武者陵司のストラテジーブレティン 「新大統領は米国の新時代を開くか?」


―新たなドル高、株高、金利上昇の時代に―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

●恵まれた次期大統領の発射台

 米国経済は人々の悲観的観測とは裏腹に、極めて恵まれた条件を備えている。(1)情報インターネット革命に支えられた空前の企業収益、(2)世界最強のイノベーションに基づく産業競争力、(3)低金利かつ潤沢な投資余力(=高貯蓄)、(4)健全化した財政、(5)抑制されたインフレ、等である。これらの好条件を自由に駆使して次期米国大統領は、豊かな経済便益を国民に提供できる有利な立場にある。当社は、トランプ氏であれヒラリー・クリントン氏であれ、次期米大統領は経済成長率の加速、株高、ドル高を実現できる可能性が大きいと考えてきた。

 米国の経済成長率が高まらないことや経済長期停滞論、格差拡大、白人貧困層の不満、過剰な金融規制によるリスクテイクの困難性等は、本質的困難ではなく、上記の好条件を駆使すれば解決可能な事柄である。

 また、オバマ大統領が米国はもはや世界の警察官たり得ないと述べ、あからさまに覇権を誇示する姿勢を控え、他方で米国が主導している国際秩序が挑戦されつつあることが、米国の地盤沈下の証ととらえられている。しかし、それも米国の軍事力の低下というよりは、力の行使の問題であり、修正は可能である。

 次期大統領がトランプ氏に決定した今、米国の政治と経済の新たな胎動を想定する必要がある。トランプ氏勝利が決定的となり同氏の保護主義的スタンスへの懸念からアジア市場では大きく売られたドルと日本株、米国株式先物が、ニューヨーク時間で完全に下落分を埋め戻したことは、トランプ氏であっても、予想される政策は市場フレンドリーなものになる可能性が高いことを示唆している。

●レーガン政策との類似性、財政・規制緩和・軍事力増強

 トランプ氏の攻撃的発言、矛盾し到底実現できそうもない断片的政策、政治経験がなくはっきりしたアドバイザーも見当たらないこと等、今後の政権運営には不確実性や不安がある。しかし、選挙が終わった今、有権者を引き付けるために使ったレトリックは排除され、整合的、実現可能な政策体系が形成されていくことは間違いない。それがどのようなものなのか。

 トランプ氏の台頭をもって伝統的共和党が崩壊したなどとする見解がみられるが、むしろ台頭の経緯や政策において、トランプ氏とレーガン大統領との類似性に着目したい。1980年大統領に当選した、反共タカ派のレーガン氏は、それまでのワシントンが主導した東西冷戦雪解け協調ムードを批判し、ソ連を「悪の帝国」と呼び、軍拡競争を仕掛け国防費を大幅に増額した(ソ連はその軍拡競争に敗れ体制崩壊に至ることになる)。

 軍拡と同時に国内経済の建て直しのための大幅減税と規制緩和が実施され財政赤字が拡大した。またインフレ抑制のための金融引き締め、その結果としてのドル高というポリシーミックス、レーガノミックスが展開された。

 それは新自由主義的小さな政府を志向し、サプライサイド改革をしながら、ケインズ的需要政策を遂行するという、当時の経済理論からすれば矛盾に満ちたもので「ブドゥー(呪術)経済学」と批判されたが、経済と地政学の両面で大きな成果を上げた。

●米国覇権を強化する

 トランプ氏の政策骨子を素描すれば、(1)強い覇権国アメリカの威信復活、軍事力増強、(2)財政支出拡大による景気刺激、(3)規制緩和、金融規制の撤廃、エネルギー規制の撤廃など、レーガン政策との共通性が目立つ。相違点はTPP反対など保護主義的傾向、海外同盟国に対するコストの要求など孤立主義的傾向があることであるが、この保護主義的、孤立主義的傾向は容易に軌道修正されるだろう。

1) 景気と雇用を良くする→財政活用、大きな政府、減税・インフラ投資・国防支出。金融緩和に批判的、だがウォール街のリスクテイクを抑制する規制(ドットフランク法)には反対。

2) 米国の格差拡大、貧困層の雇用問題を解決するカギは、国内投資の復活。(A)老朽化したインフラの更新・新規投資、(B)また、ここ数年投資の足かせになったエネルギー投資の底入れ、(C)持ち家比率の上昇による住宅投資の増加、という国内ハードウェア3分野の投資が米国潜在成長率を押し上げよう。トランプ流の格差、貧困対策は所得再分配ではなく、貧困層向けの雇用創造になるのではないか。それは金利上昇とドル高の推進力になる。

 また、金融緩和政策に批判的である一方、ドット・フランク法に反対しているが、それは的を射た政策であろう。金融市場が停滞し投資が低迷している一因は、リーマンショック以降の過剰な金融規制と資本基準の厳格化により、金融機関と投資家がリスクテイクできなくなったことにある。これを撤廃することで、リスクテイクが一気に促進され市場の活性化につながるだろう。

3) 米国覇権の再構築→国防支出上限の撤廃、軍備増強を主張している。ただし、国際公共財のコスト・役割を精査し、同盟国にも応分の負担を求めている。孤立主義どころか、むしろプレゼンスの向上、覇権の強化を目指していることは明らかであろう。トランプ氏のMake America Great Again、自信を失いプレゼンスを低下させている米国の最強の超大国の復活、というメッセージは明確である。

4) となれば、孤立主義、保護主義的公約は維持できなくなる。これらの主張は選挙用のレトリックであった可能性が濃厚なのではないか。

●日本株に絶好の追い風

 就任直後のトランプ大統領は2018年中間選挙、2020年次期選挙をにらみ、国内でかなりのリフレ政策を展開するだろう。議会での共和党多数確保はより政策の自由度を高める。2017年は米国成長率加速が予想される。海外に利益を留保している多国籍企業の国内所得還流を促し、それをインフラ投資原資とする公算大。米国経済回復とFRB利上げ(12月プラス2017年年央の公算)に加えてインフラ投資が具体化し、米金利上昇とドル高トレンドが顕在化しよう。

 日本でもアベノミクスの第二弾による財政金融総動員のリフレ政策が本格化、労働需給・不動産需給改善による賃上げ、家賃上昇に加え、円安と原油価格の下落一巡により、物価上昇率は高まるだろう。実質金利の低下は、国内のリスク資産投資を大きく鼓舞すると考える。

(2016年11月10日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン171号」を転載)

株探ニュース

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