に仕事で稼ぐ人だったのです。ある程度お金の知識がある人は、ギャンブルをするよりも自分のビジネスや金融資産に投資をしたほうが効率的だとわかっています。

これはライターとして投資家などに取材して感じたことでもありますが、お金持ちほど「成長する資産にお金を投じる」、別のいい方にすると「お金に働いてもらう」ということを徹底している印象が強いです。

株式や投資信託、不動産といった、価値が増すものにお金を投じることは、「プラスサムゲーム」と呼ばれます。プラスサムゲームとは、取引の参加者全員が利益を上げられることをいいます。

自分のビジネスにお金を投じて成功すれば、社長はもちろん、株主や従業員など、みなが恩恵に与れます。株式投資も、お金を投じた企業が成長すれば、その会社の株主全員が利益をあげられます。

このようなプラスサムゲームに類する投資については、政府もつみたてNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの優遇税制措置などを通じて支援しています。経済成長の恩恵を受け、税負担を抑えられるという意味で、プラスサムゲームは理にかなっています。

一方、ギャンブルは「マイナスサムゲーム」と呼ばれます。マイナスサムゲームとは、参加者の利益と損失を合算すると、マイナスになることをいいます。たとえば競馬であれば、賭け金のうち20%以上をテラ銭(胴元のとり分)としてJRA(日本中央競馬会)がとり、残りを賭けた人たちで分配するしくみになっています。

宝くじが「貧乏人に課せられる税金」と揶揄される理由

ちなみに宝くじのテラ銭は、さらにその割合が高いです。

宝くじ公式サイトによると、2021年の当せん金としての還元率は46.2%、つまり半分以下です。あとの114.9%は印刷経費や手数料などの経費として使われ、37.5%は公共事業等、1.4%は社会貢献広報費として使われているのです。

これでは、理屈からいって儲かるはずがないと考えるのが合理的でしょう。

そして、たとえギャンブルで勝ったとしても多額の税金で利益の多くが失われます。

競馬などで得た利益に対しては、所得税と住民税を合わせて最大で55%が税金でもっていかれる計算です。

宝くじの当せん金は「当せん金付証票法」という法律(通称・宝くじ法)によって非課税ですが、そもそも当たる確率はギャンブルより低いとも考えられます。これが「宝くじは貧乏人に課せられる税金」と揶揄()されるゆえんです。

このように比較をすると、富裕層がギャンブルに手を出さず、株式投資などにお金を投じている理由がわかるのではないでしょうか。趣味レベルであればまだしも、資産を築く目的からすると、ギャンブルは明らかに避けるべきものです。

私もギャンブルは一切しません。やってみると楽しいかもしれませんが、どれくらいお金を失うかが読めないと怖いので、やる気にならないのです。きっと性格的にギャンブルに向いていないのだと思います。

国税職員時代にパチンコが好きな先輩がいましたが、富裕層にならってのことか、自分で中古のパチンコ台を買って自宅で楽しんでいたそうです。あれはギャンブルではなく、純粋な趣味といえるでしょう。

ギャンブルでお金を失っても証拠を残す

「富裕層はギャンブルをしない」というのが私の基本的な認識ですが、もちろん例外もあります。

あるとき、相続税調査に出かけた先輩が、午後の早い時間帯に税務署に帰ってきたことがありました。相続税調査は基本的に午前も午後も1日たっぷり時間をかけて行うので、気になってその先輩に「どうしたんですか?」と尋ねたところ、「今回はハズレだった」といいます。

税務調査官「今回はハズレだった」の真相

先輩が調査していた案件は、生前の収入などに比べて申告された相続財産があまりに少なく、“隠し財産”が見込まれるものでした。

ところが、意気込んで相続税調査のため自宅に出向いたところ、残された奥さんから聞かされたのは、「亡くなった夫は競輪にハマってしまって……」という愚痴だったそうなのです。

仕事を引退した後、老後の趣味として競輪をやってみたら、のめり込んでしまったとのこと。そうした説明をして奥さんが見せたのが、競輪のハズレ券が詰まった袋だったそうです。

その袋のなかから大量のハズレ券をとり出して、負けた金額を電卓でざっと計算した先輩職員は、「それはご苦労されましたね……」といって引き上げるしかなかったほどの金額だったそうなのです。

このようにギャンブルで資産を大きく減らすような事態は絶対に避けたいところですが、もし実際に起きてしまったら、あの奥さんのように「ギャンブルで負けた」という証拠を残しておかなくてはいけません。なぜなら、国税調査官は「もっと財産があるはず」という想定のもと相続税調査をしているからです。

この意味から、ギャンブルなどで財産が失われているのであれば、その事実を示すことが求められます。

たとえば亡くなった被相続人が競馬で大負けしたのであれば、その負けた履歴を示せば、税務職員が「これ以上調べても財産は出てこない」という判断に至り、相続税調査は早く終わるでしょう。このように財産を失った証拠を残しておくことは、遺産分割でもめるのを避けるためにも役立ちます。

遺産分割の場面では、相続人同士で疑心暗鬼になりがちです。亡くなった被相続人の預金残高があまりに少ないと、離れて生活をしていた家族から「もっとあるはずだ。隠しているだろう」と思われかねません。

富裕層の家庭では、家族が心のどこかで遺産に期待をするのは無理もないでしょう。なかには、遺産をあてにしている人がいるかもしれません。そのような状況で、フタを開いてみたら財産がなかったとなると、やはりトラブルにつながることは容易に想像できます。

ありもしない財産を理由に家族が争うとしたら、これほど残念なことはありません。お金の失敗について子どもたちに明かしたくない気持ちはわかりますが、後でトラブルが起きることを考えると素直に話したほうがいいのです。

この事例にならって、私は自分の収入を妻にありのまま伝えています。というのも、お金があるのに無用の心配をかけるのも、逆に厳しい状況のときに過度に期待されるのも嫌だからです。公務員のときと違って収入が一定ではありませんから、きちんと伝えておかないと、いずれ誤解が生じかねません。家族は一蓮托生()の運命共同体ですから、妙な見栄を張ってもしかたがないのです。

小林 義崇

マネーライター

Y-MARK合同会社代表/一般社団法人かぶきライフサポート理事

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