米景気は本当に弱いのか? 来年は日米比較で米ドルが買い戻されよう=外為どっとコム総研

米景気は本当に弱いのか? 来年は日米比較で米ドルが買い戻されよう=外為どっとコム総研

外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「市場が落ち着きを取り戻せば、来年は緩やかなドル高に戻る動きになるだろう」と見通す。

 外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「株価の下落をきっかけに1ドル=110円寸前までドル安・円高になったのは、広い意味でのポジション調整の一環」とみている。「株価の落ち着きどころを確認しないとドルが下げ止まったと言い切ることはできないが、市場が落ち着きを取り戻せば、来年は緩やかなドル高に戻る動きになるだろう」と見通す。神田氏の見解は以下の通り。
 
 ――株価の下落を受けて急落したドル/円の動きをどうみる?
 
 足元の動きは、ドルが売られ、世界的に株価が下落し、アメリカの国債を買う動きが強まったというものだった。このため、ドル/円は一時、1ドル=110円にタッチする寸前まで下落した 。この動きは、広い意味では、ポジション調整の一環だとみている。
 
 ドル/円相場自体は、夏以降は大きく動いていなかったが、ユーロ、ポンドなどの下落によって、ドル・インデックスは、12月になって1年半ぶりの高値を付けていた。投資家のドル買いポジションが積み上がっていたと考えられる。 
 
 一方でアメリカの株価は、主要3指数は10月に揃って史上最高値を更新するなど買いが膨らんでいた。アメリカの10年国債利回りも10月に約7年半ぶりの水準となる3.26%まで上昇していた。米国債の売り持ちがかなり膨らんでいた状況だ。
 
 アメリカ株の代表的な指数であるS&P500の配当利回りは2%ちょっとの水準になり、長期金利が3.26%という状況であったため、株式から債券への資金シフトが起きる下地は整っていた状況だった。
 
 そこへ米中貿易戦争の余波で中国景気がスローダウンする懸念が強まった。中国景気が減速すると、結びつきの強いヨーロッパの景気も変調を来たしかねない。その中で、「1強」と言われていたアメリカ景気も、ここへきて陰りがでてきたのではないかと受け取られ始めてきた。これらが呼び水となって、これまで買われていた株価やドルが売られ、売られていた債券が買い戻されるという流れになった。
 
 ドル/円相場は110円ちょうど付近まで下げたが、今年の安値が104円半ば、高値が114円半ばなので、この真ん中が109.55円程度であり、今回の下落水準は、ちょうどいいところまでは調整してきたという感じがしている。
 
 ポジション調整が年末に向けた動きであれば、この辺でそろそろ収束していくのではないかとみている。目先は、株価と国債利回りの水準に注目していきたい。株価がどの辺で下げ止まるのか? 長期金利が再び 上昇するようなことになった場合、そこに株価が耐えられるのか? これは動きの落ち着きどころを見てみないと何ともいえない。株価の不安定な動きが続くようだと、ドル/円の上値は重くなってしまうだろう。急激な回復は見込みにくい状況だと思う。当面は、109円〜112.50円くらいを予想する。
 
 ――来年のドル/円の展望は?
 
 少し長い目でみると、より重要なのはアメリカ景気が本当に減速しているのかということになる。外部環境として、12月下旬のように株価が下がり続ける、金利が下がり続けるということは続かないので、ここから先は、アメリカの景気動向が来年の注目点になってくる。
 
 ただ、世の中で言われているほど、アメリカの景気に陰りが見え始めたという風には見えない。12月に発表になった経済指標を見ても、雇用統計はまずまず、小売売上高は絶好調だった。それほど、大きく落ち込んでいる指標はなく、むしろ、堅調を維持しているように見えた。来年以降は、経済指標が支えになるのか、重石になるのかを見極めたいということになるだろう。
 
 来年の基本シナリオは、「アメリカ景気は、減速はしても後退はしない」と思っている。FRBは利上げを休止 することはあっても利下げすることはないだろう。ドルは、買い持ちの手仕舞い売りはあっても、新規の売りは増えにくい。したがって、ドル/円の調整がある程度進めば、ドル高・円安方向に戻るであろうというのが、来年の大きな見通しだ。
 
 反転の時期を特定することは難しいが、年前半に重要イベントが重なっている。3月を期限として米中の貿易協議が行われ、3月末にはブレグジットが予定されている。この辺を通過すれば、投資家心理は、年末に悲観に傾いた流れが改善していく方向に向かうだろう。そうなると、日米の景況感の格差、金利の格差が焦点になってきて、ドル高・円安に戻りやすくなってくるとみている。
 
 日本は消費増税を控えて日銀は金融政策の正常化は無理だろうし、FRBはトランプ大統領の批判はあるものの、まだ、来年2回の利上げの方針を掲げている。通常モードでみれば、ドルが強いとみるのが自然だ。
 
 日本では過去消費増税の後は、景気の落ち込みが避けられなかったので、再来年に向けて日本の景気は厳しくなってきそうだ。もちろん、アメリカ景気が急減速してFRBの利上げができないような状況になってしまうようであれば、基本シナリオを根本から改める必要があるが、その可能性は非常に低いと考えている。
 
 米国の2004年から06年の利上げ局面では、06年に利上げを打ち止めて、次の利下げまでは1年以上の期間が経過している。金利の高い水準をしばらく据え置いていた。この間は、ドル高・円安に振れている。いわゆる円キャリートレードといわれた時代で、金利が高い通貨を買って、円を売るという動きが強かった。状況としては、それに似てくるのではないだろうか。
 
 来年の予想レンジは1ドル=108円〜118円で、年の前半にドルが売られるような不安定な時期を経験し、年の後半には緩やかなドル高に戻っていくと考えている。
 
 ――英ポンドは比較的落ち着いているが、今後の動きは?
 
 焦点になっているのは、メイ首相がEUと合意した離脱の協定案がイギリス議会で承認されそうにないということだ。議会は今のところ休会に入っているので、大きな動きは出ないだろうが、1月21日までに採決するということなので、ここへ向かって年明けとともに活発な議論が始まり、同時にポンドはかなり大きく動くのではないかと思われる。年明け早々から報道内容に一喜一憂するような展開になりそうだ。
 
 アイルランドの国境の問題、バックストップと言われている問題だが、この内容は、2020年までの移行期間の間に国境問題が解決できなかった場合に、EUが国境を管理するというもの。「国境問題が解決できなければ」という仮定の話のその先にあるEUによる国境管理でもめている。仮定の話のその先の話なので、何等かの妥協点を見出すことは可能なのではないかと思える。議会も離脱を全面否定しているわけではない。アイルラインドのバックストップの問題で、EUに国境を管理されることを嫌がっているだけだ。そこには落としどころはみつけられるのではないだろうか。
 
 とはいえ、解決できないと、3月末まで残り2カ月なので合意なき離脱の可能性が急速に高まってくる。一方で、離脱そのものを延期する選択肢もある。イギリス議会で承認が得られないと、こちらのシナリオも表面化してくるだろう。いずれにしても、1月21日 までに行われる議会採決に向けて大きな変化があるだろう。
 
 議会で承認が得られれば、秩序のある離脱になるので、ポンドは買われるだろう。離脱延期でも一旦は買戻しが入るとみる。合意なき離脱の場合は、ポンドが売られることになるだろう。この行方は、なかなか読めない。年明けはポンドが不安定になりそうだ。
 
 ただ、2016年6月の英国のブレグジット国民投票や16年11月のアメリカ大統領選挙の時を振り返ると、結果は 市場が望まない結果になったのだが、その結果が出たところが ポンドやドルの底となり、その後は切り返している。今回も、合意なき離脱になっても、世の中で言われているような、空港が閉鎖されて飛行機が飛ばないというような状況が長く続く可能性は低いと思う。相場は最悪の事態を想定して身構えるが、実際には思ったほど悪化しなかったということに落ち着くのではないだろうか。
 
 そう考えると、3月29日に合意なき離脱になっても、そこで底を打つポイントになる可能性があると思う。もっとも秩序だった離脱で合意できれば、3月を待たずにポンドは上昇しているだろうから、その場合は、BOEの利上げ観測を絡めながら、ポンドが買い戻されることになるだろう。ポンドが安くなったため、物価が高くなっている部分があるので、BOEは利上げしてポンドを高めに持っていきたいという考えがある。通貨安への対抗措置が出てくる可能性があり、これまで大きく売られている分、戻りの余地 も比較的大きいのではないだろうか。
 
 当面は、ブレグジット後の16年後半の安値が下値である1ポンド=135.50円が下値のメドで、上値は1ポンド=145円くらいまでありそうだ。

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