世界の投資家が注目する日本バリュー株の品質、類似ファンドを成績で上回ってきた「黒潮」が着目する企業価値とは?

世界の投資家が注目する日本バリュー株の品質、類似ファンドを成績で上回ってきた「黒潮」が着目する企業価値とは?

「大和住銀 日本バリュー株ファンド(愛称:黒潮)」の運用を担当する同社運用部バリュー+αグループのシニアファンドマネージャー部奈和洋氏に、日本株式市場の変化と同ファンドの運用の特徴について聞いた。(グラフは、「黒潮」のパフォーマンス推移)

 世界的に「インフレ」、そして、「金利上昇」の局面を迎え、株式市場の流れが変わってきた。米国ハイテク・グロース株(成長株)に下落する銘柄が増える一方、バリュー株(割安株)の見直しが進んでいる。その中で、世界の機関投資家から注視されているファンドがある。三井住友DSアセットマネジメントが設定・運用する「大和住銀 日本バリュー株ファンド(愛称:黒潮)」は1999年7月の設定で、約23年にわたって日経平均株価を上回るパフォーマンスを残してきた。同ファンドの運用を担当する同社運用部バリュー+αグループのシニアファンドマネージャー部奈和洋氏は、同ファンドの優れたパフォーマンスの理由について、「日本株のバリューの質の高さ」と語った。そして、「今、日本のバリュー株に世界の機関投資家が注目している」という。部奈氏に、日本株式市場の変化と同ファンドの運用の特徴について聞いた。

 ――「黒潮」を運用する運用部バリュー+αグループは、機関投資家が参照するファンドのデータベースにおいて、先進国株を対象としたバリューファンドの中で、1位~2位の成績(過去1年、3年、5年)に入る極めて優れた成績を残し、海外の機関投資家からの関心が高まっていると聞きました。ここへきて日本株に関心が高まっているのはなぜですか?

 日本企業の変化が海外投資家にもわかってきたのだと思います。そもそも日本株が割安であることは世界の投資家に広く知られていましたが、今年に入って急速に進んだ円安が、日本株の割安度合いを一段と強める効果があり、海外投資家の日本株買いが強まっています。

 「日本企業が変わった」と感じられる象徴的な出来事として、2021年10月に日本製鉄がトヨタ自動車を提訴したことが挙げられます。日本企業の代表といえるトヨタ自動車に歯向かうような企業は、これまで皆無でした。実際、鉄鋼業界はトヨタ自動車向けに鋼板を非常に安い価格で納品してきました。トヨタ自動車に使ってもらえることがステイタスにもなっていたのです。そのような関係にあるトヨタ自動車を鉄鋼会社が訴えたことで、付加価値に対する正当な評価を求めるようになったという変化が感じられます。トヨタ自動車にすら弓引く企業が現れたというのは、日本の産業界にとってものすごく大きな変化だと思います。

 また、日清オイリオグループは、日常的に家庭で使うサラダ油の大手ですが、昨年4回、今年も2回の値上げを発表しています。これまでは、健康系のアマニ油やゴマ油などの好調もあって、どんなに経営が厳しくとも値上げなどは考えもしなかった会社です。昨今の穀物価格の高騰で「今のままでは設備投資ができない」と遂に値上げに踏み切りました。さらに、ライバル会社と業務提携を結ぶなど、これまでには考えられない大胆な動きを始めています。

 このような変化が多くの日本企業で起きています。「コロナ禍」は、世界に大きな変化をもたらすきっかけになりましたが、日本企業にとっては変化が良い方向に働いているケースが少なくないと思います。

 ――日本企業が変わったという話は何年も前から言われています。それでも日本株は上がらなかったのですが、これからは日本株の上昇につながってくるのでしょうか?

 国連責任投資原則(PRI)が2006年に提唱されガバナンス(企業統治)などの意識が高まり、現在に続くESG(環境・社会・ガバナンス)投資の世界的な流れができました。2014年8月に経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書(伊藤レポート)が出て、ROE(自己資本利益率)に対する関心が高まり、2015年に情報開示の強化などを求める日本版コーポレートガバナンスコードも導入されました。これらが、日本企業を変えるきっかけになったといわれますが、PRI以来15年にわたって続いてきた変化の動きが、コロナ以降に加速しているのです。

 日本株が上がらない理由として「日本のデフレ」がいわれます。モノの価値が上がらないので、株価も上がらないという理屈です。ただ、昨年から今年にかけて、モノの値段が上がってきました。日本もインフレになって、株式市場のムードが変わってきました。

 しかし、企業物価指数はもっと前から上昇しています。これまで企業間で物価が上がっていたものを企業努力と賃金を据え置くことによって消費者物価に響かないようにしていました。企業物価はアベノミクスが始まった2012年に上昇に転じ、そこから日本株も上昇してきているのです。そして、消費者物価指数も明確に上昇し始めた今、日本株の上昇も、今後さらに大きくなっていくのではないかと思っています。

 ――「バリュー株」(割安株)は、「グロース株」(成長株)と比べて優位な期間が短く、投資手法として魅力が薄いように感じます。

 確かに、パフォーマンスが優位にある期間でみると、「グロース株」優位の期間が長くなります。しかし、「グロース株」が優位な期間であっても「バリュー株」は上がっています。「グロース株」と比較して上昇率が鈍いだけです。そして、「グロース株」は価格変動率が大きく、大きく上げて大きく下げる傾向があります。相対的には値動きが安定的に推移する「バリュー株」は、数年という期間でみると、「グロース株」とそん色のないパフォーマンスになります。

 ――「バリュー・トラップ(バリューの罠)」という言葉があり、割安株は割安なままいつまでも株価が上がらない場合があります。「黒潮」がバリュートラップを避けられる理由は?

 「黒潮」を担当している「バリュー+α」チームは、PBR(株価純資産倍率)とROEの関係でみて割安な銘柄群に注目していますが、もっとも重視しているのは企業の「変化」です。私たちは、企業が大きく変化する時の株価の大きな変化をじっくり待って取りに行きます。バリュー投資をするアクティブファンドの中には、投資銘柄の回転率が100%を大きく上回るものもありますが、「黒潮」の年平均回転率は50%程度です。昨年は25%でした。じっくり長期に保有する運用の特徴が表れていると思います。

 そして、変化を見極めるために、日頃の企業との直接コンタクトは必須です。ファンドの歴史が長いこと、また、この間、私どもの運用姿勢が一貫していることで、私どもの取材に対して企業のトップが応じてくださるようになっています。そして、私どもの提案にも、真摯に向き合ってもらえるようになりました。バリュー・トラップを避けるという点では、このような継続的なエンゲージメント(企業との対話)の実績があります。

 さらに、変化を見逃すことがないように、AI(人工知能)を使って企業のIR(投資家向け情報開示)情報を広くデータとして読み込み、変化のある銘柄をピックアップするシステムを独自に開発しました。AIが変化を知らせた銘柄は、重点的に周辺情報を集め、面談等を通じて変化の実態を明らかにします。AI導入によって、有望銘柄を見逃すような失敗は少なくなっています。

 ――現在の市場環境は、バリュー投資家に優位ですか?

 2022年の年初からグロース株が大きく値崩れしました。22年3月から米国は利上げを開始し、当面は利上げ局面が続くと予想されています。金利上昇局面は、グロース株に逆風となり、バリュー株の追い風ということはできます。実際に、年初から当ファンドの基準価額はゆっくりと上昇しています。

 バリュー株が勝ちやすい環境になったからバリュー株ファンドに注目というより、投資には「スタイル分散」というリスク管理の仕方があり、グロース株一辺倒になってしまっている方は、分散投資の一環としてバリュー株にも注目していただきたいと思います。

 バリュー株の中では、日本株が品質の高いバリュー株として世界的に定評があります。米国のバリュー株の多くは、何らかの問題を抱えているため株価が割安に放置され、バリュー・トラップの罠が多いのです。それと比べると、日本のバリュー株は、トヨタ自動車をはじめ、経営がしっかりしている銘柄が多くあります。

 そもそも「バリュー株」を「割安株」と翻訳するのは無理があります。文字通り「価値のある株式」なのです。日本企業は、そもそも高い価値を持っていたのですが株価が割安で、さらに、本来の価値を高める変化が表れています。その変化は企業のROEの向上につながります。一般にROEが8%前後でPBRは1倍程度ですが、ROEが15%に高まるとPBRは2倍に跳ね上がります。このROEを2倍に引き上げるような変化が、今の日本企業で起きています。ぜひ、日本株に注目していただきたいですし、中でもバリュー戦略に注目していただきたいと思います。(グラフは、「黒潮」のパフォーマンス推移)(情報提供:モーニングスター社)

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