中国がスーダン企業をフロント化 変わる世界の武器市場 背後にはオイルマネーの力も

中国がスーダン企業をフロント化 変わる世界の武器市場 背後にはオイルマネーの力も

MICスーダンが「IDEX2019」に出展した野戦救急車「SARSAR」(竹内 修撮影)。

中東で開催された防衛装備品の展示会にブースを構えたスーダンの企業、実はバックに中国がついているそうです。同会場では中国企業も見られ競合するように思われますが、そこには中国のある思惑が見え隠れしていました。

スーダン企業がトヨタ車を装甲化して救急車に その背後には…

 2019年2月17日(日)から21日(木)までの5日間、UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビで、防衛装備品展示会「IDEX2019」が開催されました。

 2年に1度、奇数年に開催される「IDEX」は、アメリカやヨーロッパ、ロシア、中国といった国々の大手メーカーはもちろん、地元UAEをはじめとする中東諸国やアジア諸国、アフリカ諸国などのメーカーも出展する、世界最大級の防衛装備品展示会です。その「IDEX」に、アフリカ・スーダンの総合防衛企業「MICスーダン」が、トヨタの四輪駆動車「ランドクルーザー」をベースに開発した野戦救急車「SARSAR(サーサー)」を出展しました。

「野戦救急車」とは、砲弾や弾丸が飛び交う前線で負傷した兵士に応急措置を施し、後方の病院まで安全に搬送するため、ボディを装甲化した救急車です。MICスーダンは過去の「IDEX」にも、韓国メーカーの四輪駆動車をベースとする偵察用軽装甲車や、ロシアメーカーのトラックをベースとする装輪式自走砲など、外国製の自動車をベースにした軍用車輌を出展していますが、日本メーカーの自動車をベースとする軍用車輌は「SARSAR」が初となります。

 スーダンは豊富な石油資源を持つ国でしたが、2011(平成23)年7月に石油資源の約80%が埋蔵されているスーダン南部が「南スーダン」として独立。また相次ぐ内戦や、アラブ系住民と非アラブ系住民の対立によって発生した「ダルフール紛争」において、スーダン政府が民間人を大量虐殺したことに対する経済制裁などにより、近年、経済は破綻状態にあります。このためスーダン政府は、外貨獲得の手段として兵器の輸出に力を入れており、世界中から軍や防衛当局者が集まる「IDEX」で、野戦救急車「SARSAR」をはじめとする多種多様な防衛装備品のアピールに努めたというわけです。

急成長の裏に中国の影

 筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は2015年から「IDEX」を取材していますが、回を重ねるごとに、MICスーダンの出展する防衛装備品はレベルが上がっているように感じられます。お世辞にも工業国とはいえないスーダンが、防衛装備の分野で急激に力を付けている理由のひとつとして、国防大学の設立資金を援助するなど、国防面でスーダンとの結びつきを強めている中国からの技術移転を挙げることができます。

 中国は、1950年代ごろから防衛装備の輸出を行なってきましたが、かつての中国製防衛装備品は旧ソ連製のコピーなどが多く、価格は安いものの性能面では、旧西側諸国の製品や旧ソ連製のオリジナル製品に比べて見劣りがしていました。

 しかし後にも述べるように、2019年現在の中国製の防衛装備品は、性能面でも欧米やロシアのメーカーに匹敵するレベルにまで向上しています。ただ、性能が向上したぶんだけ価格も上がり、また操作に高度な訓練が必要になるなど、これまでおもな輸出先としてきたアフリカなど発展途上国の軍隊には、手の届きにくい製品となりつつあります。

 ファッションの世界では、高所得層を対象としたファーストラインとは別に、より安価なセカンドラインを設けるブランドが少なくありませんが、中国はNORINCO(中国北方工業)などの自国メーカーが開発・製造する、高性能で高価格な防衛装備品をファーストラインと位置づけて、資金に余裕のある中東の湾岸諸国などを相手に販売し、MICスーダンが開発・製造する、性能面ではやや見劣りがするものの、安価で扱いやすい防衛装備品をセカンドラインとして、資金の余裕が無いアフリカ諸国に販売していくことを考えているようです。

 中国の、アフリカ諸国に対する防衛装備品の輸出に関しては、アメリカ軍でアフリカ地域を担当した元司令官、カーター・ハム陸軍大将のように、輸出先の正規軍における抑止力が強化され、地域の安定化につながると評価する声がある一方で、防衛装備品の安易な供給が地域の不安定化をもたらしている、という批判も根強くあります。中国にとってMICスーダンはこうした批判から身をかわす、絶好の隠れ蓑になるともいえます。

背景にはもちろん中国の急成長、それを促すオイルマネー

 中国の防衛装備品メーカーは、ヨーロッパの防衛装備展示会にはほとんど参加していません。このためヨーロッパを中心に取材活動をしている筆者は、「IDEX」でしか中国製防衛装備品の実物や模型の展示を目にする機会が無いのですが、今回の「IDEX」でも、アメリカやヨーロッパ企業に匹敵、さらには一歩先を行く防衛装備品の展示を目の当たりにして、中国の防衛装備品開発技術の急成長を改めて実感しました。

 具体的には、たとえばドローンやUAV(無人航空機)などに対処する、出力10kwから30kwのレーザー防御システム(いわゆるレーザー兵器)「サイレントハンター」、地上からの発射後30分間、上空で滞空できるミサイル「CM-501XA」、多数の無人機が群れをなして攻撃を行なう「スウォーム」技術を取り入れたUSV(無人水上艇)「XLOONG」、横揺れが少なく甲板面積を大きくできる、3つの胴体を甲板で並行に繋いだ三胴船の「3000トンフリゲート」といったものが挙げられます。

 こうした最先端の防衛装備品の開発には、当然のことながら巨額な資金を必要としますが、その資金の一部は「IDEX」の開催国であるUAEをはじめとする、湾岸産油国からもたらされています。

 中東諸国には、原油の輸出で得た資金を活用するための投資ファンドが多数存在していますが、いくつかのファンドは兵器メーカーが開発、製造する製品に対する出資も行なっています。

 これまで投資ファンドの出資先は、アメリカや西欧の企業の製品が中心でしたが、近年では中国企業への投資も増えつつあり、中国のUAV「翼龍」などの開発に出資しているほか、今回の「IDEX」では、中国とUAEが共同で、防衛装備品技術の共同研究機関を設立していたことが明らかにされています。

 いまのところ湾岸産油国にとって中国は、欧米諸国やロシアと同様、防衛装備品やその技術の供給国のひとつという位置づけですが、中国が湾岸産油国から得た資金で防衛装備品の技術力を高め、また日本の重要な資源の供給源である湾岸産油国とのあいだで、防衛装備品の輸出や技術供与を通じて結びつきを強めているという現実は、日本にとって軽視できる話ではないと筆者は思います。

【写真】安さと扱いやすさがウリ、MICスーダンのロケット砲

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